前回まで2回に渡り、人気ブロガーとして活躍するイケダハヤト氏の主張をご紹介し、地方で働くことのメリットについて考えてきました。著名人ならではの斬新な思考スタイルは、地方での仕事について違った視点から考えさせてくれました。

今回は角度を変えて、地方で働くことのハンディキャップやデメリットなど、注意すべき点について見ていきたいと思います。

地方で働く上でのデメリット(まとめ)

詳細は過去の記事でまとめましたので、ここでは簡潔にまとめて記します。

(詳しくご覧になりたい方は、第3回「地方で働くことのハンディキャップ」をご参照ください)

収入が減る

あくまで全体的な傾向ですが、都会と地方の収入格差は現実にあります。

たとえば東京都と沖縄県の平均年収を比べると、試算によっては200万円以上の開きがあるといいます。

(もちろん全体的な傾向であり、地方で働くからといって、必ずしも都会より収入が減ってしまうわけではありません)

選べる職種が少ない

業種にもよりますが、地方ではIT関係・マスコミ・クリエイティヴ産業の求人は少ないのが現状です。

「情報」「エンターティメント」に関わる仕事は、東京を中心とする大都市圏に集中しているためです。よってこうした分野を志す人は、都会に出て行かざるを得ないケースが多くあります。

交通が不便

地方では仕事・生活の両面で、ほぼマイカーが必須になります(もちろん例外はありますが)。

よって車に関する諸経費の発生については、あらかじめ頭に入れておく必要があります。

人との交流が限られる

都会は地方より人が多いうえ、多様なタイプの人が集まっています。よって地方では、バラエティに富んだ人間関係を構築しづらい面があるかもしれません。

情報面で不利

インターネットが普及したとはいえ、都会と地方の情報格差はまだまだ大きいのが現実です。

地方移住の落とし穴――(1)地域特有の慣習

以上の様な「地方で働くデメリット・ハンディキャップ」は、いずれもよく言われている項目であり、地方での仕事を考える人なら少なからず意識している内容でしょう。

よって今回は角度を変えて、地方に移住する上で気をつけるべきポイントを挙げたいと思います。

 

ひとつ目は、地方ならではの慣習や、暗黙の社会ルールの中に、時には落とし穴がひそんでいるということです。

たとえば、地方での仕事の失敗例として、こんな体験談があります。

都会から地方へ行った青年が、移住して間もなく、その自治体の職員として採用されることになりました。小さな地方自治体とはいえ、役所の仕事は安定しており、地方の仕事としては申し分ない職場のように思えます。ところが……ここに大きな落とし穴があったのです。

 

地方、特に郊外や山間部などでは、一般企業の求人がそう多くなく、職種の幅も限られています。よって安定した役所の仕事というのは、だれもがうらやむ職場であり、ローカル社会におけるステータスともなります。役場に採用される若者は、優秀な人物として一目置かれ、その両親や家族も鼻高々……といった地域もあるわけです(もちろん地域差はありますが)。

 

そんな「だれもがうらやむ」役所の仕事に、都会からやってきた若者が採用されたとなると、地域住民はどう反応するでしょうか。必ずしも祝福ムードとはいかず、むしろねたみ・やっかみの対象となってしまうことも、あるかもしれません。

案の定、この青年はせっかく役所の仕事についたにもかかわらず、地域の人々との関係が上手く行かなくなってしまいました。結局、役所にも地域にもいづらくなった彼は、都会に戻ってしまったのです。

相思相愛のはずが、どうしてこうなった?

こんな話を聞いて、なんとも胸が痛くなるのは私だけではないでしょう。

青年は、地方での生活に夢をふくらませて、遠く都会からやってきたはずです。自然豊かで人情味あふれる土地での新たな人生を、大いに楽しみにしていたことでしょう。

そして彼を迎える地域住民の側も、青年の移住は歓迎していたはずです。どこの地方も過疎化が進んでいるため、地方の活力を維持するためにも、若者の存在は不可欠だからです。

おたがいの利害が一致していたはずなのに、どうしてこんな結末を迎えてしまったのでしょうか?

 

その落とし穴は「慣習」でした。「不文律」(ふぶんりつ/注)と言いかえてもいいかもしれません。

たとえ他県から移住してきた人であっても、採用試験を通過すれば、役所で働くことは可能です(職員を地域の出身者に限る……などというルールはないからです)。しかし制度上は問題がないとはいえ、他県の出身者が役所の職員になることは、地域の「慣習」とあまりにギャップが大きかったのでしょう。

 

もちろん、青年はなにも悪いことはしていません。

しかし他県出身の彼が、役所の貴重な採用枠のひとつをゲットしたことが、「慣習」と相容れなかった……。

そのため、青年と地域住民の関係がギクシャクしてしまったのです。

(注)不文律……集団において、暗黙のうちに守られている約束ごと。

 

今回ご紹介したのはあくまで極端な例であり、こんな事が頻繁に起きるわけではありません。

(むしろ地方に移住した若者が、地域の人々と仲良く交流している事例も多くあります)

とはいえ、地方にはそれぞれの目に見えない慣習があり、明文化されていない暗黙の社会ルールがあります。地方で仕事をするなら、移住後しばらくは時間をかけて、地域の慣習や住民の思考スタイルを勉強していくべきでしょう。

 

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)