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連載もいよいよ残すところあと2回となりましたが、今回は「イクボス×幸福学」と題しまして、社員の幸福度を上げるマネジメントとはどのようなものなのかということについてお話ししていきます。尚、今回お話しする幸福学の考え方は慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授の提唱する「幸せの4つの因子」をベースに進めていきます。
なぜ、幸福学が注目されるのか
昨今、幸福学というキーワードをよく聞くようになりました。もちろん、幸福になりたいか?なりたくないか?と聞いて、なりたくないと答える人はいないわけで、昔から誰の心の中にも「幸せになりたい」という想いはあったはずです。ただ、どうしたら幸せになれるかが分からないというのが本音で、つい目に見えるお金や地位・名誉、高級品などのモノを手に入れることが幸せに繋がると考えがちです。確かにそれも幸せかもしれないですが、長く続かない。幸せにも長く続く幸せ(非地位財)と長く続かない幸せ(地位財)があるというわけです。
このように幸せについて、アカデミックなアプローチで研究し、見える化してきたのが幸福学という学問です。海外では幸福学の研究が日本より進んでいて、経営学にも取り入れられて来ています。これらの研究の結果、幸福であることが、仕事のパフォーマンスにも影響するという相関が証明される研究が多数出てきています。つまり、社員の幸福度を高めれば、会社のパフォーマンスは上がるということですので、そうなると「社員の幸福度を上げることが経営戦略」と言えるかもしれません。
幸せの4つの因子
前野先生の研究では、因子分析によって、心の要因による幸せを「4つの因子」に整理しています。この4つを満たせば、長続きする幸せを手に入れることができるということです。
1つ目が、「自己実現と成長(やってみよう)」の因子で、夢や目標ややりがいをもち、それらを実現しようと成長していくことです。2つ目が「つながりと感謝(ありがとう)」の因子で、人を喜ばせること、愛情に満ちた関係、親切な行為などです。3つ目は、「前向きと楽観(なんとかなる)」の因子で、自己肯定感が高く、いつも楽しく笑顔でいられることです。最後4つ目は、「独立とマイペース(ありのままに)」という因子で、他人と比較せずに自分らしくやっていけるということです。つまり、この4つの因子を満たせば、「幸せ」は創ることができるというわけです。
イクボス×幸福学
私はこの連載でも、これまで「会社の居心地は半径5メートルで決まる」と言ってきました。どんな大きな会社であっても、小さな会社であっても半径5メートル。すなわち、上司を中心とした同じグループの居心地が、その人にとっての会社の居心地、ロイヤリティ、モチベーションになるわけです。そう考えると、上司がこの幸福学を理解し、4つの因子を意識的に用いて、マネジメントしていけば、間違いなく幸せな会社、つまりパフォーマンスの出せる会社は創れると思います。
そして、この4因子全て、マネジメントスタイルでコントロールできるところがポイントです。当然、会社として幸福学を取りいれることが出来たらベストかもしれませんが、仮にそうでなくても、また人事制度や施策を整ってなかったとしても、上司一人の想いから、半径5メートルは創れるということです。よく、「うちの会社は・・・」ということをいう人がいますが、同じ会社であっても上司が違えば全く職場環境は変わります。会社じゃなくて上司で変わるのです。上司が自己中心的に、メンバーを好き勝手に使うような縦社会の時代はもう終わり、そのような上司にはメンバーはもう付いてこなくなるでしょう。メンバーの幸せを支援する。上司の仕事というのはこれに尽きるのかもしれません。
ちなみにこの4つの因子をつなげてみると、「自己実現と成長ができて、つながりと感謝があって、前向きで楽観的に、そして独立して、マイペースで仕事ができる環境」となるわけで、これは間違いなく幸福度が高そうですね。
まとめ
社員の幸福を支援するというのは、決して社員を甘やかすことではありません。幸福度を上げるマネジメントというのはまさに性善説で、「信じて、任せる」ことであり、日々コミュニケーションを取りながら、個別に成長、成功を支援していくということで、まさにイクボスの考え方です。
短期ではトップダウンで、指示命令を出した方が結果は出るかもしれませんが、そういったやらされ感のある仕事では幸福度は上がらないですし、結果も長くは続きません。メンバーの幸せを支援していくことは、結果として考えて自律自走できる社員を作ることであり、パフォーマンスを出し続ける組織を作るということなのだと思います。