近年、フリーランスという働き方が注目を集めている。しかし「時間と場所を自由に選べる」というキラキラしたイメージばかりが先行してしまっており、実態はいまだによくわからない部分が多い。もちろん、その先にどんな課題があり、それをどのように解決していくのかについても、政府や地方自治体は何も手を打てていない状態だ。
そんな中、フリーランスが相互に助け合う中立的組織として、また、自らがセーフティーネットにとなるべく立ち上げられたのが、フリーランス協会だ。
インタビューの後編では、理事の一人である田中美和さん(株式会社Waris代表取締役共同創業者)に、“女性がフリーランスとして活躍するためには?”という観点でお話を伺った。
女性がフリーランスとして持続的に働くための支援は必須
「フリーランスという働き方は、女性にピッタリだと考えています。私が共同代表を務める株式会社Warisでは、プロフェッショナルの女性にフリーランスの案件をご紹介する、という事業を主力として展開しています。実は登録者の70%は、ママさんなんです。知識・経験・スキルがあり、自律的な業務遂行が可能な方にとっては、非常に満足度が高い働き方だと言えますね」
Warisの登録者のうちフリーランスとして働く女性たちに対する調査によれば、月の稼働時間が80~100時間という人が47%という結果だった。週2~3回の稼働、あるいは1日5時間程度の時短勤務に相当する時間だ。また、クライアント先に常駐で仕事をしている人は、わずか20%だった。在宅やリモートワーク、日によっての出社など、かなり自由な働き方を実現していることがわかる。
報酬の平均は、月28万円程度。50万円以上の報酬を得ている人も、11%いた。会社員時代と比べると、自由度が上がり、稼働ボリュームが下がっているので、時間単位の単価と生産性が非常に高まっていることになる。これが、満足度の高さの秘訣だ。
しかし、会社員と違って、報酬がそのまま収入に繋がるのではない点には、注意が必要だ。年金や社会保険料、研修費用などは全て自己負担となるため、会社員時代の1.5倍から2倍くらいの単価を目指した方がいい、と田中さんは話す。
キャリアを中断することなく、限られた時間をうまく使い、パフォーマンスを上げて対価を受け取る。確かに、ワーキングマザーにとっては理想的な働き方と言えそうだ。
女性の活躍を阻む保育園問題―フリーランスは会社員よりも難易度が高い
フリーランスでありながら子育てをするには、まだまだ困難な点がたくさんある。育児休業制度がないため、個人の裁量でどのくらい休むかを決めるしかない。その間の収入は0円となり、会社員のような保障・手当は受けられない。休んだあと、元のポジションに戻れるか、再びクライアントから仕事をもらえるかどうかもわからない。そのため、早々に復帰を望む人も少なくない。
ところが保育園探しは、会社員・正社員でも困難を極めるが、フリーランスとなると、さらに難易度が高まる。自治体によっては、企業勤めや育児休業明けである方が、ポイントが高い場合がある。在宅勤務など仕事場所を選べたり、スケジュールや仕事量を自分で調整したりできるフリーランスは、緊急度が低いと見なされてしまうのだ。さらに、保育園利用の申請をする際に必要な就労証明書など、仕事をしていることを証明するための手続きも大変だ。
そこでフリーランス協会では、“保活の多様化プロジェクト”という取り組みをスタートさせた。このプロジェクトでは、アンケート調査をしたり、政府と情報交換をしたりして、実態把握と発信に努めている。
- 保育園に入れなかったので、夜中に子供が寝てから仕事をして、昼寝の時間に一緒に寝るという昼夜逆転生活が続いた
- 仕事量を減らさねばならず、経済的に苦しかった。妊娠・出産期間中から減らした仕事を取り戻すのは、なかなか大変だった
・・・といった切実な声を届けることが、改善に向けた動きに繋がっていくのだ。
女性がフレキシブルな働き方をすると、女性だけ負担が増える
それでは、女性が持続的に活躍をする上で、今後課題として挙げられるのは、どのようなことがあるだろうか。
まず一つには、長時間労働を是正することだ。田中さんのもとには、「フリーランスになったら、夫が家事・育児をしなくなってしまった」と悩む女性の声が寄せられる。女性がフレキシブルな働き方を実現すると、「時間ができたのだから、家事・育児をやれるだろう」と負担が偏ってしまうこともあるという。結局、多様な働き方を女性だけが実践しても、あまり意味がない。男女問わず、社会全体で労働時間を抑制し、意識を変えて、男性の家事・育児へのコミット度を高めていく必要がある。
また、「私はこういう働き方をしたい」というキャリアビジョンを、パートナー同士で共有することも大切だ。そうした話し合いをしていない夫婦は、意外と多い。「今はフリーランスで働いているけれど、子どもが小学生になったら、また会社員に戻りたい」「今は会社員として働いているが、5年後を目途に海外でMBAに挑戦したい」など、お互いの率直な希望や気持ちを知ることで、今取り組んでいる仕事内容や働き方への理解が進み、協力し合う態勢が整えやすくなる。
フリーランスにも、サポートし合い、切磋琢磨し合える「チーム」が必要だ
