本場アメリカのみならず、日本でも様々な大学院が設置され、国内でも履修環境が整ってきたMBA(Master of Business Administraion、経営学修士)
キャリアアップを考えるビジネスパーソンなら一度は取ろうと考えたことがあるのではないだろうか。

しかし働きながら1年以上にわたって学ぶことが大変なことは容易に想像がつくし、仕事の現状によっては退職を余儀なくされることもあり、なかなか一歩が踏み出せないという人もいるだろう。

そこで実際にMBAを取った男性3人に、「なぜ取得したのか」「良かったこと」「後悔していること」などを聞いてみた。

お話を伺った3名のプロフィール

A氏:関東在住の40代、既婚。製薬で研究開発をしていたが、国内の私大ビジネススクールへ。
   フルタイムで学ぶため退職。現在は経営コンサルタントとして独立している。

B氏:関西在住の30代。既婚、子供もいる。国立大設置のビジネススクールを修了。

C氏:ヨーロッパ在住、30代。日本では外資系企業で勤務。欧州でビジネススクールを修了。
   そのまま海外就職し、ベンチャー企業製品開発部門で管理職を務める。

なぜMBAを取ろうと思ったのか?
「実務で直面する課題解決のため/いつか経営する側になるため」

理系のA氏は、周囲に医学、薬学、生物学の分野で優秀な人材がたくさんいたが、「経営を知らないために経営層に提案を受け入れられないことが多かった」と背景を説明。
「専門性の高い業務とはいえ、経営者に発言するには、経営の言葉や経営学を元にして理論を展開する必要があると強く感じた」と理由を話す。

社会人になって早い段階で中小企業診断士を取得したB氏。その過程で経営戦略やマーケティング、ファイナンスの理論などを学び、コンサルティング会社で勤務していたが、実務で直面した課題の解決策を具体的に学びたいと考えたことがビジネススクールの門を叩いた理由という。

昔から海外での仕事を志向していたC氏。バルセロナでの暮らしを夢見ていたが、スペインは失業率が25%を超えていることから、「外国人が仕事を見つけるには雇われる側ではダメだと思い、経営する立場に回るためにMBA取得した」という。

どうやってスクールを選んだのか?
「在校生と話せるとイメージがわきやすい」

学校選びについてはA氏は、「1年でMBAと中小企業診断士の両方が取れることが大きな理由」という。

B氏は自宅から通えることや、働きながら主に週末の授業で学べることなどが決め手だった。情報収集はウェブや書籍からで、誰かに相談することはなかったそうだ。

C氏は住みたい国があったため、その国のビジネススクールについてWebで調べたうえ、東京で開催されていた説明会に参加。偶然、興味を持っているスクールに通っている在校生と話すことができ、イメージできたと話す。

MBAを取ってよかったこと
「ヘッドハンティングの話が増えた、独立できた」

B氏は「メリットが3つある」という。まずは人脈・ネットワーク。働きながら学ぶことが入学の条件だったこともあり、同級生の多くは30代以上で、企業の中核を担う人材との出会いがあったこと、同窓生を対象にしたメーリングリストや同窓会があることなどがメリットと感じているという。

ほかにも、履歴書に「MBA」と書いてからはヘッドハンティングやオファーをもらうことが増えたと話す。また、コンサルタントとして働くなかで、MBAを持っていることが信頼性の向上につながったという。単にイメージが上がっただけでなく、「理論的に話せるようにもなり、コンサルティングの実務も以前よりスムーズに進められるようになった」と実感している。

A氏も同様の意見で、経営コンサルタントとして独立できたのはMBAを取ったことが大きかったという。

C氏はもともと日本で大手外資系企業に勤務していたが、英語力は特に高くなく、「そのままでは海外異動は期待できなかった」と振り返る。思い切って海外でMBAをめざす選択をした結果、希望の海外就職ができたという。

さらに、就職したのは海外のベンチャー企業でメンバーも少なく多様なスキルが求められ、MBAの過程で得たものが役立っているという。
また「私の場合、キャリアアップではなくキャリアチェンジなので、単純に比較することはできないかもしれません」と話したうえで、「大企業からベンチャー企業に移ったため給与は下がりましたが、株式、ストックオプションが付与されるので、将来的に大きなリターンを得られる可能性があります」と語る。

後悔していることはないのか?
「働きながら学ぶため家族へのケアが大事」

A氏は仕事をやめざるを得なかったので、数年間家族に不安定な生活を強いてしまったことを気にかけている。事前によく話し合って蓄えも確認していたというが、実際に会社を辞めたことで「会社の保護下で守られて生活できていたことを痛感した」という。

だが「MBAを取得したのが40代後半だったが、もっと早く経営の勉強をすべきだった。経営の専門性は今後一層必要性を増すと思うので、ある程度社会経験を積んだら経営の勉強は不可欠」と訴える。

B氏はMBAを取ったことについては何も後悔はしていないが、「敢えていうなら家族へのケアがもっとできたかも」と振り返る。土日中心の授業だったとはいえ、チームでプロジェクト研究を行うことがあり、平日夜や日曜に集まることもあったそうだ。

