「働き方改革」って一体なに?
安倍晋三首相が目指している「働き方改革」の推進。働き方改革という言葉はよく耳にしますが、その具体的な内容までは把握していない、という方も多いかも知れません。
働き方改革とは、その名の通り、労働者の働き方をよりよい方向に改善していこうという取り組みのことです。
そのためには残業時間を減らしたり、生産性を向上させたり、働きたいのに働けない現状を見直したり、男女の不平等を是正するといった課題解決も含まれます。
ここでは、政府主導の働き方改革の概要・目的を解説したあとに、先行して働き方改革を成功させた企業の取り組み事例も紹介していきます。
働き方改革の概要・目的は?
働き方改革は、政府が策定した実行計画のこと
冒頭で「働き方改革は政府主導」と書きましたが、もっというと官邸主導、内閣主導で進められている実行計画です。安倍内閣は、働き方改革の実行計画を実現するために、できるだけ早くに法案を立案し、成立させることを目指しています。
働き方改革の基本的な考え方は、日本経済を再生するため、労働制度の抜本的な改革を推し進め、企業文化や風土を変えて行こうとするもの。働く一人ひとりが、よりよい将来の展望を持てるようにすることが目標です。
一億総活躍社会の実現を目指している
働き方改革は、安倍首相が掲げる「一億総活躍社会の実現」とも密接にかかわっています。首相官邸のホームページには、「働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ」だと書かれています。
一億人の日本国民全員が活躍する社会のために、「多様な働き方を可能にすること」「出産や介護などで離職せざる得ない状況を改善すること」「格差の固定化を回避していくこと」などが目標です。
働き方改革が必要になった背景とは?
労働人口の減少で、働き手が少なくなった
政府が「一億総活躍社会」や「働き方改革」を推進している背景には、労働力の主体となる生産年齢人口(15~64歳)が、想定を上回るペースで減少している現状があります。
生産年齢人口は、1995年以降、年々減少。内閣府のホームページによると、このままの人口推移でいくと、約90年後の2110年には、生産年齢人口が現在の半分になると推測されています。
働く年代の人口がこのまま減ってしまっては、労働力が足りなくなり、将来の日本経済は回りません。それを食い止めるために、政府は働き方改革を進め、働きたい人が全員働ける社会づくりに乗り出したのです。
長時間労働の増加が問題になっている
働き方改革が声高に叫ばれている背景には、世界的に見ても日本人の長時間労働が深刻な状況であり、定常化した日本の長時間労働が、諸外国から問題視されていることもあります。
2013年に国連は日本に対し、「多くの労働者が長時間労働に従事していること」「過労死などが発生し続けていること」を是正するようにという勧告を出しました。
「残業している人の方が偉い」といった風潮もあり、残業を拒否すると出世できなかったり、配置転換されてしまったり……というケースも見受けられます。
労働生産性を改善する必要がある
安倍内閣の「働き方改革実現会議」で、取り組むべき検討テーマとして取り上げられた中に、「賃金引上げと労働生産性の向上」という項目があります。
昔から「日本人は勤勉でよく働く」と言われていましたが、このところの日本の労働生産性は、ほかの先進国と比べると低い水準です。
国民ひとり当たりの名目GDPをOECD加盟国で比較したとき、2015年の日本の順位は35ヵ国中20位。2000年には2位でしたが、その後は順位を下げていて、2015年もひとつ順位を落としています。
労働力が年々減少していくことを考えると、このまま生産性が上がらなければ労働力が不足してしまうため、労働生産性の向上が急務なのです。
働き方改革を実現するために必要なこととは?
