地方創生において、国が地方に提供しているのは、自治体へのサポートだけではありません。国は「プロフェッショナル人材事業」という施策を打ち出し、企業に対する人材面の手助けまで行っているのです。この事業では、都市部にいる優秀な人材を地方企業と結びつけ、地方経済の活性化につなげようとしているわけです。

でも、ちょっと変だと思いませんか? 日本にはすでに多くの人材ビジネス業者があり、人材紹介が活発に行われています。そのフィールドに、あえて国が乗り出していくのはなぜでしょうか?
今回は、プロフェッショナル人材事業がなにを目指しているのか、地方経済をどう活性化しようとしているのか、じっくり見ていきましょう。

■プロフェッショナル人材事業とは?

プロフェッショナル人材事業は、人材のマッチングの手助けをすることで、地方の企業の成長させようとしています。それによって地域経済を活性化させることが、最大の目的です。

そもそもプロフェッショナル人材というのは、具体的にどのような人たちなのでしょうか? 事業を推し進めている地方創生推進室では、このように定義しています。

新たな商品・サービスの開発、その販路の開拓や、ここのサービスの生産性向上などの取組を通じて、企業の成長戦略を具現化していく人材」(プロフェッショナル人材戦略ポータルサイトより)

新商品の開発や生産性の向上を実現するには、その分野の先端を行くスペシャリストの力が、大きくモノをいいます。また新たな販路の開拓においても、幅広いネットワークを持った人材の力が必要でしょう。このような一芸に秀でた人をプロフェッショナル人材と呼び、彼らを地方に紹介することで、地方経済を底上げするのが、プロフェッショナル人材事業の目的なのです。
地方企業がこれまでできなかったことを、都市部の優秀な人材の力をテコにして実現し、地域経済を活性化させたい―プロフェッショナル人材事業には、こんな思いがあるのです。

■国が人材のマッチングに乗り出す理由

しかし……ここまでプロフェッショナル人材事業のお話をすると、「なにか変だな」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
そう、日本にはすでに民間にも多くの人材ビジネス業者があり、人材紹介はすでに活発に行われています。あえて国が人材のマッチングに乗り出すのは、どうしてでしょうか?

その理由は、民間の人材ビジネス業者の力だけでは、都市部のスペシャリスト人材の地方への還流が、上手く行っていないことにあります。
都市部の人材を地方に招こうとしても、求人情報がよほど魅力的でないかぎり、人材を動かすことはできません。ただ単に「年収●●円、応募資格●●……」といった情報だけで、都会で働くスペシャリストがわざわざ地方に来てくれる可能性は、きわめて低いのが現実です。

しかもこうした人材は、お金や条件の良さだけで会社や仕事を選ぶことはしません。本気で彼らを動かそうとするのであれば、企業がこれから何をしようとしていて、どんな人材が必要かを、熱くアピールしなくてはならないのです。
(都会から地方へと人を動かすのは、それだけ大変なエネルギーを要するということですね)

では、どうしたらいいのか? 人材を引きつけるだけの魅力的な求人を提示するには、仲介者が地方にも拠点をもうけ、地方の企業とじっくり話し合わなければなりません。事業計画や業務内容そのものを、ブラッシュアップする必要があるのです。
とはいえ、民間の人材ビジネス業者がそこまでやろうとしても、コスト面からは現実的ではありません。そこで国が地方創生の一環として人材のマッチングに乗り出し、都市部のスペシャリスト人材を地方へ還流させようとしているわけです。

■各地に「プロフェッショナル人材戦略拠点」を設置

具体的には、各地域に「プロフェッショナル人材戦略拠点」を設けます(運営は都道府県などに委託)。
この戦略拠点が、地方企業の経営者とじっくり対話し、新事業の展開・新販路の開拓など、「攻めの経営」へのビジョンを作るよう促します。
ビジョンが明確になれば自然と、求める人材像も明確になります。
ここまで決まった時点で、各都道府県にある戦略拠点は、民間の人材ビジネス業者、あるいは中央の大企業などに打診します。人材と地方企業のニーズをマッチングさせるべく、調整に乗り出すのです。

■プロフェッショナル人材事業―石川県の実例

ところで今、日本の中で一番勢いづいている地域はどこか、ご存知でしょうか? それは、北陸地方かもしれません。
地元の政財界の悲願であった北陸新幹線が開業し、石川・富山の両県は地域活性化に意欲的に取り組んでいます。新幹線開業による経済効果はもちろん、首都圏との人的交流も容易になりました。政財界のプレイヤーたちは「故郷を飛躍させるチャンス」と意気込んでいるのです。

プロフェッショナル人材事業に関しては、石川県でこんな事例があります(参考:日本経済新聞6月6日付記事)。
樹脂の成型加工会社「石川樹脂工業」(石川県加賀市)は、プロフェッショナル人材事業を活用し、都市部のスペシャリストを「第2工場長」として招聘することに成功しました(2016年4月)。

同社は事業の拡大にあたって、製造部門全体を強化できるスペシャリストを求めていました。そこで石川県のプロフェッショナル人材戦略拠点と話し合い、大手メーカーで製造部門のマネジメント経験を積んできた工場長に白羽の矢を立てたわけです。
今年で64歳となる工場長は、それまで大手電子部品メーカーで勤務し、生産管理などの業務を担当していました。それでも、石川樹脂工業の「ものづくりに夢を持って挑戦している」姿勢に魅力を感じ、転職を決めたといいます。

都市部から地方へ、スペシャリスト人材を招くことは、なかなか難しいことです。
それでも、地方の企業がビジョンを明確にし、情熱を持って呼びかければ、志に共鳴してくれる人材もいます。プロフェッショナル人材事業が有効に機能し、地方の活性化につながることを、期待したいですね。

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)

ノマドジャーナル編集部
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