目標管理制度(MBO)とは?
提唱者はドラッカー
目標管理制度(MBO)とは、Management by Objectivesの略。提唱したのは経営学者のピーター・ドラッカーらとされています。1960年代にはすでに存在していたようです。
アメリカのマネジメントスタイルとして、成果主義の評価制度にMBOが浸透していたことを受け、日本に導入され始めたのは1990年代ごろからでした。
MBOの概要
まずは、日本に浸透したMBOの概況を見ていきましょう。
成果主義が取り入れられる中で、MBOが社員の成果を何によって評価するかというと、個人で設定する目標の達成度でした。組織全体で企業の大きな目標の達成に向けて、個々の目標を達成しながら、社員と企業の成長をともに上げていく目的がありました。
実は、日本に浸透したMBOは、ピーター・ドラッカーが考えた本来の完全なMBOから抜け落ちた部分があったことが指摘されています。マネジメントするものと社員のコミュニケーションが重要という点です。
MBOでは、社員のそれぞれが自分で目標を設定します。その際に、組織の方向性に合う目標でなければ組織の目標は達成できません。コミュニケーションが欠けると、その目標の方向の摺り合わせもあいまいで、協力や適切な支援をしていくことを難しくしていたのです。
不完全なMBO観点の上に成り立ってきた従来の日本企業のマネジメントスタイル。現代では組織戦略としても機能しなくなっているようです。時代の変化も相まって、早急な変革が急務となっています。本来のMBOの姿を再考し、マネジメントに反映させていく必要がありそうです。
MBOの目的
本来の目標管理制度(MBO)の目的は、目標を達成することではなく、多くの企業が陥ってしまったとされる人事評価のためのものでもありません。もちろん、それらに効力があることは確かですが、根本的な目的にするのは危険です。
本来の目的とは、
・自ら具体的な目標設定をすることで、主体性とモチベーションを向上させる
・目標を管理しながら業務を進め、問題解決力を高めていく
・企業の方向性と照らし合わせた目標設定による組織統一感の創出
目標管理制度(MBO)の目的は、組織やマネージャーが正しく捉えてマネジメントを行なう必要があります。
目標を達成することだけに注力して、周りを見ることができなくなったり、評価することだけに労力を投じてしまったり。そうしていく中で組織が失っていくものは多く、それらが現代企業で顕在化しているのです。
目標管理制度のメリット
モチベーションの向上
目標管理制度は、自分で目標を立てて、やらされ感なく前向きに業務に取り組めるでしょう。目標に対する進捗を自己管理する中で、達成に向けて分析、評価、改善を繰り返していきます。このサイクルがモチベーションが生み出し、社員の自主性や主体性が高まっていくのです。
また、自分で掲げる目標が組織の目標達成に関わっているという責任や効力感もモチベーションを後押しします。経営に関わっているという意識が向上することは、業務だけでなくその組織を高めていくモチベーションも促すでしょう。
人材育成の促進
目標を管理し、達成するための試行錯誤や周りとのコミュニケーションが社員を成長させていきます。
目標を掲げず、その日その場で指示されたことだけをやっているだけでは、成長することも、社員自身が成長を実感することも難しくなるでしょう。目標管理制度は、少し難しめの目標を掲げ、新しい発想や方法を使ったりして問題や課題を乗り越えていきます。
自信やモチベーションが高まるほどに、新たなチャレンジに挑んでいくことも促進されるでしょう。目標管理が、社員の能力を最大限に使って毎日をこなしながら、能力を上げていくことを実現するのです。
目標管理制度で失敗する理由
監視ツールとなってしまう
社員が組織の目標に沿う自己目標を掲げるわけですから、その達成度は企業の業績に関わってくるでしょう。目標管理制度があることで、その進捗や達成度を監視されているような気分になる社員も多いようです。
目標を達成することは「目標であり、目的ではない」ことをマネジメントする側も現場の社員も理解しておくことが大切。目標を達成することが、強制や脅迫的にならないように気をつける必要があります。
メリットがデメリットに転換
社員自身が目標設定を行ない、自己管理をする中で、上司への報告も欠かせない要素です。しかし、ここで、指摘や注意点が多かったり、遅れや未達成に対する反応が冷酷になってしまえば「目標設定などしないほうがまし?」と社員のモチベーションを下げてしまいかねません。
「目標を低く設定すればよかった」という心境が生まれてしまいがちです。達成度だけが評価基準になっていると、もともと低い目標を掲げればよいとなりがちなので注意が必要。能力を伸ばす機会を失う可能性があります。
個人と企業の摺り合わせ不足
