前回は、地方で働く上でのデメリットやハンディキャップについて、改めて見てきました。

収入・求人・交通・情報……などの広く知られた要素はもちろん、地方に移住する上で気をつけておくべき「落とし穴」についてもお話ししました。

今回は引き続き、もうひとつの「落とし穴」についてお話したいと思います。

地方移住の落とし穴――(2)閉塞感に耐えられるか?

地方に移住し、充実した人生を歩んでいる人にも、地方生活の「心理的な落とし穴」があるといいます。それは「閉塞感」です。心理的に、せまい場所に閉じ込められているような息苦しさを感じ、人生そのものに行きづまりを感じてしまうというのです。

 

こうお話しすると、以下のような反論もあるかもしれません。

「自然と人情味あふれる地方で、どうして閉塞感を感じるんだ?」

「むしろ都会でこそ、閉塞感を感じてしまうのではないか?」

たしかに、それもひとつの見方でしょう。

しかし地方移住者たちの話を聞いていくと、やはり地方には(都会とは違う意味での)閉塞感が存在するのは間違いないようなのです。

 

地方特有の閉塞感とは、どんなものなのか? いまからその具体的な中身について、見ていきましょう。

地方の「閉塞感」とはなにか?

地方生活ならではの閉塞感については、大きく以下の3つが挙げられるでしょう。

  • 娯楽スポットが少ない
  • 文化的なハンデがある
  • 人間関係の息苦しさ

 

以下、これら3項目を順に見ていきたいと思います。

1.娯楽スポットが少ない

娯楽スポットは、まさに都会と地方の生活を比較する上で、重要なキーワードとなります。地方は都会と比べて「娯楽の場が少ない」あるいは「娯楽のバリエーションが乏しい」というのは、ほぼ間違いのない事実でしょう。

 

東京の場合、駅を中心とする街ごとに、それぞれのカラーがあります。渋谷は若者の街、原宿は若い女の子の街、巣鴨はおばあちゃんの街……といった風に、同じ東京でもエリアそれぞれの個性があり、人はその多様性を楽しむことができます。

さらに都会の場合、そこに集まる多くの人(消費者)をターゲットに、新たな娯楽スポットが次々と生み出されます。まさに都会は街そのものにアミューズメントとしての側面があり、その変化と多様性は、決して人を飽きさせることがありません。

 

しかし地方の場合、なかなかそうはいきません。

もしあなたが地方にお住まいであれば、考えてみてください。あなたの地域には、どんな娯楽スポットがあるでしょうか?

地方の買い物スポットとくれば「イオン」や「ジャスコ」、衣料品であれば「ユニクロ」または「しまむら」などに限られてしまうのが現実でしょう。それ以外に娯楽とくれば、せいぜいカラオケや映画ぐらいでしょうか。とにかく娯楽スポットが少なく、休日を満喫しようにもワンパターンな楽しみ方しかできない……これが、多くの地方を取り巻く現状といえるでしょう。

これでは都会と比べるとあまりに刺激がありませんし、毎度毎度おなじような娯楽では、あきてしまっても仕方がありませんよね。

2.文化的なハンデがある

いまやインターネット全盛の時代であり、都会と地方の情報格差はかなり解消されました。よって仕事であれ趣味であれ、地方のハンディキャップはなくなったように見えるかもしれません。しかし、地方移住者の声を聞くと、事は必ずしもそう単純ではないようなのです。

 

地方に移り住んだある人は、こんな感想をもらしています。

「地方は自然が美しくて癒されるし、都会のように仕事に追い立てられずに済む。

とはいえ地方にいると、プロ野球の試合もなければ(注)、若手ロックバンドのライブもない(注)。

新しい刺激がなくてマンネリ化してしまい、行きづまりを感じてしまう」

聞いていてなるほどと思わされます。

 

ここでの地方移住者はプロ野球とバンドのライブを挙げています。つまり地方生活がマンネリ化してしまう原因は、都会との「文化的な格差」にあるといえるでしょう。

(注)プロ野球の試合がない……プロ野球(NPB)12球団には地方に本拠地を置くところもあるが、広島・福岡・仙台・などの主要地方都市に限られている。それ以外の地方では、プロ野球公式戦の開催は年に数回程度しか行われない場合が多い。

(注)若手バンドのライブがない……若手バンドや個性的なユニットも、巡業で地方のライブハウスを訪れることがある。とはいえその頻度は、都会とは比べものにならない。

 

東京・大阪などの都会であれば、プロ野球のシーズン中は毎日のように公式戦が行われます。ライブハウスも新進気鋭のバンドが連日盛り上げています。スポーツやエンターテインメントの世界が、毎日目まぐるしく動き、人々に夢と刺激を与え続ける――これは都会ならではの魅力といえるでしょう。

地方で暮らす場合、こうした文化的な刺激では都会におよびません。これが日常生活をマンネリ化させ、閉塞感につながってしまうのは、否めないところでしょう。

3.人間関係の息苦しさ

地方生活では、プライベートで知人とバッタリ出会うことがめずらしくありません。よく取れば、地方ならではの密接な人間関係があるとも言えますが……やはり息苦しさを感じてしまう人もいるのではないでしょうか。

地方は先にも述べたように娯楽スポットが少なく、休日あるいは仕事の後に出かけるスポットが限定的です。よって家族や恋人といるところを会社の同僚に見られることも、決して珍しくはありません。

仕事でもプライベートでもいつも同じ人たちと会っていると、世界が狭く思え、行き詰まりを感じてしまうかもしれません。こんな対人環境もまた、地方生活の閉塞感を生んでしまうこともあるでしょう。

 

以上、今回は地方生活における「3つの閉塞感」について考察してきました。娯楽スポット、文化、そして対人環境という面で、都会と地方の違いは頭に入れておく必要がありそうです。

 

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)