クリティカルシンキングでビジネスチャンスを

クリティカルシンキングという言葉はおよそ20年前に登場し、今なおビジネスの世界で重要視されている概念です。スマートフォンやパソコンの普及により、ありとあらゆる情報に素早くアクセスすることができるようになった現代において、ビジネスには何よりもスピード感が重要視されるようになっています。

ある日、頭の中にふと思いついたアイディアが斬新なものであっても、それは1年もすると他の誰かがすでに実現した過去のアイディアとなってしまう恐れがあるのです。

このような現代において、ビジネスを継続させ、また発展させていくためには、過去の成功体験にすがりつく姿勢を改め、日々新たなアイディアを生み出すことのできる能力が求められます。そんな時に頼りになるのが、クリティカルシンキングなのです。今回は、そんなクリティカルシンキングについて紹介します。

クリティカルシンキングとは

まずはじめに、クリティカルシンキングとは一体どのようなものでしょうか。

クリティカルとは、「批判的、懐疑的」といった意味を持ちます。そして、シンキングは思考です。つまり、クリティカルシンキングとは 批判的、懐疑的な思考のことを指します。

しかし、批判的である、懐疑的であるといっても、物事のすべてを無意味に批判することを意味するわけではありません。クリティカルシンキングとは、考え方や事実に対して、それを鵜呑みにせず、客観的な視点に立ちその事実や考え方が本当に正しいのか否かを追求していく思考を指します。

たとえば、あるビジネスモデルが日本では通用しているのに、アメリカでは通用しない理由が、ある書籍に論理的に書かれていたとしましょう。

その際、その理論を鵜呑みにするのではなく、自分なりに周辺の事実を踏まえて論理的に考察し、書籍に書かれていた理論が正しいか否か批判的に思考します。これがクリティカルシンキングです。

昨今のビジネスにおいては、新鮮で新しいアイディアが世界各地で同時多発的に巻き起こります。また、インターネットやSNSの普及により、世界各地で巻き起こった新しいアイディアがすぐに私たちの耳に飛び込んできます。

このように情報過多の社会に慣れてしまうと、私たちは一つひとつの物事を深く考察することを忘れてしまい、表面的な情報の取捨選択のみをしてしまいます。

しかし、これでは他の誰も気づいていないようなビジネスについてのアイディアを生み出すことが困難となります。こういった表面的な取捨選択の姿勢を捨てて、物事について自分で仮説を立てて、批判的、懐疑的に考察するのがクリティカルシンキングなのです。

クリティカルシンキングのメリット

クリティカルシンキングには以下のようなメリットがあります。

・新しいアイディアの創出
・見落としていたリスクの発見
・人を説得する能力、部下をコーチする能力の向上
・問題解決の効率化
・理論や相手の考えをより高度に理解することができる

クリティカルシンキングの具体的なやり方

クリティカルシンキングを具体的に行う場合、以下の点を意識して行ってください。これはアメリカの心理学者であるCarol Tavrisがまとめたものです。

・問いをたてる。
・問題を定義する。
・根拠を検討する。
・バイアスや前提を分析する
・感情的な推論を避ける。
・過度の単純化はしない。
・他の解釈を考慮する。
・不確実さに堪える。

クリティカルシンキングにおける「批判」

私たちは、批判するという言葉を聞いた際に、どうしても否定することや非難することをイメージしてしまいます。しかし、批判という言葉そのものには、必ずしもネガティブな意味は含まれません。

物事を批判するということは、物事を細かな事実に分析し、その中に誤謬がないか確かめることを意味します。そのため、批判するといっても必ずしも否定し、避難することではないのです。

クリティカルシンキングにおける批判も、自分と異なる意見を否定し非難するのではなく、すべての意見に対して公平な立場から分析し、その正しさを確かめるといった意味です。

クリティカルシンキングのための基本姿勢

このように、クリティカルシンキングは建設的な懐疑的思考により、理論の正しさを確かめるためのものです。しかし、クリティカルシンキングがどのようなものかを理解しても、実際にクリティカルシンキングを使いこなすことは難しいでしょう。

そのため、ここではクリティカルシンキングを行うための基本的な姿勢について解説します。この基本的な姿勢がないと、クリティカルシンキングは目的を失っていたものとなり意味をなしません。