個人の目標設定が、目標管理制度のポイントです。設定内容は、個人が組織目標をどのように理解しているかに左右されます。組織目標を決めるのは経営陣であり、直属のマネージャーからさらにわかりやすく伝えられなければなりません。
うまく摺り合わせができていないと、せっかく社員が掲げる目標が、個人的な目標になってしまいがち。達成されたとしても組織の業績には何の意味ももたないということもあるのです。
組織目標を、細かく分割して割り振るのは単なるトップダウンの指示。企業と社員の間に立つマネージャーが、社員の意向や能力と、企業の目標との摺り合わせをサポートしていくことが必要です。このために上司と部下の密なコミュニケーションが重要になってきます。
目標管理制度を成功させるポイント
短期管理に徹する
目標管理制度を人事評価の際に役立てている企業は多いようですが、近年、その評価期間を短期化することが有効と認識され始めています。年次評価を廃止する企業は急速に増えているようです。
ひとりの社員が、半年や1年という長いスパンでこなす業務の多様化が進んでいることが理由のひとつ。事業やプロジェクトの短期化と変更の頻度が高まっているのです。短期で組織としての反応を示せるようなリアルタイムな評価の仕組みが求められています。
フィードバックを有効活用
忙しい中で、部下とのコミュニケーションの取り方がわからない、コミュニケーションを取る時間がないと嘆く管理職は少なくありません。本来の目標管理制度は、上司と部下のコミュニケーションを生み出していくツールになります。
目標についての共通認識を持ち、上司は、部下の報告や考えに対するフィードバックを使っていけばいいのです。フィードバックがさらなるコミュニケーションの機会をもたらします。こうやって密にコミュニケーション取ることは、マネジメントの遂行と人材育成を可能にしていくでしょう。
目標は「明確」&「詳細」
目標設定の段階で、企業の目標も個人の目標も明確に、かつ具体的に表現されることが大切です。企業や各部署の目標がわかりやすければ、社員が自分の目標に落とし込むことも容易になります。社員の目標が、すぐに行動に移せるレベルの内容であるほど目標の達成度を高めるでしょう。
「できている」「できていない」の判断を助け、改善点や修正点を見出しやすくなります。さらには、100か0かの白黒的な判断ではなく、パーツパーツでの判断も可能になるため、困難や停滞にぶち当たっても、ムダにモチベーションを落とすことも減らせるでしょう。
マネージャーの育成は不可欠
ここまでの重要ポイントで、もっとも出番が多いのがマネージャーです。短期間評価をしていくことも、フィードバックをするのも、具体的な目標になっているかを確認するのも、部下に一番近い立場のマネージャー無しには遂行できません。
マネージャー業務はさまざまなスキルを必要とします。部下を育てるマネージャーも組織の人材の一人。それぞれの裁量に任せきりにするのではなく、マネージャーのスキルや能力を上げるための研修や意識教育を行なっていくことも大切でしょう。
目標管理制度の王道MBOと新トレンドOKR
MBOとOKRの違い
近年、世界的に人事評価制度を見なおす企業が増えていますが、OKRという目標管理手法があることをご存知でしょうか。MBOとOKRは、いずれも組織の目標を管理することに役立てられますが、その主な違いについて説明していきましょう。
OKRとは英語で、「Objective and Key Result」の略称です。
MBOの目標設定事項は、人事的要素が強い傾向が見られ人事や上司だけが知る閉鎖的な面がありました。OKRは個人の目標、進捗、達成のすべてが全部署、全社員で共有されます。
MBOは評価の際のフィードバックが一般的で、評価が年に一度なら、フィードバックのタイミングも年に一度。対して、OKRでは、頻度の高いフィードバックを行なっていくのです。
MBOは、目標達成を目指していくのに対して、OKRはより高い目標を掲げて取り組み6~7割の達成率がベストとされています。
OKRかMBOか
OKRは、組織戦略としても人事評価制度のツールとしても成果を感じる企業が増えています。MBOが年次評価ツールとして活用されるのであれば機能しないという点や、OKRのリアルタイムでの反応、評価の透明性、組織の一体感を向上させることが注目されている点です。
OKRとMBOのどちらを適用するかということは問題ではありません。問題は現状の組織の課題を解決していくことなのですから、型に沿った制度策定ではなく、いいとこどりの調整で機能させていくことも可能背はないでしょうか。
目標管理制度(MBO)も、本来の目的を理解して、そのための仕組みを作ることができれば、現代でも機能していくはずのものです。現代のトレンドOKRのメリットと照らし合わせてみたり、組織の特徴、課題、状況を加味したりしながら策定していくことが大切だと思います。