同級生など自分以外の人のエピソードは?
「MBA取得が目的の人は辛酸をなめている」

A氏は「経営を学ぶことが真の目的であって、MBAはその一成果としての称号。MBA取得を目的化した人は大体辛酸をなめている」と指摘する。さらに多くの企業では「MBAは持っているけれども働かない」という人で苦労しているので、MBAを振りかざすのは反ってマイナスのこともある」と付け加える。

B氏は、同窓生50人がいるというが、MBA取得後に希望していた海外勤務を勝ち取った人が6人おり、経営企画部への異動を果たした人が3人、転職した人が2人いるといい、「それぞれがMBAの中で学んできたことを活かせるポジションに異動できていた」と教えてくれた。

C氏は「MBA以降のキャリアに苦しむかどうかは、キャリアチェンジの度合いにかかっています」と説明。
「キャリアチェンジは一般的に『業種・職種・地域』の3つの軸があると言われるが、2つ以上の軸を同時に変えるのは困難だと思う。3つの軸を同時に変えようとする人は、仕事を見つけるのに時間がかかったり、希望の給与水準に届かなかったりと、厳しいキャリア選択を迫られている」と話す。

そのうえで、基本的にはMBAの肩書きが通用するのは書類選考までと指摘。「どの会社でもMBAで学んだことは評価の対象外で、仕事の中で何を達成してきたかに採用の可否が影響される」という。

外国で学び、職を得たC氏。日本の環境については、「MBA採用を重視するコンサルティングファームや一部の外資系企業に卒業生が流れています。そのような業種を希望する人には、キャリアアップの機会になるかもしれませんが、皆が休日出勤続きでワークバランスが保てない生活を送っているのを聞くと、キャリアアップが個人の幸せにつながるかどうかは難しいところではないか」と疑問を示した。

最後にMBA取得を検討している人にアドバイス
「楽ではないので覚悟は必要だが、大いに価値アリ」

「MBAは名刺に書き込むための飾りではない」というA氏は、「今の自分にどうして必要かを真剣に考える必要がある」と指摘する。

社会人10年目ぐらいまでは誰しもチャレンジ精神旺盛で、積極的に業務に取り組むが、次第に業務や所属している組織や企業、人間関係と、あるべき姿や思い描く将来像とのギャップを感じるようになるといい、「その段階で、広く学ぶことついて一度真剣に考える必要性がある。

経営学は一つの選択肢だと思うが、経営学は経営に対して問題意識を持っている人ほど効果的に学べる。実際のビジネスに活かせる」と意義を語る。

そのうえで、外部環境の急激な変化に企業が対応するためには、経営者は多くの人の意見を聴きながら意思決定を行なう必要があることを指摘。
経営者には多くの人から意見を引き出す能力が、経営を補佐する人には経営者の悩みに応える能力が必要になるといい、「その両者のベースに経営学が必要であり、その能力を養うために経営大学院で学ぶ価値は大いにあると思います」とメリットを話す。

ただし「MBAの学習は決して楽ではないし、所定の単位を修得してMBAを取ったからと言って実践の経営に役立てられるものでもない」と付け加える。
最後に、「経営について真剣に考える1年または2年間こそが、今後のビジネスパーソンとして生きるために本当に必要な知識を獲得するための貴重な期間になる」と自信を持って話す。

B氏は「もしMBA取得に迷っているのであれば、是非、その足を一歩踏み出してみてほしい」と呼びかける。まだ迷っている人に対しても、「まずは受験をしてみるか、応募書類の申請だけでもやってみては」と言う。その理由として、「受験申し込みの際に研究計画書などを作成することになるので、その中で気づくこともあるし、心理的な変化もあると思う」と付け加える。

そして、「MBAの取得、修士論文の執筆は今後経営に関わる人、目指している人にとって揺るぎのない経験・知識の土台になる」と話す。「働きながら学ぶことで、タイムマネジメントを鍛えることもできるし、修了すると大きな自信と達成感につながる。MBA取得までの時間は、想像を超えてとてつもなく有意義なものになる」と太鼓判を押す。

そしてC氏。ヨーロッパで優秀な人材と仕事をしていると、20年以上同じ国に留まっている人は存在せず、複数の国や地域で勉強や仕事をしてきた人としか会わないという。中国で起業したことがあるドイツ人、オランダで博士課程を取得したマケドニア人、ブラジルでインターンしたフランス人……。
「皆が専門的なスキルを有し、異なる言語や文化を吸収する人間的な幅を備えている」と話し、「日系企業での経営層への外国人登用が増える現状を見ると、たとえ日本にいても、外国人と競争してキャリアを築いていきたいと思うのであれば、このような国際感覚は当然身に付けるべき」と指摘する。

海外でのMBA取得について、「この国際感覚を身に付ける格好の舞台。目先の給与といった些末なことにとらわれずに、80年ほどある人生をどう送りたいのか、その目標にMBAがどう役立つかを考え、挑戦していただきたい」とエールをおくる。

まとめ

3氏それぞれ状況が違ったものの、皆その後のキャリアの成功につなげている
しかし、MBA取得そのものを目的にした人たちは苦労もしているようだ。国内で取得してキャリアアップにつなげている人もいるので、「MBAを取るには海外に行かなくてはいけない」ということもなさそうだ。
ただし、「MBAを取ればなんとかなる」という思いを捨てたほうがいい。学ぶ目的や人生を通じた目標を見つめ直し、”覚悟”を持って慎重に決める必要はある

ノマドジャーナル編集部
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