長時間労働の是正
国連からの是正勧告もあり、長時間労働の是正はとても重要な位置づけとなっています。具体的には時間外労働の上限規制や、勤務間のインターバル設置、労働時間を客観的に把握するための取り組み、そして36協定の適正化などです。
自動車の運転業務・建設業などは、現行の36協定では適用除外となっていますが、平成36年以降、時間外労働の上限規制が設けられる方向で法整備が進んでいます。
非正規雇用の格差改善
非正規社員の処遇を改善し、正社員と非正社員の格差をなくしていくための改革案が議論され、進められています。それが2016年12月に提示された「同一労働同一賃金ガイドライン案」です。
簡単にいうと、同じ仕事をしている人には、正規・非正規にかかわらず同じ賃金を与えるようにしよう、という内容。
仕事内容は同じなのに、正社員なのか契約社員なのかアルバイトなのかによって賃金が変わるのはおかしいですよね。家庭の事情などで短時間勤務を余儀なくされている人に対しても、公平に賃金が支払われるよう、是正されるようになる見込みです。
テレワークの推進
場所や時間にとらわれない柔軟な働き方として注目されているのが、会社に出勤せずに離れた場所で就業するテレワーク。在宅勤務のほか、カフェや場所を限定しないモバイルワーク、遠隔勤務地のサテライトオフィスで働く形が想定されています。
テレワークが進めば、会社に行かずに就業が可能となるので、育児や介護などと仕事を両立することが可能になり、今まで働きたいけど働けていなかった方の環境改善につながるではないでしょう。
また通勤費やオフィス賃借料などの経費削減や、働く人たちのライフワークバランスの充実にもつながるというメリットも。
育児や介護との両立
働きたい意欲はあるのに、出産や介護を理由に退職を余儀なくされたり、復帰しようにも理解ある職場がないということが問題になっています。育児の場合は、待機児童の問題もあり、子供を預かってくれる人が見つからずに働けない人が大勢いる現状です。
これからますます労働人口が減り、労働力が足りなくなるのは明らかなので、働きたい人がきちんと働ける環境づくりが必要とされています。具体的には待機児童の解消、保育サービスの充実、介護休暇を充実させる法整備などが必要です。
働き方改革を推進する企業の事例
政府主導の働き方改革ですが、それに先行する形でいち早く働き方改革を成功させている企業があります。ここではそんな企業の事例を紹介していきますね。
同一労働同一賃金を実現したイケア・ジャパン
法改正に向けて進められている「非正規社員の処遇改善」や「同一労働同一賃金」に、会社としていち早く取り組み、実行したのが、家具・インテリアの販売を手掛けるイケア・ジャパンです。
取り組みは2014年9月からスタートし、日本の大企業としてははじめて、すべての従業員に「同一労働同一賃金」が適用されています。これは同じ職務であれば、すべてのコワーカーが同じ賃金が支給できる仕組みです。また賃金だけではなく、同一の福利厚生を適用し、労働時間の選択も可能。
同社は正社員・パートタイマーという雇用区分を撤廃し、全員をコワーカーとしました。また有期契約を無期契約に転換し、地域ごとに異なっていた時給も全国一律に。
朝型勤務で労働生産性を向上した伊藤忠商事
日本屈指の大手総合商社である伊藤忠商事は、早朝出勤を奨励することで労働生産性の向上に成功。そのためには今までの制度に下記のような変更を実施しました。
・全社一律で適用していたフレックスタイムを撤廃
・20時~22時の時間外勤務は事前申請が必須
・22時以降の残業は、完全禁止
制度また制度がうまくいくために、朝5時~8時の勤務には深夜勤務と同様の割増賃金を支給したり、8時前に始業した社員には軽食を無料配布するようにしたりという工夫も。
そしてその結果、
・時間外勤務時間数は約15%削減
・残業代手当は約10%削減(朝食代を引いても約6%削減)
・電力使用量は約7%削減、タクシー代は約30%削減
という結果になったと報告されています。
長時間労働を是正したSCSK
長時間労働が常態化しているイメージがあるIT企業。そんなIT企業でありながら、長時間労働をなくした企業がSCSK株式会社です。同社が取り組みをスタートさせたのは、約7割の女性社員が30代前半までに離職・転職してしまうことがきっかけでした。
残業をすればするほど残業代が増える仕組みを無くし、残業を減らしても給料が減らない給与体系に変更。その結果、残業月18時間を達成。
さらに削減された残業代は、インセンティブとして社員に還元されるため社員のモチベーションもアップ。残業を減らした分、仕事に携わる時間は減りましたが、効率的に働くようになり、業績も躍進されています。
全労働者が働きやすい環境を目指すことが大切
働き方改革の概要から、必要になった背景、そして先行企業の働き方改革事例までを紹介してきました。(制度別の事例については『働き方改革とは?各社の事例を確認して自分の働き方につなげよう!』もご参照ください。)人口が減り、働き手が減るのは避けられない状況で、内閣がいうような一億総活躍社会にするためには、仕事環境の改善は必須といえるでしょう。
法整備はもちろんのこと、会社主導でさまざまな働き方改革が進められ、すべての労働者が働きやすい環境で働ける時代が来ることを願うばかりです。