二つめは、フリーランスとしてのキャリアアップ・スキルアップをどう図っていくか、という点だ。一人でやれることには限界があり、いちプレーヤーとして同じスタイルで仕事を続けていると、仕事のあり方や受注の仕方がワンパターン化してしまう危険性がある。会社員であれば、部署異動があったり、難易度を上げた仕事が振られたり、適宜研修を受けさせてくれたりと、会社側で調整してくれる。しかしフリーランスは、自分で自分を磨き続けなくてはならない。
「解決策として、仲間とチームで受注する人もいる」と田中さんは話す。チーム受注することで、案件の規模が大きくなったり、仕事内容が変わってきたりするので、幅が広がるのだ。
例えば、マーケティング・新規事業開発、Web、PRなど、領域の異なる得意分野を持つ人同士でチームを組み、新規事業開発からプロモーションまで、プロジェクト全体を丸ごと請け負うケース。経理や人事などのプロフェッショナルでチームを組み、ベンチャーのバックオフィス立ち上げを丸ごと受注するケース。同業のワーキングマザー同士でチームを組み、子どもの病気など、突発的なアクシデントにも対応できるようにするケースなどもあるという。
「“チーム化”はキーワードですね。クライアントさんに喜んでもらうことが一番大事なことです。もし自分ができなくても、仲間を紹介することで、クライアントもハッピー、仲間も仕事がもらえてハッピーになれる。回りまわって、将来的に違う案件が自分のところに回ってくる可能性もあります」
フリーランスは、こうした縁の繋がりで仕事になることが多いものだ。これまでは、個人が人脈を広げ、気の合うスキルの高い仲間を見つけることで実現していたが、こうした“縁”に目をつけたサービスも生まれている。フリーランス協会の賛助企業でもあるエンファクトリーが、今年5月にオンライン上で仲間を募れる「チームランサー」というサービスをローンチしたのだ。また、フリーランス協会でも、ネットワーク作りを目的としたイベントを開催しており、情報交換して繋がっていく場として活用されている。
自身のスキルアップのために努力を怠らない姿勢も大切だ。新たな知識・スキル習得のために、コーディングやデザインを学びに行ったり、専門性を深めるために、MBA取得を目指して大学院に通ったりする人も多くいる。まとまったお金と時間を投入し、しっかりと腰を据えて学ぶフェーズを経て、深みや広がりが増していく。
フリーランスとして数年やってきて、行き詰まりを感じている人は、こうした点を心がけて行動してみると良いかもしれない。
働く個人として、ビジョンをクリアにしておこう
「何となくフリーランスになっても、ハッピーにはなれません。私たちWarisが実施した『フリーランスの幸福度が何によって決まるのか?』を探った調査では、報酬の多寡や稼働時間の長さには、関連性が見られませんでした。重要なのは、ビジョンだったんです。ビジョンと言うと、大それたもののように聞こえますが、『毎日子どもたちと一緒に夕飯を食べたい』といったささやかなもので構いません。自分がなぜフリーランスになるのか、フリーランスになることで何を実現したいのか、考えておく必要がありますね」
フリーランスとして成功するために、会社員の頃から意識をしておくべきことは、専門性の習得はもちろんのこと、
- 自走性高く、自律的に仕事に取り組む
- 企画立案から実行まで、一連の流れを経験しておく
- セルフマネジメント・タイムマネジメント能力
- 業務の再現性を上げる
の4つだと田中さんは言う。
これらの力は、一朝一夕で身に付くものではない。プロジェクト型の仕事の進め方に慣れ、指示を待たずとも自ら業務を推進でき、自分のキャパシティを見極めた上で納期を設定し、クライアントの期待値より少し上のものを納品する。この繰り返しによって、フリーランスとしての働き方は成立する。こうしたスタンスで仕事に取り組む姿勢を、会社員のうちに培っておくことをオススメする。
また、転職や異動の経験がないと、業務の再現性を上げることは難しい。どのような状況・条件であっても、一定のクオリティを担保できるようにするためには、違う環境に身を置いてみることが大切だ。社内で異動希望を出したり、転職したり、会社員勤めをしながら副業としてフリーランス活動を始めるなどして、経験を積んでおくと良いだろう。
「世の中には『フリーランスの人は自由にやっている』というイメージを持っている人も多いですが、実際は大違いです。フリーランスだからこそ、人と人との繋がり力、人を巻き込む力、コミュニケーション能力が非常に求められます。自己責任も、高い専門性も問われますし、学び続ける姿勢も求められます。自由さとはトレードオフですね」
私自身も、フリーランス歴6年になる。その間、妊娠・出産も経験し、フリーランスの良さも大変さも、身にしみて実感している。しかし今回、田中さんの話を聞いて、フリーランスを取り巻く事情がこんなにも変化・進化を遂げていたことに驚いた。
フリーランスは、誰にでも向く働き方ではないし、田中さんの言うように、自由さとリスクはトレードオフだ。それでも、専門スキルを活かして、プライベートとのバランスを測りながら仕事を続けていくには、うってつけの働き方だと思っている。フリーランスの“不”が少しでも解消され、働き方が多様化して、自分らしく働ける日が来るよう、これからもフリーランス協会の動向に注目していきたい。
専門家:天田有美
慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。
キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。