前回はリモートワークのメリットと注意点の双方について、様々な角度から考えてみました。リモートワークはなんといっても時間の融通が利き、自分のペースで働けるという点で、非常に魅力的なワークスタイルといえます。この働き方を上手く取り入れることで、人生の可能性を大きく広げられるかもしれないのです。

今回は具体例を通して、リモートワークによる新しい働き方について見ていきましょう。

キャリアウーマンを襲った試練

まず最初に、リモートワークでピンチを脱した人の例を見てみましょう。

1週間、実家で看護リモートワークをしてみた体験記 ~働き方改革に本当に必要なもの~

都内で育児をしながら働いている女性の体験談です。精力的に会社勤めをしていた彼女ですが、あるとき父親が病気となり、遠く離れた実家に戻らなくてはならなくなりました。これは職場のメインプレイヤーであった彼女にとって、非常に深刻な事態でした。

「水曜日から翌週の火曜日までが5営業日。しかし、そんなに休みをとると仕事がまわりそうにない。私の実家がある場所は、市街地からは離れていて、新幹線の駅からは車で30分、病院からは車で40分くらいの距離にある。毎日東京まで新幹線通勤をするのも簡単ではない」

父親の病気に直面した彼女を困らせたのは、なんといっても実家と職場の距離的問題でした。彼女自身が会社の中心的存在であったため、休暇を取っては業務を停滞させる恐れがありました。かといって新幹線で毎日通勤するのも、ロケーション的にはほぼ不可能だったのです。

たとえ会社で順調に働いていたとしても、職場以外で何らかのアクシデントは起こり得ます。人生には何が起きるか分かりません。家族や実家の問題はもちろん、あなた自身が病気などの不慮の事態に直面する可能性もあります。会社勤めの仕事の場合、通勤が不可能になると、仕事の前提が狂ってしまうわけです。

こんな時のための「リモートワーク」

こうして窮地におちいった彼女ですが、発想を切り替えることでピンチを乗り切ります。

それは父親の看病をするあいだ、仕事を「期間限定のリモートワーク」にスイッチすることでした。

『そうか、こういうときのためのリモートだったのか!』
社内システムやファイルサーバーがクラウド化されていて、オフィスの外からもアクセスできる。
フレックスタイム制なので、早めに仕事を始め、早めに切り上げるなど時間の融通がきく。
実家のインターネット環境が悪くても、ポケットWifiが支給されている。
個人に貸与されているのは当然ノートPCだ。
この制度のおかげで、看護をしながら実家でリモートワークをすることができた

会社勤めをバリバリこなす彼女は、それ以外の働き方を考えたことすらなかったかもしれません。しかし父親の病気というアクシデントを通じ、リモートワークが持つ可能性に気づいたのです。

そして彼女の話からは、リモートワークを支えるインフラ面の重要性もよく分かります。

職場の中心的プレイヤーである彼女は、業務遂行にあたって社内のシステムやデータにアクセスする必要がありました。幸いにもこの会社は、システムやファイルサーバーがクラウド化されており、外部からそれらにアクセスすることができました。こうして彼女は、実家で父親の看病をしつつ、日々の業務をリモートワークで続行できたのです。

こんなに快適だったリモートワーク

さらに彼女の会社は、社員にノートPCとポケットWiFi(注)を貸し出していました。よって自宅に限らず、WiFiがつながる場所であればどこでも仕事ができるインフラが整っていたのです。

(注)モバイルWiFiルーター……WiFiは無線LANの代表的なもので、ケーブルでの接続がなくてもインターネットに接続できる。モバイルWiFiルーターは持ち運びが可能なため、WiFiがつながる環境下であれば、どこでもインターネット接続を可能とする。

彼女にとって、急に取り組むこととなったリモートワークの環境は、思いのほか楽しいものだったようです。その新鮮な体験を、彼女はこう記しています。

朝起きて、メール等をチェックしてから、病院に向かう。
昼過ぎに病院から戻る途中に買い物をして家に戻る。
そこから本格的に仕事を開始する。
社内会議にはスカイプで参加。
お客様とのやり取りも、メールと電話で乗り越えることができた。
余裕があるときは、社内会議をスターバックスのテラスからやってみたりもした。
約1週間の看護リモートだったけど、地方暮らしの楽しさも不便さも知ることができ、どこでも仕事ができることも実感した

彼女の話から、リモートワークについて以下の2つのことが分かります。

  1. リモートワークをするには、通信インフラの整備が不可欠である
  2. 通信インフラさえ整っていれば、リモートワークは簡単に始められる

つまりリモートワークとは、通信インフラと密接不可分だということです。

彼女は毎朝、仕事用のメールに連絡がきていないかチェックしました。そして社内会議にはスカイプを利用し、遠距離でも問題なく参加できたといいます(スターバックスからも参加ができるというのですから、時代は進んだものですね)。さらには顧客とのやり取りも、メールと電話を使えば問題なくこなせたというのです。

