人工知能があたりまえの時代のリスク

現在、さまざまな分野において技術が発達しておりますが、その中でももっとも注目されている分野は人工知能ではないでしょうか。人工知能がチェスの世界チャンピオンに勝ったなどと、人工知能におけるニュースには枚挙にいとまがありません。

このように人工知能に注目が集まる中で、にわかにシンギュラリティという言葉も注目を集めるようになりました。

シンギュラリティについては、人工知能が人間の頭脳を抜くことと理解している人も多いと思いますが、正確ではありません。そもそも人工知能がチェスの世界チャンピオンに勝った時点で、人工知能は人間の頭脳も超えたと考えることもできるでしょう。

しかしシンギュラリティとはもっと 規模の大きな話なのです。今回は、そんなシンギュラリティについて解説します。

シンギュラリティとは

シンギュラリティとは、人工知能の急激な発達により、人工知能が無限に新しい技術を開発し、人間の文明社会が今までとは比較にならないほどのスピードで急激に成長することをさします。

このように、シンギュラリティとは、人工知能が人間の頭脳を超えることのみを指すのではなく、それによって人間の文明社会が想像できないほど急激に成長することなのです。

そもそもシンギュラリティという言葉は、特異点のことを言います。特異点とは、一定の基準が適用されない点のことです。たとえば、重力における特異点というものは、ブラックホールの中心に存在すると考えられており、重力が無限大となる点を指します。

これは人工知能における特異点を意味するシンギュラリティについても同じです。ちなみに、人工知能の分野におけるシンギュラリティは、技術的特異点という呼び方もされています。

シンギュラリティの提唱者

提唱者であるレイ・カーツワイル

シンギュラリティの提唱者としてもっとも有名なのはレイ・カーツワイル。レイ・カーツワイルはアメリカの発明家であり未来学者です。

彼が2005年に出版した「The Singularity Is Near」という著作で、はじめてシンギュラリティが提唱されました。 彼は同著作の中で、2045年にシンギュラリティが起こると述べています。

ちなみにカーツワイルは、2029年に人工知能がさまざまな分野で、人間の頭脳を超越すると述べています。そして、そのような土台の上で、2045年には従来の文明社会の発達とは一線を画するような急激な発達が起こると予測しているのです。

孫正義が話をしたことで日本でも認知され始める

また、シンギュラリティの提唱者とは違いますが、シンギュラリティを日本に広めた人物としては孫正義が挙げられます。孫正義は、言わずと知れたソフトバンク株式会社の代表です。

彼が2016年に、シンギュラリティについて語ったことにより、日本においてもシンギュラリティという言葉が一般的に広く認知されるようになりました。シンギュラリティは、日本を代表する実業家にとっても非常に重要な意味をもつものなのです。

シンギュラリティがもたらすもの

では、シンギュラリティが起こった場合、人類社会にはどのような変化が訪れると考えられているのでしょうか。以下では、代表的な変化について記載したいと思います。

脳の完全デジタル化

シンギュラリティにより技術が加速度的に発達すると、人間の脳みそは完全にデジタル化できるようになると考えられています。つまり、人間の脳みそがコンピューターと同じようなものになり、データの保存やコピー、各種データの簡単なインストールなどができるようになると考えられているのです。

一見するとこれはあまりに荒唐無稽な話にも思いますが、現在においても脳波を利用して義手コントロールするような技術はすでに開発されています。そのため、人間の脳の全容が解明され、それをデジタル情報により模倣することができる世界はそう遠くないのかもしれません。

臓器が不要となる

また、脳だけでなく人間の体の中に存在する臓器の大部分も不要となることが考えられます。現在においても、人工臓器や人工関節などがさまざまな箇所に使われていますので、これはあながちムリな話ではないのかもしれません。

そもそももっとも高度な活動を行っている脳がデジタル化できるのであれば、それら以外の臓器を人工物で代用することはそれほど難しくないでしょう。

人間の臓器がすべてを人工物で代用することが実現された暁には、人間はまさに不老不死となってしまうのかもしれません。臓器不全による病気なども、人工物で適切に代用していくことによりいずれは人類の中から消えてしまうのかもしれません。

バーチャル世界に暮らす

またシンギュラリティが実現された暁には、人間は現実社会と同時にバーチャル世界で過ごす時間が増えるとされています。現在であっても、多くの人がスマートフォンやパソコン利用してインターネットの社会の中で生きているということができます。

