働いている方にとって、働き方改革とは正しく自分自身の生活に密接に関係する事柄です。会社経営者、人事担当者はもちろん、労働者の方も非常に興味があるのではないでしょうか。ここでは、働き方改革の基本を押さえ、働き方改革の着目点やその方向性について説明をします。

なぜ、今、働き方改革が求められているのか

働き方改革が目指しているこれからの労働制度と働き方とは何か

これまでも企業努力で人事制度改革などに取り組みがなされてきた中で、政府が働き方改革に乗り出してきたその理由について説明します。

現在、4年目を迎えるアベノミクスの成果は着実に表れています。具体的には、日本経済全体として名目GDPは47兆円増加し、成長率は9%となっています。それに伴い、労働者の賃上げも行われ、4年連続でのベースアップも実現しつつあります。

さらに雇用の面でも有効求人倍率が史上初めて47都道府県全てで1倍を超え、25年ぶりの高水準となりました。加えて正規雇用者数は26か月連続で前年超となっています。

また、格差問題では相対貧困率が減少、子供の相対的貧困率についても初めて減少に転じました。

しかし、1億総活躍社会の実現のためには、なお一層の対策が必要です。そのための働き方改革です。具体的には、イノベーションの欠如による生産性の向上の低迷、革新的技術への投資不足、個人消費や設備投資などの民需に対するブレーキとなっている少子高齢化や生産年齢人口低下などの人口問題が挙げられます。働き方改革が目指しているものは、付加価値生産性と労働参加率の向上です。働き方改革が実現することで、経済の成長と再分配の循環が好転し、中間層の厚みが増し、消費を押し上げ、さらに多くの方が心豊かな家庭を持てるようになるのです。

働き方改革とは誰が作っているのかという視点から見てみます。

働き方改革は、働き方改革実現会議において審議されています。総理大臣が自ら議長を務めているということ、議長代理として厚生労働大臣に加え、働き方改革担当大臣という担当大臣のポストを設置していることからも、その本気度が伺えます。これに労働界と産業界のトップと有識者が集まり議論していきます。

今回ご紹介している働き方改革の実行計画もこの会議によるもので、労働者側、使用者側に加え有識者も含めて合意形成をしています。

働き方改革工程表では、法改正や助成金の実施などについて目安となる時期も示されています。

働き方改革が最も重要視している点は何か

働き方改革の目標は日本経済の再生にあります。バブル経済の崩壊やリーマンショックなど経済危機を通じて日本の労働環境は変革してきました。しかし、それは一面的なものに留まり、人々のワークライフバランスというトータルな形での本格的改革とはいえないものでした。安倍内閣では労働者1人1人が明るい将来の展望を持ち、多様な働き方の中で自らの未来は自らが作っていくことができる環境を作り、結果として職業生活と家庭生活のバランスの取れた豊かな暮らしと、意欲のある人々に対しては多様なチャンスがある社会の形成を目指しています。

労働制度と働き方に関する3つの課題とこれに対する働き方改革による変革①

課題その1 正規と非正規の合理性のない処遇の差

働き方改革が示す現在の日本の労働環境における課題の1つ目として、「正規と非正規の間にある処遇の差」があります。正規雇用と非正規雇用の処遇差の問題でまず挙げられるのは同一労働同一賃金ではないでしょうか。またこれに付随する問題として、能力による適正な評価とそれに伴う労働意欲の増加による賃金引き上げ、労働生産性の向上があります。

課題ごとに挙げられる具体的な検討テーマの洗い出しとそれぞれへの対策

まず、正規と非正規の合理性のない処遇の差を改善することが1つ目の検討テーマです。

処遇差を解消し雇用形態の選択に関わらず納得できる処遇を受けられ、働き方を自由に選択できるようにするためにも同一労働同一賃金の法整備が必要になります。

その同一労働同一賃金を確保するための法律とガイドラインの整備として、司法判断の根拠となる規定の整備や雇入れ時等の待遇に関する説明の義務化、行政による裁判外紛争解決手続きの整備、派遣社員に関する法整備、その具体的な施策として、国家公務員の非常勤の処遇改善や地方公務員の非常勤職員の任用・処遇改善を推進します。

