フライヤー×サーキュレーションの「知見と経験の循環」企画第6弾。

経営者や有識者の方々がどのような「本」、どのような「人物」から影響を受けたのか「書籍」や「人」を介した知見・経験の循環についてのインタビューです。

今回登場するのは、トヨタNO.1メカニックの座に輝き、現在はWEBマーケティングを推進する株式会社プラスドライブ代表取締役CEOを務める原マサヒコ氏。

神奈川トヨタ自動車にメカニックとして入社し、5000台もの自動車修理に携わり、技術力を競う「技能オリンピック」で最年少優勝を果たしています。さらに、カイゼンのアイデアを競う「アイデアツールコンテスト」では2年連続全国大会に出場。

IT業界へ転身後は、PCサポートを担当したデルコンピュータでは「5年連続顧客満足度No.1」に貢献し、株式会社プラスドライブを設立されました。『トヨタの自分で考える力』(ダイヤモンド社)をはじめ、多くの書籍を書かれており、セミナーの依頼が引きも切らないといいます。

メカニックから異業種へ転身していかれた原氏は、どんなキャリアの転機を経て、起業に至ったのでしょうか。

不登校、親からの勘当。どん底から「トヨタ技能オリンピック」優勝への快進撃

-原さんはトヨタ技能オリンピックで最年少優勝を果たすなど、整備士時代に偉業を残しておられます。まずは、これまで歩まれてきたキャリアについてお聞かせいただけますか。

原 マサヒコ氏(以下、原):

高校時代までさかのぼりますが、実はほとんど学校に通っていなかったんです。成績も悪く、友人もほとんどいなくて、ダメ人間のレッテルを張られるような落ちこぼれ。唯一バイクいじりが好きで、18歳のときに車の免許を取ってからは安い車を買って、いじり始めていました。そんな生活をしていたら、親から出て行けと本気で言われてしまって。自分には車の世界しかなかったので、横浜にある小規模な専門学校で自動車整備士の資格を取って、神奈川トヨタに入社しました

当時は体育会系の職場だったので、炎天下の修理作業でも先輩から水すら飲ませてもらえない雰囲気でした。でも最初がこういう環境だったからか、他の業界に行っても「あのときに比べたら大したことない」と思えるようになったので、経験しておいてよかったですね。

技能オリンピックの存在を知ったのは入社半年後。10年目くらいのベテランが出場する大会なのですが、上を目指したいという思いで技能を磨き、4年目に出場し、優勝しました。

-入社してすぐに高いモチベーションを持つことができたのは、なぜだったのでしょう。

原:

高校時代までどん底だったので「いつか見返してやる」という反骨精神があったんです。

キャリア設計でいうと、私はキャリア理論にある「キャリアドリフト」の考え方に近いなと思います。ざっくりした方向性を定めつつも、業種や職種としての目標を事前に細かく決めずに、ただ目の前の仕事で成果を出すことのみを意識するタイプなんです。

技能オリンピックで優勝した達成感を味わい、次はIT業界へ移ろうと、マイクロソフトの資格を取ってすぐに転職することに決めました。メカニックからITの世界というと異業種だと言われますが、車とITサポートって実は似ているんです。ITのトラブルシューティングでは、トラブルの原因が何なのかを五感で探りますが、これはメカニックでずっとやってきたこと。

こういう風に思い立ったらすぐ行動するのは「トヨタ病」かもしれません(笑)

トヨタは「遅く残る人ほど仕事がデキない」トヨタの現場で培った思考で真逆のカルチャーのIT企業を改善

-IT時代につらかった経験は何でしたか。

原:

社員がみんな非常に遅くまで残業していて驚きました。トヨタでは「遅く残る人ほど仕事がデキない」とみなされていたので、真逆のカルチャーに最初は拒否反応がありました。何とかこの環境にメスを入れたいなとも思っていました。