1. 目的との関係を常に念頭におく

クリティカルシンキングを行う際は、常に目的を念頭に置くことが必要です。多くの場合、クリティカルシンキングはビジネスにおけるソリューションの発見や、新しいアイディアの発見のために用いられます。

そのため、目的を見失った状態でクリティカルシンキングをしても、適切な効果を得ることができなくなるのです。 クリティカルシンキングにおいては、 考え方や理論について常に懐疑的な姿勢であることが求められます。

そのため、目的とかけ離れた箇所でクリティカルシンキングを続けると、永遠に理論の検証が終わらなくなってしまうのです。クリティカルシンキングを行う際は、達成したいと考えている目的から合理的に必要な範囲でのみ批判的思考を行います。

たとえば、とある商品について販売数を伸ばしたいという場合を考えてみましょう。まず行うべきは、「販売数を伸ばす」事に関係する範囲でクリティカルシンキングを行うことです。たとえば、商品のアピールする機会を増やす、販売チャネル数を増やすなどが該当しましす。

しかし、往々にしてクリティカルシンキングにおいては、販売数を伸ばすのはなぜかというところまで考えが及んでしまい、最終的に売り上げを上げることが目的であれば、その商品の製造にかかるコストを下げればいいのではないかといったアイディアが出てきます。こういったアイディアは一面においては非常に正しいものです。

しかし、このように思考の範囲をどんどん広げていくと、アイディアの正しさを検討する収拾がつかなくなってきます。

そのため、クリティカルシンキングを行う際は、当初の目的である販売数を伸ばすという事にフォーカスした範囲で行う必要があります。その上で、販売数を増やすことが現状では無理であるということが分かったのであれば、 次の手段として、製造コストを下げるといった方法を検討していけばよいのです。

2. 思考に偏りのない人はいないと前提ですすめる

クリティカルシンキングを行う目的は、客観的な立場から考え方の正当性を確かめるところにあります。しかし、完全に客観的な立場に立って物事を批判することができる人というものは存在しません。

どのような人物であれ、思考には偏りが存在します。

これらの偏りは、感情論であったり、家庭環境であったり、生まれた国などによって自然と生じるものです。そのため、クリティカルシンキングを行う際は、前提として、人の考えには偏りがあるということを理解しておかなければなりません。

その上でクリティカルシンキングを行うことにより、一人ひとりの人間がもつ思考の偏りを除去し、真の意味で客観的な立場からアイディアや理論を検討することができるのです。

3. クリティカルシンキングに終わりはない

厳密にいうと、クリニカルシンキングには終わりがありません。こういった認識をもつこともクリティカルシンキングを行うための姿勢としては非常に重要になります。なぜならば、物事はどのような側面からも批判的、懐疑的に見ることができるためです。

そして、クリティカルシンキングは時間をかければかけるほど、物事の正当性を正しく見極めることができます。クリティカルシンキングにおいては、もうこれ以上検討する余地がないといったところから、ぐっと新しいアイディアが生まれることも少なくありません。

クリティカルシンキングを妨げるもの

クリティカルシンキングを習得するためには、実行のポイントを知るだけでなく、何がクリティカルシンキングを妨げるかについても、知る必要があります。以下は、クリティカルシンキングを妨げると考えられているものです。

・感情論にもとづく論理
・解決方法を安易に二択にすること
・一般化を早すぎるタイミングで行うこと
・真偽不明の前提を使うこと
・確証バイアス
・権威や伝統といった曖昧なものを論拠とすること
・多数決の原理を誤って用いること

私たちは自然と上記の偏りをもって物事を見てしまいます。これらを廃し、論理的な正当性と妥当性を見つけていくのがクリティカルシンキングの目的です。

さっそくクリティカルシンキングを行おう

以上のように、クリティカルシンキングは新しいアイディアを発見し、アイディアの正当性を検討する際に大きな効果を発揮するものです。しかし、クリティカルシンキングは一朝一夕で身につくものではありません。

最初は見様見真似であっても、繰り返しクリティカルシンキングを行っていくことで、あなた自身の思考力、あなたが属する組織の思考力が高まっていくのです。またクリティカルシンキングはこれといった唯一の手法が存在するわけではありません。

解決すべき問題と組織の個性に合わせた形で、クリティカルシンキングを臨機応変に用いることが重要となります。はじめはどんな些細な問題からでも構いません。