併せて非正規雇用の労働者を社員化するなどのキャリアアップを推進のため、同一労働同一賃金の実現など非正規雇用労働者の待遇改善に向けた企業への支援や労働契約法に基づく無期転換ルールの円滑な適用に加え、被用者保険の適用拡大をします。

また、付随する問題として挙げられている、賃金の引き上げと労働生産性の向上が2つ目の検討テーマです。

企業への働きかけや生産性向上支援など、賃上げを目指した環境整備のための具体的な施策として最低賃金の引き上げと最低賃金引上げ支援としての助成する制度を拡充します。

また、雇用保険法を改正し、雇用関係の助成金に生産性向上を要件とするものや、生産性向上に関する人事評価制度及び賃金制度を整備し、生産性向上、賃金アップ、離職率低下を実現した企業への助成金の創設、賃上げ事業者への税額控除など、中小企業向け支援強化と周知徹底を図ります。

さらに下請等中小企業の取引条件の改善として、下請法の運用基準の改定、下請代金の支払いについての通達の見直しを行うことに併せて、価格交渉力支援のための相談体制の充実させます。

そして下請ガイドラインの周知徹底に加えて、産業界へは自主行動計画への実施を要請、並びに下請けGメンによる実態調査を行います。

労働制度と働き方に関する3つの課題とこれに対する働き方改革による変革➁

課題その2 過度で合理性のない長時間労働

課題の2つ目として長時間労働があります。長時間労働には、単純な労働時間だけでなく、時間に対して制約が生じる問題点も含まれます。例えば、長時間労働による心身の健康阻害や通勤に時間がかかる、育児・介護と仕事とを両立させる、などです。

課題ごとに挙げられる具体的な検討テーマの洗い出しとそれぞれへの対策

2つ目の課題である長時間労働では、検討テーマの3つ目として次のことが挙げられています。

長時間労働の是正に対しては原則の時間外労働を月45時間、かつ、年360時間と法改正による罰則付きの時間外労働の上限規制や、労働者の健康に配慮した労働環境の整備として、生活時間の確保として、勤務間インターバル制度を導入し、前日の就業時刻と翌日の始業時刻との間に一定時間以上の休息の確保に努める努力義務を課します。

また、職場でのパワーハラスメント防止やストレスチェックなどのメンタルヘルス対策を推進します。

さらに検討テーマの4つ目として労務管理に関するガイドラインを刷新し、勤務地や就業時間などに柔軟に対応するために、テレワークのガイドラインの刷新と支援や、副業・兼業推進のガイドラインとモデル就業規則の改定などの環境整備さらにセキュリティ面についてもガイドラインを刷新します。

また、雇用型だけではなく、非雇用型テレワークについても、働き手側に対する支援としてガイドブックの改定、職業訓練等の支援を行います。

副業や兼業についても推進し、ガイドラインの策定やモデル就業規則改定などの環境整備を行います。このガイドラインでは、副業等のメリットを示すとともに、就業規則等で合理的な理由なく副業等を禁止できないことを明確化し同時に、長時間労働を招かないよう、労務管理の在り方も策定します。

検討テーマの5つ目として病気の治療や育児・介護等と仕事との両立、障碍者就労の推進のため、がん等の病気や不妊治療に対して治療状況に合わせた働き方ができる環境整備として主治医、会社とのトライアングル型支援の推進を行います。

育児・介護等と仕事の両立支援として、受け皿としての設備整備と保育・介護人材の処遇改善を必要としています。

さらに、育児・介護休業法を改正し、保育園に入れない等の育児休業期間を最長2歳まで休業期間と雇用保険における給付金の支給期間を延長します。加えて、男性の育児参加意識を広げるため、男性の産休取得をまずは国家公務員、地方公務員から取得を促進する。障害者の就労支援については、障碍者雇用ゼロ企業の受け入れを促進するため、実習や研修を進め、あわせて在宅就業等も促進します。