シンギュラリティの実現により、自分の部屋で過ごすようにバーチャル世界で過ごすことができ、バーチャル世界の中に会社が存在するようになり、通勤や退勤など存在せず、自由にバーチャル世界で人と集まってコミュニケーションをとったり事業を進めていくことができるようになるのでしょうか。

人工知能の歴史

ここからは、人工知能に関する研究について過去から現在をみてきたいと思います。人工知能技術の発達は、直接的にシンギュラリティにつながるものなので、非常に重要視されています。現在、人工知能の分野はどれほど進んでいるのでしょうか。

人工知能に関する分野が学術界に創設されたのは1956年に遡ります。なんと第二次大戦から10年もしないうちに人工知能という分野が認知されるようになったのです。その後、人工知能に関するブームは何度か起きておりますが、その度に致命的な理論的限界が指摘され、人工知能に関する技術は2000年に至るまでそれほど大きく発達することはありませんでした。

その後、2,000年代に入り、人工知能に関する技術が注目を集めるようになります。2006年には、ディープラーニングが発明され、人工知能における技術が1つのブレイクスルーを達成しました。これについては、1995年から民間で使用が開始されたインターネットが大きく関わっています。

インターネット技術の向上により、人工知能の分野においても十分な量の計算資源を投入することができるようになったのが、人工知能の技術が大きく発展させる契機となったのです。現在、人工知能の発達については神経科学と機械学習を組み合わせたアプローチが有効と考えられており、ディープラーニングの研究もどんどん高度化されていています。

そのため、現代は、すでにシンギュラリティの基盤となる人間の頭脳を超越した人工知能をどの企業が最初に開発するかといった国際的な競争が開始されています。

シンギュラリティに対する批判

シンギュラリティに対しては、2つの批判が存在します。1つは、そもそもシンギュラリティが起こりえないという批判。もうひとつは、シンギュラリティ自体は起こると考えながらも、それが人類に大きな危険をもたらすという批判です。

シンギュラリティが起こらないという批判

以下では、シンギュラリティが起こらないという批判について代表的なものを2つ取り上げます。

物理的観点からの批判

物理的観点からは、資源が有限であることを理由としてシンギュラリティとして想定されているような永続する急激な成長は存在しないと述べています。一時的にシンギュラリティが起きたかのような急激な成長あったとしても、それは決して永続するものではないという説です。

また、現実的な問題の解決については、現実に物事に起こる変化を観察し、検証を行わなければならないため、現実世界の物事の移り変わりに要する一定の時間が存在することから、いくら発達した知能であっても、時間的な限界を超えることはできないとも述べています。

社会経済的観点からの批判

またシンギュラリティは社会の要請上、実現されないとの見方もあります。これは、シンギュラリティが起こるほど技術が発達する前に、人間の営みのほぼすべてが機会により自動化され、社会がそれ以上の技術の発達を求めなくなり投資が減ることを理由としています。

シンギュラリティについての批判の中には、シンギュラリティが起こること自体は肯定しながらも、人類の脅威となる恐れがあるためにシンギュラリティは起こすべきではないとの批判もあります。

宇宙物理学者であるスティーブン・ホーキングは、進化について生物学的に制約がある人類は、人工知能の発達に対抗することが不可能であるとして、シンギュラリティの危険性を指摘しています。

またシンギュラリティに対する個別的批判とは別ですが、人工知能が人の仕事を奪っていくことについての広い批判も存在します。つまり、人工知能を用いて大量の仕事をこなす人間に富が集約し、それができない人間との格差がより大きくなるというものです。

現在においては高度な知識と技術が必要とされる専門職であっても、いずれは人工知能に代替される恐れが十分にあるのです。

シンギュラリティと未来

このように人工知能の分野における技術革新にはめざましいものがあります。ディープラーニングにより人間がアルゴリズムを提示しなくとも、現実のデータから規則性やルールを見つけ出すことができるようになった現代の人工知能は、ある意味において、人間の手を離れたとさえいうことができるでしょう。

今後、人工知能は大きく発達することが考えられます。その先にシンギュラリティが待っているのかどうかは、今の私たちにはわかりません。しかし、人工知能がある分野において人間の頭脳を凌駕するのは間違いないでしょう。今後、人工知能の分野がどうなっていくかについては、大きく注目しておくべきです。