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注目を集めている企業のビジネスモデルについて触れていく、第3回の今回は、脱毛業界でいち早く破格的な価格設定で注目を浴びたミュゼプラチナムです。

ミュゼプラチナム(以下、ミュゼ)は、累計会員数が230万人を超え、店舗数は全国で188店舗、海外にも22店舗進出し、店舗数、売上とも3年連続No.1を誇る美容脱毛専門サロンです。男性の方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、電車内で、トリンドル玲奈さん(2015年4月より、ラブリさん)をイメージキャラクターに、「脱毛し放題!」といった広告を見たことがある方は多いのではないでしょうか?

ミュゼが特徴的なのは、その価格です。毎月のようにキャンペーンを行っており、ワキ脱毛は「回数無制限で何回でも100円」となっています。通常料金でも2,600円です。他社と比較しても、通常料金からして最安値であり、キャンペーンを比較しても他社は、「250円で回数無制限」や「初月のみ無料」といったものです。ミュゼは、破壊的な価格提示をしていて、他社の追随を許していないことがわかります。また、運営会社である株式会社ジン・コーポレーションの社長・高橋仁氏によれば、将来的には全てのサービスを無料にすると宣言しています。

一方で、このような無料キャンペーンの場合、「安かろう悪かろう」で、提供価値レベルにあまり期待はできず、その後、「高額のサービスに強引に誘導されそう」といった不信感が生まれやすいかと思います。しかし、ミュゼは、顧客からの信頼が厚く、東京商工会リサーチ調べでも顧客満足度No.1を獲得しています。また上述の通り、会員数も圧倒的な規模であり、新規顧客の約5割は、会員の紹介や口コミによるものとされています。

なぜミュゼは、ほぼ無料でかつ顧客満足度の高いサービスを提供できるのでしょうか?様々な報道もなされて、そのビジネスモデルについて興味深く見ている方もいるかと思います。今回は、注目を浴びているミュゼを一例としてビジネスモデルを紹介したいと思います。

ネット業界のビジネスモデルを現実世界のビジネスモデルへ転用

ミュゼのビジネスモデルは、クリス・アンダーソンが提唱した「フリー」というビジネスモデルが根底にあります。「フリー」は、ICTの進展により発達したビジネスモデルで、顧客から料金を取らずに商品・サービスを提供するビジネスです。アンダーソンは書籍の中で4つの類型を紹介しています。1つはお金ではなく、他者に認められたいという欲求を満たすことで、本当にタダで提供するパターンです。しかし、企業がこれをやっていては、事業を継続することができません。ここでは、残りの3つ、実際には企業がお金を儲ける方法を紹介します。

① 直接的内部相互補助

これは最終的に顧客が別の商品・サービスで無料分も含めて支払うパターンです。「ジレット・モデル」(髭剃り本体はほぼ無料で、替え刃で収益を得るモデル)などとも呼ばれています。インターネットプロバイダの「3か月無料!」といったキャンペーンや英会話教室の無料体験講義などが一例として挙げられます。これらのサービスは、その後の有料分で無料分のコストを補てんすることができます。継続的にサービスを受けてもらわなければ初期費用の回収ができないため、顧客が他社のサービスへ切り替える心理的、金銭的障壁が大きい事業に適しています。

② 三者間市場

当該顧客ではなく、別の顧客や企業が費用を負担するパターンです。例えば、グーグルやfacebookなどのサービスは、無料で利用することができますが、そのサービスに係る費用は広告主が支払う広告料に含まれています。

③ フリーミアム

無料版の簡易サービスと有料版のプレミアムサービスを用意し、プレミアムユーザーが全ての費用をまかなうパターンです。例としてDropboxやEvernoteが挙げられます。フリーミアムでは、無料サービスでたくさんの利用者を集客して、そこからいかにして無料ユーザーをプレミアムユーザーに成長させるかがポイントになります。

ミュゼは、このネット業界では一般的になった「フリー」のビジネスモデルを現実世界のサービス業に持ち込みました。しかし、ネット業界では追加的な限界費用はほぼゼロですが、現実世界においては、限界費用がなくなることはありません。髙橋社長は、そのような条件の中、フリーのビジネスモデルを実現することを「リアルフリー」として提唱しています。

次回は、ミュゼのビジネスモデルの特徴、工夫とは?「本当の無料を目指す」ミュゼの取り組みについてビジネスモデルキャンバスで見ていきます。

<参考資料>

専門家:小島慶亮
ビジネスイノベーションハブ株式会社/戦略パートナー。中小企業診断士。経営コンサルタント、セミナー講師。東京大学大学院修士課程終了後、外資系メーカー勤務。経営戦略立案、収益・生産性向上や業務改善のプロジェクト、法人営業等を経験。ビジネスモデルに関する研究を通して、執筆やセミナー講師を多数行うほか、中小企業支援にも活かしている。雑誌「企業診断」(同友館)の連載「業界最前線のビジネスモデルを追え!~勝ち組に学ぶ、儲かる仕組み」では、教育、小売、農業、日本酒業界を担当。酒蔵の経営コンサルタント、地域誘客プロジェクト立ち上げなど、地域に根ざした活動も展開中。
ノマドジャーナル編集部
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