検討テーマの6つ目として外国人労働者の受け入れは、移民政策ではなく、真に必要な分野に着目しつつ調査・検討を進めていきます。

外国人の生活・就労環境の整備から日本版高度外国人グリーンカードの創設、国家戦略特区の活用に加えて、外国人介護福祉士の活用促進などです。

労働制度と働き方に関する3つの課題とこれに対する働き方改革による変革③

課題その3 日本特有のキャリアパス

課題の3つ目として年功序列をはじめとする日本特有の慣習から脱却しきれていないキャリア形成プランがあります。労働者の雇用形態として終身雇用がほぼ終わりを迎えているにもかかわらず、転職や再就職など新卒以外の採用機会の門は未だ狭いです。

そこで働き方改革では、転職者や再就職者の採用機会拡大のため、労働市場や企業慣行の転換への支援に取り組む必要性を示しています。

課題ごとに挙げられる具体的な検討テーマの洗い出しとそれぞれへの対策

最後に3つ目の課題である日本特有のキャリアパスでは7つ目の検討テーマとして、就労機会を得にくい状態であった、女性や若者が活躍しやすい環境を整備することです。

女性のリカレント教育など、個人の学び直しや職業訓練などに対しての雇用保険の専門実践教育訓練給付の増額拡充や学び直し講座の分野、受講時間の増設、eラーニングの活用などの多様化を促進します。

パートタイマーが就業調整を意識しない環境整備や正社員女性の復職など多様な女性活躍の推進するため、配偶者控除の収入制限額を103万円から150万円へ引き上げます。短時間労働者への被用者保険の提要拡大を図り、子育て等により離職した正社員女性等を復職制度を導入して希望者を再雇用した企業に支給する助成金を創設します。

就職氷河期世代や若者の活躍に向けた支援と環境整備を推進するため、セミナーやハローワークの活用、就労・自立支援などの体制構築する一方、企業側に対しては、特に若者の使い捨てが疑われる場合、ハローワークでの求人を受理しないなど対応策を強化します。

8つ目の検討テーマとして転職や再就職支援、人材育成、教育の充実があります。

転職・再就職者の採用機会拡大のための指針作りと受け入れ企業支援、職業能力・職場情報の見える化として、ハローワークへ専門窓口の設置することでマッチング支援を推進します。

具体的には、転職者受け入れ促進のための指針を策定し、経済界へ要請、また、転職・再就職向けインターンシップについてガイドライン作成など、受け入れ企業側へも支援を行います。

さらに、給付型奨学金の創設など誰にでもチャンスのある教育環境の整備が挙げられます。

9つ目の検討テーマとして高齢者の就業促進です。

その基礎と考えられているのが、継続雇用の延長や定年延長を支援することであり、求職高齢者と企業とのマッチングの支援をすることになります。さらに、雇用という形ではなく、高齢者による起業時の雇用助成の強化やシルバー人材センター、ボランティアなど多様な社会参加を推進します。

まとめ

このように、働き方改革では、大項目として3つの課題(処遇改善、時間や場所などの制約、キャリア構築)に焦点を当て、その中の問題点の掘り出しとして9つの検討テーマ(非正規雇用の処遇改善、賃上げと労働生産性向上、長時間労働の是正、柔軟な働き方ができる環境、病気治療、育児・介護等と仕事の両立、外国人の受け入れ、女性・若者が活躍しやすい環境、転職・再就職・人材育成・教育、高齢者の就業促進)に落とし込み、問題提起に対して対応策を検討しています。

働き方改革はバブル崩壊やリーマンショックによって変革した日本の労働環境に生じた問題点を是正し、日本経済を更に発展させるためのものです。働きがいのある、安心して働ける社会を創造するために労働者1人1人が抱える問題点を掬い上げ、きめ細かな改革を行う必要があります。

執筆者:加藤社労士

2015年より社労士事務所を開業。2016年よりネット上を中心に労務、助成金関係の記事を多数執筆