幸い、転職後たった半年後にコールセンターのプロジェクトのリーダーを任されたんです。周囲は「未経験で入社したばかりなのにかわいそう」という目で見ていましたが、私は「これは部署全体の働き方を改革するチャンスだ!」と思った。

そこで、トヨタ式の「真因思考※1」という考え方にのっとり、「なぜ残業が多くなるのか」と、「なぜ」を突き詰めていったんです。例えば、同じ内容の問合せが多いことから、WebサイトのFAQの不足という真因を見つけ、FAQを整備することで残業を減らすことができました。

こうした改善思考は、「どうすれば最短の時間で最大の質を保てるか」を考えるトヨタの現場で培ったものです。物を取りに行くときの動線が遠回りになっただけで注意されてましたから。

※1 真因思考:表面上の出来事ではなく本質を見抜いていこうとする考え方

勤務先が買収されることが一転チャンスに 「自分の強みに特化する」ウェブマーケの世界へ

-トヨタの現場で培った思考が、次の職場でも大いに活きていたのですね。
そこから、マーケティングの道にキャリアを転換しようと思ったのはどんなきっかけがあったのでしょう。

原:

ITサポートをする中で、Webの知識とライティングが自分の強みだと気づきました。「原がお客さんにメールすると、クレームがおさまるな」みたいなことがよく起きて。それ以来、自分の強みを意識的に磨こうと思い、Webマーケティングやライティングの本を片っ端から読み始めました。

マーケティングの本を読んでいる中で、「強みに特化する」という方針をさらに強めてくれる考え方に出合いました。それが「バリュープロポジション」。本来は、マーケティングの3CにあたるCompanyとCustomerが重なり、かつCompetitorが参入できない分野にリソースを投入すると最大の効果が出るという考え方なんですが、それを個人にあてはめると、自分の得意なスキルで会社が求めており、かつ同僚がまねできないスキルを磨けばいいとわかります。それ以来、自分の強みをさらに磨いていたところ、「マーケティング部を立ち上げてくれないか」と会社から声をかけてもらって。

そんな矢先、勤めていたIT企業が上場企業に買収されたんです。みんながざわつく中、私は「クライアント企業の幅も広がるし、これはチャンスだ」と思った。案の定、買収した上場企業のグループ各社から「うちにもマーケティング部がないから手伝ってほしい」と声がかかる状態になりました。具体的には、Webページがうまく活用されていない会社のサイトの構成や文章を考え刷新することで、コンバージョン率が上がり、Web経由の問合せが9倍に伸びたこともありました。

約半年間のフリーランスの期間を経て、プラスドライブの起業に至ったのは、Webマーケティングの世界を極めたい、もっと幅広い案件に携わりたいという思いからです。

私のキャリアは、まわりの期待に応えていきながら、自分のやりたいことを選んでいった結果、築かれていったのだと思います。

「何」をするかより「誰」とするかが大事

-今、独立を考えているビジネスパーソンにアドバイスをお願いできますか。

原:

独立しよう! 起業しよう!と意気込みすぎると、「日銭を稼がなきゃ」と本意でない仕事を引き受けてしまいがちです。仕事を引き受けるかどうかを決める際には、「自分にとって楽しいかどうか」という軸を大事にしてほしいですね。

面白法人カヤックさんの言葉で「何をするかより誰とするかが大事」というのがあるのですが、私もその通りだなと経験上感じています。「何をやれば儲かるか」などと「何を」にフォーカスしたプロジェクトはたいてい行き詰りますが、「誰と」を意識したプロジェクトは最終的にうまくいくことが多い。だから、「(事業を)誰とするのか」を見極めることが重要だと思います。

本の要約サイト フライヤーのインタビューはこちらから!

『トヨタの自分で考える力』(ダイヤモンド社)をはじめ、多くの書籍を書かれており、セミナーの依頼が引きも切らないという原マサヒコさん。

どんな思いで本を書かれ、そしてどんな風に読書から学んだことを、キャリアに活かしてきたのでしょうか。


ノマドジャーナル編集部

専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。
業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。