第16・18・19回の3度に渡り、地方が主体となっての地域再生スキームとして、「地域再生計画」「中心市街地活性化」をご紹介してきました。今回は、もうひとつの枠組みである「都市再生」について取り上げたいと思います。
地域再生計画は、自治体の自主的な計画による地域活性化のスキームで、奈良県橿原市の「医学を基礎とするまちづくり」などが例として挙げられます。中心市街地活性化は、地域の中心エリアを再生する試みであり、富山県富山市の「コンパクトシティ構想」での取り組みが代表例でしょう。いずれも地方が自ら立てた計画に基づき、国が交付金などで支援する形を取っています。
以上を踏まえたうえで、3つ目のスキーム「都市再生」について見ていきましょう。
■都市再生とは?
都市再生についてひと言で言うと、「戦後の成長期に形成された各地の都市を、時代にあった形にモデルチェンジする」という話になります。
戦後の成長期、日本各地であらゆる産業が盛んになり、人口も右肩上がりで増え続けました。よって各地の都市は、伸び続ける産業や人口の受け皿として形成されてきました。
しかし社会が成熟期に入ったことで、成長期に形成された都市のあり方に、数々の弊害が生じてきました。たとえば、慢性的な交通渋滞によって経済活動が停滞したり、緑地やオープンスペース(公園など)が不足していたりと、人々の生活に不都合な面も出てきました。さらには国際化・少子高齢化といった社会の変化に対しても、地方都市は対応が遅れており、衰退してしまっているのが現状です。
この流れを受けて、国土交通省は都市の再生に関する交付金制度を創設しました(都市再生整備計画事業(旧・まちづくり交付金))。その目的にはこう記されています。
「地域の歴史・文化・自然環境等の特性を活かした個性あふれるまちづくりを実施し、全国の都市の再生を効率的に推進することにより、地域住民の生活の質の向上と地域経済・社会の活性化を図ることを目的とする」
つまり、先に述べた「経済の活性化」「住環境の向上」「社会変化への対応」という3つの側面から、各地の都市の再生を推進しようとしているわけです。
■都市再生は過疎地でも可能か? 北九州市・小倉の事例
それでは、地方における都市再生の取り組みの例を、具体的に見ていきましょう。
ご紹介するのは、福岡県北九州市の小倉地区のケースです。
北九州市は人口約95万人の政令指定都市で、九州全体でも福岡市(福岡県)に次ぐ人口を誇ります。ではその将来は明るいのかというと、必ずしもそうでもないようです。北九州市は政令指定都市の中で、高齢化率・人口減少率が第一位。特に中心市街地の空洞化は深刻で、多くの事業者・テナントが福岡市に移ったり、統合により北九州市から撤退してしまいました。結果として空き店舗が増加し、中心市街地はすっかり活力を失ってしまったのです。
当然、北九州市としても手をこまねいていたわけではありませんが、リーマンショックなどによって市内の事業所の閉鎖・統合が増加したことなど不運も重なり、思うような成果をあげられませんでした。
そこで同市は、都市再生のプロデューサーである清水義次(しみず・よしつぐ)氏に協力を依頼しました。清水氏は東京・神田の問屋街を、クリエイターの街として再生した実績があり、小倉地区の再生に白羽の矢が立ったのです。
もっとも、清水氏に対し疑念を持つ人たちもいました。
「東京で都市再生ができたからといって、北九州で同じことができるはずがないだろう」
こんな声があがったのも事実です。
しかし、清水氏の答えは明快でした。
「過疎地域の再生は、都心の再生と同次元のものだ」
■現代版・家守(やもり)―都市再生の「世話人」を作れ!
清水氏の都市再生構想の核にあるのは「現代版・家守」という考え方です。
家守(やもり)というのは、江戸時代における長屋(集合住宅)の大家のことです。家守は単に家賃を取り立てるだけでなく、家屋を管理したり、入居者の面倒をみたり、トラブルを仲裁したりと、コミュニティーのマネジメントに幅広く関わっていました。
清水氏は都市の再生にも、こうした家守のようなエリアの世話人が必要だと考えました。そこで彼は、都市再生エリア内にある遊休不動産のオーナーで、なおかつ商店街・繁華街の顔役として活動できる人物を選び、「現代版・家守」として活動するように促したのです。
不動産オーナーとともにまちづくりをするという点は、清水氏の構想の重要なポイントです。衰退エリアの不動産オーナーたちは、自分たちの不動産の価値下落に苦しんでいます。そんな彼らに、清水氏は「エリア全体が繁栄すれば、不動産の価値も上がる」というメリットを話し、口説いていったそうです(エリアに活気が出れば、不動産にテナントも入ってきますからね)。
不動産オーナーはエリアとの利害が共通している上、ある程度ビジネスの経験があり、地域での人脈も持っている人たちです。そうした人たちを現代版・家守として、エリア再生の世話人に位置づけることが、衰退地域をよみがえらせる第一歩なのでしょう。
■リノベーション推進 生まれ変わる小倉地域
都市再生におけるキーワードのひとつに「リノベーション」があります。
リノベーションとは、建物を改修・修復することで、新たな付加価値(利用価値)をつけて、不動産を再生させることです。
小倉の事例では、先に述べた現代版・家守(エリア再生の世話人)が大いに力を発揮し、リノベーションを成功させ、エリアに活力をもたらしました。たとえば、最初の家守である梯輝元(かけはし・てるもと)氏は、知人の建築家を招いて、長年空きビルだった建物のリノベーションを実施しました。この企画でできた「メルカート三番街」は、若手デザイナーやクリエイター10組が入居するテナントに生まれ変わりました。まさにこの事例こそ、現代版・家守の手腕と人脈が生きた好例といえるでしょう。
これをきっかけに、閑古鳥の鳴いていた小倉地区は驚くほどの変化をはじめます。同様の手法で空き店舗がリノベーションされ、起業支援型店舗施設「ポポラート三番街」、シェアオフィス「MIKAGE1881」など、起業家の育成にもつながる個性的な施設が次々につくられました。
不動産オーナーをエリア再生の世話人とし、空き店舗を適切にリノベーションすることで、衰退地域を甦らせていく。こうした取り組みを数多く行っている清水氏について、次回は詳しくご紹介していきたいと思います。
記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)
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