会社設立時の登記事項のひとつである、会社名。見た目や語呂といった観点からはもちろん、海外との取引も視野に入れて会社名を英語で登記したい、と考えている方も多いのではないでしょうか。ここでは、会社名を英語表記する際のイロハについて詳しく解説します。
会社名に英語を使うことはできるのか?
会社設立時に決める会社名には、創業者の様々な思いが込められています。会社の理念や今後の目標、顧客への思いなど、様々なことを考えた上で会社の名前を決めることでしょう。しかし会社が法律の上で存在する以上、会社名の表記方法については一定の制約がかかります。
では、会社名に英語を使うことは可能なのでしょうか。まずは「会社の名称」についてみていきましょう。
会社の名称に英語を使うことは可能
会社の名称は「屋号」や「商号」と呼ばれることもあるもので、例えば「株式会社○○」という会社があった場合、「○○」の部分を会社の名称と呼びます。
そして平成14年における商業登記規則等の改正により、会社の名称に以下のような文字を新たに使うことができるようになりました。
- ローマ字
- アラビヤ文字
- アンパサンド(&)
- コンマ
- ハイフン
- ピリオド
- 中点
このことからわかるように会社の名称については、英語での表記・登記が可能となっています。
ただし、アンパサンド、コンマ、ハイフン、中点は字句を区切るための符号としてのみ使用が許可されています。またピリオドについては字句を区切るほか、直前にローマ字を用いることで省略をあらわす符号として使うこともできます。
日本語と英語を組み合わせて会社の名前をつくることも可能
会社の名称は、英語のみだけでなく日本語と組み合わせてつくることも可能です。
「XYZ保険株式会社」「東京MM株式会社」というように、どちらを前に置くのか、あるいは日本語と日本語の間に英語を入れるのか、といった日本語と英語の配置についても、自由に決めることができます。
また会社の名称に用いるローマ字は大文字・小文字ともに使用可能です。
符号の使い方に一定の制約はあるものの、現行の法制度下における会社の名称の英語表記・登記については、かなり自由度が高いといえるでしょう。
会社の種類を英語で表記することは可能か
会社名は通常、○○株式会社、合資会社□□、というように「会社の名称」と「会社の種類」を組み合わせてつくります。では、会社の種類を英語で表記することは可能なのでしょうか。
商号の中に入れなければならない「会社の種類」
会社名の表記方法については、会社法によって一定のルールが定められています。
そのひとつが「会社の種類」に関する表記で、会社はその商号の中に、会社の種類を表す「株式会社」「合名会社」「合資会社」「合同会社」の文字を使わなければなりません(会社法6条2項)。
また会社の種類の表記については、他の種類の会社と誤認されないようにする必要もあります(会社法6条3項)。
例えば株式会社を設立する場合、会社名には必ず「株式会社」という語句を入れて、「○○株式会社」あるいは「株式会社○○」としなければなりません。また設立するのが株式会社である場合、その商号の中に合名会社や合資会社といった、他の会社の種類をあらわす語句を入れることは許されません。
会社の種類を英語で登記することはできない
株式会社は、「Company Incorporated」「Co.,Inc.」「K.K.」「Co.,Ltd」というように英語で表記されることがあります。
では、会社設立登記において、会社の種類に英語を使用することは可能なのでしょうか。
残念ながら、答えは「不可」です。
上述のように会社法では、取引の安全を保護するため、会社の種類の表記方法について厳格なルールを設けています。また現在、「株式会社」という日本語表記に代えて上述のような英語表記による語句を使用して登記をすることは、法律上認められていません。これは会社の名称に英語を使用する場合でも同様です。
定款で英語の会社名について定めることができる
会社の名称については英語での表記・登記が可能な一方、会社の種類については日本語で登記しなければなりません。しかし、これから会社を設立しようとしている方の中には、海外との取引も視野に入れているため会社名全体を英語表記したい、と考えている方も多いのではないでしょうか。
その場合は会社名の英語表記について定款で定めることをおすすめします。
定款は会社の根本となる規則
会社設立にあたっては、「定款」を作成しなければなりません。
定款とは会社の根本規則のようなもので、会社の目的や商号、本店所在地、発起人の氏名または名称など、様々な事項が記載されます。
作成された定款が公証人による認証を受けると、その定款は社内的にはもちろん、対外的にも法的な効力を持つようになります。
定款では会社名の英語表記について定められる
会社の種類は英語での登記ができませんが、定款の中であれば会社の種類も含めた会社名の英語表記について定めることができます。
例えば「日本XYZ株式会社」という会社があるとして、定款の中ではこの会社名について、「本会社は日本XYZ株式会社と称し、英文ではJapan XYZ Co.,Ltd.とする」というように定めることができるのです。
海外からの受注を視野に入れるなら、英語の会社名も決めておこう
現代はメールやSNSを通じて、海外からも仕事のオファーが来る時代です。そして海外のクライアントと取引をする場合、基本的には英語でのやり取りになります。
そうなると日本語の会社名だけなく、英語の会社名も用意しておく必要が出てきます。
英語の会社名を定める会社が増えている
経済のグローバル化が進み海外のクライアントと取引をする会社が増えている現代では、定款の中で英語の会社名について定める会社が増加しつつあります。
一例として、以下の企業は定款の中で英語の会社名について規定しています。
- 日本電機株式会社(NEC)…英語では「NEC Corporation」と表記
- キャノン株式会社…英語では「Canon Inc.」と表記
- 富士ゼロックス株式会社…英語では「Fuji Xerox Co,. Ltd.」と表記
英語の会社名がわかると取引先も安心できる
取引先の会社名が英語でどのように表記されるのかということは、クライアントにとって非常に重要な問題です。契約書や請求書、領収証など、取引において重要な書類には、必ず会社名を記載する必要があるからです。
定款の中で会社の英語表記について定めておけばそれは対外的にも法的な効力を持ちますし、クライアントとしても「この会社は英語でこう表記するのだ」ということがはっきりとわかるため、安心して取引を進めることができます。
これからグローバルに活躍したいという方は、会社名の英語表記について定款に規定をおいてみてはいかがでしょうか。
まとめ
会社設立にあたって必ず決めることになる、会社名。日本の法律では会社の名称についてのみ英語で登記することが可能で、会社の種類を英語で登記することは認められていません。しかし定款の中では会社の英語表記について定めることができますし、そうすることで海外のクライアントの信頼を得やすくなることもあります。グローバルな取引も視野に入れた会社経営を目指すのであれば、定款の中に会社の英語表記に関する規定を設けてみてはいかがでしょうか。
執筆者:曽我部 三代
2013年より、フリーライターとして活動。これまでに副業やフリーランス、転職関連の記事を多数執筆。ここ数年は、フリーランスデビューしたばかりの方向けの講師活動にも取り組んでいます。