米国では労働者の働き方が、おそらく世界のどの国よりも多様化しています。前回は統計を交えて、米国のフリーランサーの多くがこの労働形態を自ら選び、収入の不安定さや社会保障の不備などの問題をかかえながらも、フリーランス労働の未来を期待できるものと捉えていることをご紹介しました。
今回は米国の「ギグエコノミー」に焦点を当ててみたいと思います。

2020年までに米国労働者の40%が独立請負業者になる

ギグエコノミーとは、独立した労働者がインターネットを通じて単発仕事(ギグ)を請け負う労働形態のことです。米国のギグエコノミーと言えばUberLyftAirbnbといった名前がまず浮かびますが、これらはいずれもオンデマンドの運転サービスや、空き部屋シェアリングで、伝統的なタクシー業界やホテル業界を追い込む勢いを見せています。これらの新興企業はまさしく現代ビジネスのあり方を変えているのです。

米国の金融ソフトウェア会社Intuitの調査によると、2020年までに米国労働者の40%が独立請負業者(コントラクタ―)になると予測されています。
ギグエコノミーが発展した背景には、デジタル時代に入って労働者がモバイル化し、どこからでも働けるようになったことがあり、フリーランサーたちは世界中のオンラインプロジェクトからギグタスクを選び、雇用者たちはプロジェクトごとに最適な人材を、地理的な拘束なしに選べるようになっています。
一般労働者が「一生に何度も転職する」のが現実となった米国では、ギグエコノミーはこの傾向の進化の一つと捉えられています。

ギグエコノミーでは、企業はオフィススペースや従業員のトレーニング費用を節約できるだけでなく、常勤スタッフとして雇うには高すぎる専門家を、特定のプロジェクトのためだけに雇うことができます。フリーランサーの視点からは、従来のオフィス勤務では達成できなかったワークライフバランスを達成しやすいという大きなメリットがあります。

ギグエコノミーの多様な側面

昨年の米大統領選でヒラリー・クリントン氏はギグエコノミーの台頭に触れ、これを「エキサイティングな機会」と称する一方で、「職場での保護と、よい仕事とは何かという定義づけの難問を将来に提起するものだ」と述べています。

ギグエコノミーのポスターチャイルドUberは、ギグワーカーとして働くドライバーをコントラクター(業務請負人)と定義することで、必要経費をドライバーに押し付け、ドライバーは賃金および雇用法に定められた保護を受けていません。これに対する集団訴訟はすでにペンシルベニア州とカリフォルニア州で解決済みで、ドライバーには以前より多くの法的保護が与えられたものの、Uberが彼らを引き続きコントラクターと見なすことは依然として認められています。

それでもUberのドライバーの一人は、「仕事のフレキシビリティは何にも換えがたいし、最低賃金以上の報酬ももらっている」と語っています。ただし、このようにコントラクターとしての労働を肯定的に見ている人たちの何割が、実際に保険などの諸費用が自分に降りかかっていることに気づいているのかは不明です。

米国雑誌The Atlantic Magazine「シェアリングエコノミーでは、被雇用者は存在しない。仕事はフレキシビリティなど多くの利益をもたらすが、労働者に対する法的保護はそれには含まれていない」という記述は、この状況を最も的確に表しています。

大手のMicrosoftにもたしかにコントラクターは働いていますが、彼らには非常に有利な株のオプションが与えられているところが、Uberと異なるところです。

問題は、この国の法律が現状に追いついていないところにあります。それらの法律はかなり前に作られたもの、中には一世紀以上も前のものもあり、当時は今のような経済を想像することさえできなかったのです。

米国では74%の労働者が伝統的な会社勤務よりも、フリーランスやスモールビジネスのオーナーを理想の労働形態と考えており、ギグエコノミーの「だれもが雇用主」というフレーズは非常に好ましく聞こえます。ギグエコノミーは、親が伝統的な会社からレイオフされるのを目撃してきた、もはや大企業を信頼しないミレニアルズ世代にも強くアピールしています。

生計に不安をもたらすのは、ギグエコノミーではない

ギグエコノミーのような請負労働では、どうしても収入が不安定になりがちな面がありますが、新しい労働事情調査は「生計に不安をもたらす最大の原因は何か?」という問いに、ギグエコノミーではなく、「シフト賃金(shifting pay)」と答えた人が多かったと報告しています。

今年5月のニューヨークタイムズ誌には「報酬と就業時間のある定職はあるけれど…」という記事が載っています。そこには、生計の基盤となる定職はあっても、給料が頼りなくなってきた27歳の女性が紹介されています。これは現在米国に広がりつつある、毎週労働時間が変わるために給料も変動する、自給労働者のシフト賃金のせいなのです。

米国では現在、この週ごとに労働時間が変わるシステムが多くの産業に広がりつつあります。この女性の職場もその一つで、多い時の週39時間から、少ない時には週15時間まで、毎週労働時間が変動しています。業務スケジュールは月初めには発表されるものの、直前の変更もありで、家計にも生活のリズムにも大きな混乱をもたらしています。

このような状況では、シフト賃金労働者もギグタスクを請け負わざるを得ないところでしょうが、自らのスケジュールが流動的ではそれもままなりません。シフト賃金制はどうやら、雇用者側だけに有利な制度で、これをwin-winの状態に持っていける要素はなさそうです。

まとめ

上記のようなシフト賃金制とは異なり、ギグエコノミーには、ギグ依頼者と受注者の双方に見逃せない利点が複数あります。この先3年間で労働者の4割がこのような労働形態へ移行すると予想される米国では、これに対応する法律の改正が早急に望まれるところです。それが実現できれば、新しい労働形態の真の意味での先進国として、世界に手本を示すことができるでしょう。

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)

ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。