厚生労働省は、時間外労働削減の参考となるように「長時間労働の削減に向けて」というパンフレットを使用者向けに作成しています。働き方改革を進めるためのツールのひとつですが、政府としては、どのような観点から時間外労働の削減に取り組むべきとしているのでしょうか。

パンフレットの内容を確認しながら、実際に時間外労働の削減に取り組み成果を出している企業の例を見ていくことにしましょう。

1.誰のための長時間労働削減?厚労省パンフレットに違和感

パンフレットでは、以下の7つを長時間労働の解消に必要な点検事項として挙げています。

  ●36協定は限度基準などに適合したものとなっていますか?
  ●労働時間を適正に把握していますか?
  ●年次有給休暇の取得を促進していますか?
  ●産業医や衛生管理者などを選任していますか?
  ●衛生委員会などを設置していますか?
  ●健康診断や健康診断結果に基づく適切な事後措置などを実施していますか?
  ●長時間にわたる時間外・休日労働を行った労働者に対し、医師による面接指導などを実施していますか?

各点検事項は使用者がなすべき行為です。そして、これらを行わないと違法な長時間労働が生じ、書類送検、労災認定、民事訴訟といった事態に発展しかねないことが具体例を交えて指摘されています。

このようなパンフレットの構成には違和感をおぼえました。「取組を行わないと法的制裁や損害賠償が待ってますよ」というニュアンスを感じます。良く言えば「注意喚起」ですが、悪く言えば「脅し」です。

長時間労働を解消しないと罰せられるから、使用者は何らかの取組を行わなければならないのでしょうか。そんなことはないはずです。そもそも長時間労働の解消は労働者の健康と生活を保護するためのものです。使用者が行う取組は労働者のためのものであって、使用者の保身のためのものではありません。

もっとも、よくよく読んでみるとパンフレットに書かれている具体的な取組事例は、労働者の健康と生活を守る趣旨のものであることがわかります。使用者向けということで、使用者への影響を重視して作成されたのかもしれませんが、労働者の健康と生活の保護という点をもっときちんと表現してもよかったのではないでしょうか。

2.実効性ある長時間労働解消への取組とは?トラック運送業界の好事例

長時間労働の解消策として「ノー残業デー」などの制度を取り入れたという企業が多い中、制度導入ではなく作業工程の見直しによって時間外労働を減少させたトラック運送業界の例を見てみましょう。

トラック運転者は、他業種の労働者と比べて長時間労働の傾向が強く、脳・心臓疾患の労災支給決定件数が最も多い職種となっているなど、労働条件及び安全衛生の確保・改善を一層推進することが課題となっています。そうした背景から、厚生労働省は、平成24~26年度の3年間、トラック運転者の労働条件改善事業として、荷主企業、元請運送事業者及びその元請運送事業者の実運送事業者を含めた協議会を設置し、長時間労働の改善に取り組んできました。

その成果をまとめた「荷主企業と運送事業者の協力によるトラックドライバーの長時間労働の改善に向けた取組事例」では、9つのケースが紹介されています。

これら具体例を通してわかることは、

  ●長時間労働につながる問題点が検証されており、それを解決すべき課題に設定していること
  ●荷主企業及び運送事業者それぞれの立場から、課題解決のための取組がなされていること
  ●企業の取組はドライバーの労働時間短縮にダイレクトにつながるもので、労働者の協力も得られていること

が共通していることです。

運送事業者が荷主企業を巻き込んでこれまでの運用を見直し、ドライバーの働き方改革を実現している点は見事です。業界全体が長時間労働問題に取り組んだ好事例だといえます。課題解決のために見直すべき作業工程を明確にした上で、労使のみならず取引先も含めた協調作業が行われています。

本来の働き方改革とは、このようにあるべきではないでしょうか。こういった取組なくして「ノー残業デー」や「プレミアムフライデー」などの制度だけが導入されても時間外労働が減少することはないでしょう。作業工程の見直しによるアプローチは、すべての業界・企業ができる取組とはいえないかもしれませんが、考え方として是非、参考にしてもらいたい事例です。

3.まとめ

厚生労働大臣は平成26年10月、日本商工会議所及び全国中小企業団体中央会あてに「長時間労働削減をはじめとする『働き方改革』に向けた取組に関する要請書」を送りました。要請書には、「長時間労働の抑制や休暇取得促進のためには、これまでの働き方を見直し、効率的な働き方を進めていくことが必要です。各々の企業において、長時間労働を前提としたこれまでの労働慣行を変え、定時退社や年次有給休暇の取得促進等、それぞれの実情に応じた取組を行うことが望まれます。」とあり、働き方改革を各企業の実情にあわせた取組として行うことを求めていることがわかります。

業界や企業ごとに長時間労働の解消に向けたアプローチは異なります。政府として総論を示すことはできても各論を示すことはできません。個別具体的な取組は各企業に委ねられるのです。そして長時間労働を解消するための方法は、トラック運送業界の例からわかるように、長時間労働の原因に対する直接的アプローチであることが必要です。

政府は方向性を示し必要な情報を提供する。それを参考に各企業は長時間労働の原因に対する直接的アプローチを考え実行する――この当たり前のことを再確認することが使用者に求められているといえるでしょう。

記事制作/白井龍

ノマドジャーナル編集部
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