前回は、地方創生の重要なスキームのひとつ「都市再生」について、北九州市小倉地区の例をご紹介しました。小倉における斬新な地域活性化の試みは、都市再生プロデューサー・清水義次(しみず・よしつぐ)氏の構想に基づくものでした。
清水氏はまず、地区内の不動産オーナーからリーダーシップのある人物を選び、地域振興の「世話人」としての仕事を託しました。その上で、小倉を愛する人たちの力を結集し、リノベーションによる地域の再生を大きく前進させたのです。

衰退地域と見なされていた小倉の復活を実現させた清水氏の手法は、全国から注目を集めています。今回は清水氏の都市再生ノウハウについて、さらに詳しく見ていきたいと思います。

■基本は「人」 ハードよりもソフトを重視

都市再生における清水氏の処方箋は、衰退地区の遊休不動産を活用し、新産業を生み出しつつ人を集め、地域全体の活性化につなげていくのが基本です。空きビル・空き店舗に事業家を呼び込むことで、エリアに消費者を呼び込み、雇用も創出していきます。こうして人を集めることが、衰退地区を復活させるキーポイントだというのです。

ここで注目すべきは、清水氏はハード(建物や設備)よりもソフト(人やビジネス)を重視しているということです。
通常、自治体などが主体となって行う地域活性化は、「まずは商業の拠点を作ろう」と発想し、大きな建物(複合ビルなど)を作ることから始まりがちです。こうした手法は得てして失敗に終わり、あとには人気のないさびれたビルだけが残るという、悲しい結末を迎えることが多いのです。
このような「ハード先行型」の地域振興は、どうして上手くいかないのでしょうか? それは大きなハコモノを作ることばかりにとらわれているからでしょう。そこでどんな産業を興し、どうやって人を集めるかという発想が欠けているから、地域の活性化につながらないのです。

その点、都市再生プロデュースの第一人者である清水氏は、ハード先行型の地域振興が上手くいかないことを知り尽くしていました。ハードとソフトが両輪となって進まないと、地域の活性化は上手くいきません。

では、都市再生におけるソフト部分とは何か? それはなんといっても「人」であり、「産業」であるというのが清水氏の考え方です。
地域振興とくれば、どうしても新たなハコモノを作ることを考えがちです。しかし衰退地域にはすでに空きビル・空き店舗が山のようにあります。新たにハードを作ることよりも、既存の施設で新たなビジネスを起こし、消費者を集め、雇用を創出する―そんなソフト部分を振興させることこそが、都市を再生させるカギだといいます。

■スモールエリアに魅力を集中

都市再生におけるコツは、個性的かつ魅力的なスモールエリアをつくることだと、清水氏は言います。これまた、お役所主導の地域振興とはひと味ちがう点でしょう。
地域振興とくれば、自治体が多くの予算を投入して広域開発をする……といったイメージを持つ人も多いことでしょう。しかしその地を訪れる消費者からすれば、お目当てのスポットが広域に拡散していては、訪れるのが大変です。せっかく魅力的なお店をつくっても、バラバラでは集客力も拡散してしまい、エリアとしての魅力を生み出すことはできないのです。

よって清水氏は、振興エリアを広くしすぎないように設定しました。徒歩数分で移動できる範囲内に、魅力的な人・店舗を集中させることを意識したのです。店舗やオフィスなどが集中することでエリアそのものの求心力が高まり、さらには店舗間の相乗効果も生み出せるという発想です。
実際、清水氏が手がけた北九州市小倉地区のまちづくりも、エリアは北九州モノレール「平和通駅」近辺の限られたエリアでした。スモールエリアに魅力的なソフトを集中させることで、エリアへの人の流れを作ることに成功したのです。その最も分かりやすい例が、クリエイターなどによる個性的な店舗を集めた「メルカート三番街」といえるでしょう。

■低家賃エリアに、若い力を呼び込む

地域再生において、若い力を取り込んでいくことは欠かせません。若者には斬新なアイデアと、新しいことに挑戦していくエネルギーがあるからです。しかし若い事業家(または事業家予備軍)は、せっかく意欲があっても資金面がネックとなってビジネスを展開できないことがよくあります。

清水氏はこうした若者をエリア活性化の原動力とすべく、知恵を絞っています。そのひとつが、地域の家賃・地価に対する徹底的なリサーチです。交通の便が似たような場所でも、実は家賃に大きな差が出てくることがあります。たとえば神田駅周辺でも、駅からの距離は変わらないのに、家賃で3.5倍もの差が開いている地域があります。こうした低家賃エリアをまちおこしの拠点とすることで、少ない資金でも事業を起こし、店舗を構えやすくなります。そうして若い力を地域再生に取り込んでいくことが、清水氏の構想の核でもあるのです。

■「お祭り好きな不動産オーナー」を世話人に

清水氏はまた、こうした地域再生の中心となるプレイヤーとして「現代版・家守」という存在を重要視しています。家守(やもり)というのは、江戸時代における長屋(集合住宅)の大家のことで、コミュニティー全体の世話役でもあった存在です。清水氏は地域再生においても、こうした世話人の存在が必要だと考えているのです。

この「世話人」にふさわしい人物の例として、清水氏は「お祭りに熱心に参加しているような、不動産オーナー」を挙げています。ちょっと聞いただけでは分かりにくいですが、以下のような人物が、地域再生の世話人にふさわしいということでしょう。

・地元愛が強い
・地域住民との人脈がある
・イベントを動かすリーダーシップとバイタリティーがある
・不動産オーナーとして、エリアとの利害が共通している
・ある程度ビジネスの経験がある

こうした要素を兼ね備えた人物が、商店街・繁華街の顔役として活動することで、エリアの振興ははじめて実現するわけです。

以上見てきたように、清水氏の都市再生構想には、以下のような基本思想があります。
「ハード(建物、設備)よりもソフト(人、ビジネス)を重視」
「スモールエリアに魅力を集中」
「低家賃で若い力を呼び込む」
「不動産オーナーから世話人を選定」

こうした考えのもと、小倉地区は見事に復活への足がかりをつかみました。
清水氏の都市再生ノウハウが、過疎と衰退に苦しむ地方をどう救っていくか、これからも目が離せないところです。

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)

ノマドジャーナル編集部
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