パソコン、電話、メール、スカイプ、WiFi……こうした通信用のインフラが整っていれば、リモートワークはすぐにでも行うことができます。さらには会社のファイルなどにアクセスができれば、彼女のように会社の中心で働く社員でも、事業の根幹にかかわる業務を問題なくこなせるのです。

リモートワークは通信インフラの進歩によって広まった働き方であり、まさにIT社会の申し子というべきワークスタイルなのです。

リモートワークもチームワーク

今回ご紹介している女性は、リモートワークだからこそ、人とのつながりが大切だと記しています。

実家でリモートワークをしてみて『環境に恵まれている』と感じたのは、ざっくばらんにお互いのことを話し合える仲間の存在が大きかった。それほど混乱なく周囲のメンバーと連携して仕事を進めることができた背景には、職場で日頃からお互いの仕事の状況や、家族の状況を話していたということがある

リモートワークを成功させる条件として、彼女はまず(仕事関係者との)相互理解が重要だと主張します。急な事情でリモートワークに移行しながらも、彼女は滞りなく業務を遂行できました。仕事仲間との相互理解が十分で、上手く連携が取れたからこそ、会社を離れての業務を乗り越えられたのでしょう。

ここは顔が見えないリモートワークだからこそ、特に重要なポイントだといえます。リモートワークの多くはインターネットを通じて仕事を受注します。仕事の完了まで仕事先の担当者と顔を合わせないケースも多くあります。

だからこそ相手(仕事先)の求めているものを、的確にくみ取った上で作業をしなくてはいけません。いくら自分自身が「いい仕事をした!」と満足していても、クライアントのニーズに合った成果物を提出できなければ、仕事は失敗に終わってしまいます。仕事相手の顔が見えないからこそ、「仕事で何を求められているのか」に注意して、業務に取り組む必要があります。

リモートワークは独りよがりな仕事をしないことが何より重要です。そのためには、仕事先との相互理解・意思疎通が不可欠なのは言うまでもありません。

さらに女性は、以下のようにも記しています。

『離れていてもちゃんとやっている』というメンバーどうしの信頼関係がベースにある。
たとえ設備や制度が整っていても、それらを安心して使える関係性ができていなければ活用されないだろう。一緒に働く仲間のことを知ろうとすること。これが、働き方改革を実現する上で、どんな立派な制度よりも大切なことではないだろうか

信頼関係―――これまた、顔が見えないリモートワークだからこそ、特に重要なポイントです。

クライアントの立場で考えてみると……遠隔地在住の、顔が見えない相手に仕事を頼むのは、なかなか勇気のいることです。

通常のオフィス勤務の場合、会社は基本的にスタッフの仕事ぶりを直に確認できます。作業内容や仕事姿勢に問題があっても、上司や同僚が直接面談して注意することが可能です。

しかしリモートワークの場合、クライアント側と受注者が日ごろ顔を合わせないのはもちろん、仕事が完了する最後まで会わずじまい……というケースが大半です。よってクライアントが受注者の作業プロセスをチェックすることは難しく、作業物が送られてくるのを待つしかないという面があります。

顔が見えないリモートワークは、オフィスワークよりも信頼関係の構築が難しくなります。だからこそ受注者としては、クライアントの信頼を勝ち取るべく、細心の注意を払わなくてはなりません。仕事先のニーズに合った作業をするのはもちろん、連絡を緊密に取るなどして、信頼関係を作っていく必要があります。クライアントから見て「信頼できるパートナー」とならなくては、継続して仕事をもらうこともできないのです。

まとめ

この女性の体験談から、リモートワークに不可欠な要素が大きく3つあることが分かります。

通信インフラの整備

パソコン、電話、メール、スカイプ、WiFiなど、通信インフラが整備されていることが、リモートワークを始める第一歩です。オフィスに通わずに仕事を請けるのですから、連絡をしっかり取ることは大前提です。

仕事先との相互理解

リモートワークでは、とにかく仕事先のニーズを的確に読み取ることが大切です。顔を合わせての打ち合わせは(基本的に)ありませんが、だからこそ相手の求める内容をしっかり聞き取り、ニーズに合った作業を提供しなくてはいけません。

仕事先との信頼関係

顔を合わせない関係だからこそ、仕事先の信頼を得られるよう、細心の注意を払う必要があります。クライアントに「信頼できるパートナーだな」と評価されれば、継続して仕事をもらえる可能性も高まります。

今回ご紹介した女性はリモートワークを通じ、かえって同僚との人間関係の重要性を再認識したといいます。どんな仕事であれ、基本は人と人とのつながり―――それはリモートワークであっても、同じことなのです。

記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)