ビジネスにはいまT型人材が求められている

企業がどのような人材を育成していこうか考える際に、専門分野を持ちながらもグローバルな視点を持った人材として「T型人材」が注目されています。(「T字型人材」「シングル・メジャー」とよばれることも。)

ここでは、そもそも「T型人材」とはどのような特徴を持った人材なのか、T型人材が注目されている背景、そのような人材を育てていく方法について説明していきます。また後半では、Π型、トライアングル、H型人材についてもみていきます。

T型人材は専門分野+幅広い知見を持ち合わせた人材

T型人材の前段階には、専門分野の深い知識をもつI型人材(スペシャリスト)があります。T型人材は、I型人材に横棒の「-」をプラスした人材のことです。

アルファベット「T」の形のように、下方向に深く知識を持ちつつ、横方向に広がる幅広い知見を持ち合わせている人材をさします。

つまり何かひとつの専門分野に精通して深い知識を持ちつつ、他の分野に対しても幅広い知識と知見をもつ人材のことです。

T型人材は、専門分野をひとつ持っていることから「シングル・メジャー」とも呼ばれます。(これに対して、2つ専門分野を持ったダブル・メジャーと呼ばれる人材も。)

T型人材が求められている理由とは?

専門分野を持たず、幅広く薄い知識しか持たない人材は、ほかの人材との優位性を保つことが難しいですよね。

また、いくら自分の領域についての深くて膨大な専門知識を持っていたとしても、固執しすぎてしまうと他の分野に展開することができません。もし専門分野の代替技術が、必要になった時に価値を失うことがあります。

多様性が求められる時代では、ビジネスパーソンは、既存のI型からT型への進化が求められるようになりました。

世界のトップ企業で求められているT型人材〜デザイン思考でも有名な「IDEO」の例〜

世界的に有名なトップ企業でもT型人材が必要とされています。その事例をみていきましょう。

アップルコンピューターのマウスをデザインしたことでも知られる、デザインコンサルティングファームIDEO。IDOはT型人材を育てることで、たくさんの革新的なプロダクトを生み出していきました。

IDEOのCEOであるティム・ブラウンはT型人材について、「自分の核となる深い専門知識をもつ側面」と「コラボレーションによって専門外の技能を広げられる側面」を併せ持った人材だと紹介しています。

T型人材を育てることで、IDEOはデザイン思考を可能にし、数々のイノベーションを成功させてきました。

T型人材を育成するために必要なこと

T型人材がいま注目されている背景や世界企業の例で重要性がわかったところで、それではT型人材を育成していくためには何が必要なのかを説明していきます。

1.専門性の高い人材を育てる研修制度

まずは自らの専門分野の深い知識をもつことが必要です。ひとつの専門分野に精通した知識やスキルを伸ばすためには、まずは業務に深く携わり仕事を進めていきます。そしてさらに基礎知識をより深く、専門的に学べる研修制度を導入することも必要です。

2.ジョブローテーションで幅広い知見を養う

次に、「T」の「-」横棒の部分について。ひとつの分野のみに携わっていては、なかなか他分野についての知識や知見を増やせません。ずっと同じ部署にいることでスペシャリストになることはできますが、逆に視野が狭く他の分野との協調性に欠ける存在になる危険性があります。

そこで定期的に、他部署へのジョブローテーションをおこない、幅広い分野を経験することで、複数の分野にたいする知見を養うことが可能です。固定観念にとらわれない柔軟な人材育成を目指しましょう。

3. 部署横断のプロジェクトを推進する

他分野の社員が交流し、時にはタッグを組んでプロジェクトを進めていくことで、固定観念にとらわれず柔軟に対応できる力を養うことができます。

デザイン思考を推進している企業にも言えることですが、いままでのモノづくりに捉われずに、技術者も企画者もデザイナーも総出でモノづくりに関わることで、革新的な製品を生み出すことに成功しています。

Π型人材やH型人材、トライアングル型人材

ここまでT型人材について説明してきましたが、さらに最近は進化した「Π型人材」「H型人材」「トライアングル型人材」というものもありますので簡単にみていきましょう。

Π型人材とは?T型との違いは?

Π(パイ)型人材・π型人材とは、ダブルメジャーとも呼ばれています。今回説明したT型人材にもうひとつ柱を追加し、2つの専門分野を兼ね備えた人材のことです。

H型人材とは?T型との違いは?

H型人材は、縦に2本の柱がある点でΠ型と形が似ていますが、T型やΠ型とは少し考え方が違います。

H型人材は「イノベーション人材」とも言われ、強い専門分野をひとつ持っていて、他の専門分野を持った人材とつながることのできる人材のことを指します。

トライアングル型人材とは?T型との違いは?

トライアングル型人材はトリプルメジャーとも呼ばれている人材で、3つの専門分野を持っている人材を指します。

トライアングル型人材には、幅広い知識は問われません。

スペシャリストとゼネラリストが融合した人材

ここまで、T型人材について説明してきました。後半で説明したように、T型から派生した人材のカタチは、Π型やH型などもあります。しかしまず目指したいのは、しっかりとした深い知識と幅広い分野で活躍していける広い視野を持ち合わせた「T型人材」です。

急速にグローバル化が進んでいる現代においては、社会のニーズを真摯に受け止め、新しいインパクトを与えるために、人材もグローバルな視点をもつことが求められています。もちろん専門分野はしっかり持っておく必要がありますが、幅広い知見をもつことでより柔軟に対応できる強い人材になりえるのです。