現在、副業や兼業、フリーランス等、1つの会社に縛られない働き方が増えています。2つの会社で雇用保険の加入資格を満たす、ダブルワークをされている方も多いでしょう。雇用保険の制度、雇用保険(失業保険)をもらいながら働く時の注意点、上手な活用方法を含めて解説していきます。
週20時間以上勤務で加入、雇用保険の制度とは
雇用保険は国が運営する保険です。労働者を雇用する事業では原則強制適用されます。雇用保険の被保険者は週所定労働時間20時間以上で通算31日以上雇用の見込みがある者とされています。
パートや派遣であっても雇用保険に加入できるのか?
上記記載の雇用保険被保険者資格を満たすものは、パートや派遣、アルバイト等を問わず雇用保険に加入となります。ただし学生は雇用保険に加入できません。(夜間、通信教育、定時制の学生は例外で被保険者となれます)
失業したら対象になる、求職者給付基本手当(失業手当)とは
雇用保険被保険者が、定年、倒産、契約期間の満了又は一身上の都合(自己都合)等により離職した場合に給付されるものです。基本手当が正式名称ですが、失業手当とも呼ばれます。
基本手当の所定給付日数(基本手当の支給を受けることができる日数)は、離職の日における年齢、雇用保険被保険者の期間、離職理由などにより最低90日~最高360日の間で定められます。
なお、自己都合の場合は雇用保険加入期間1年以上で90日、10年以上で120日、20年以上で150日となります。また、自己都合で退職した際は3か月間の給付制限期間(基本手当が貰えない期間)が設定されます。
新しく職に就く時にもらえる、就職促進給付とは
再就職手当、就業促進定着手当、就業手当の3つが該当します。
この中で再就職手当は、基本手当受給中の方が安定した仕事に就いた際(雇用保険の被保険者となる場合や、事業主になる場合など)に、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あれば支給されます。
支給額は、支給残日数×給付率×基本手当日額(上限あり)です。給付率は、支給残日数が3分の2以上の場合は70%、支給残日数が3分の2より少なく3分の1以上の場合は60%です。早期の再就職を促進する目的があり、毎年給付率が上がっている制度です。
雇用の継続ために給付される、雇用継続給付とは
高年齢雇用継続給付、育児休業給付、介護休業給付の3つが該当します。
高年齢雇用継続給付は60歳以上(対象者のほとんどが、定年後の再雇用者です)の方で、給与が60歳前の金額より下がった方に対して、下がった金額の15%を限度として65歳まで給付する制度となります。
育児休業給付は育児休業中で給与がもらえない時に支給されます。最初の6カ月は休業開始時賃金日額の67%、その後は50%です。原則1年間ですが、パパママ育休プラス制度に該当する場合は1年2カ月、保育園に入れない等の事情がある際は、最大2年間まで給付されます。
介護休業給付は、家族の介護の為に休業する必要のある方に支給されます。93日間を限度に3回まで給付されます。給付率は休業開始時賃金日額の67%です。
リカレント(学びなおしに使える)、教育訓練給付とは
教育訓練給付は一般教育訓練給付金と専門実践教育訓練給付金に分かれています。一般教育訓練給付金は指定口座を受講すると修了後にかかった費用の20%が支給される制度です。
専門実践教育訓練給付金は教育訓練経費の40%が支給される制度です。(最大3年間)
また、資格所得等に成功し、雇用保険の被保険者として雇用されると追加で20%分が給付されます。
専門実践教育訓練給付金は「働き方改革」の中の学びなおし(リカレント)に関する政策として注力されている分野です。大学院等も多数指定されており、給付率の引き上げも予定されています。
在職中のダブルワークに対する雇用保険の適用関係
現在、ダブルワークやパラレルワークなど複数の会社に勤務する人や、勤務しながら会社や個人事業主として開業している方が増えてきています。そのような方の雇用保険や社会保険の加入について解説していきます。
雇用保険の加入はどちらの会社でされるのか
雇用保険は2つの会社で同時に加入することはできません。原則として主たる生計を維持する会社(給料の多い方)で加入することとなります。注意点として、実務上、雇用保険の資格を取得しようとしても、他の会社で既に手続きがなされている時は窓口で弾かれます。
それにより副業をしていることが会社にばれます。また、退職時の有給消化中に別の会社に入社しても同じように窓口で受付されません。その際は入社する会社に有休消化中である旨を伝えて下さい。この場合通常、前職の退職日をもって雇用保険に加入した日となります。
ダブルワークに対する社会保険(健康保険、厚生年金)の適用関係
ダブルワークの際、社会保険(健康保険、厚生年金)の加入状況はどうなるのでしょうか?社会保険は原則週30時間勤務している時に加入となりますので、2社とも週30時間以上で勤務しているような状況の時、問題となります。この場合は両社の収入額をあわせた金額で保険料が決定されます。実際の保険料負担額は給与額に応じて按分されます。
育児休業中に在籍の会社を手伝った時や他社で働いた時は
育児休業給付を受けている人が、在籍している会社の仕事を手伝った場合はどうなるのでしょうか?
その働きが臨時、一時的な物とみなされ、育児休業が継続していると判断されれば支給されます。具体的には支給単位期間において働いている日数が10日以下、または80時間以下です。これは、他社ではたらいた時も同様です。
在籍中の会社から給与が支給される際、育児休業給付と合わせた金額が休業開始時賃金日額の80%を超えた場合は支給されません。他社の手伝いにより収入を得た際は計算根拠とされずに支給されます。
基本手当受給中にアルバイトした時の取扱い
上記の基本手当(失業手当)受給中にアルバイトで給与を得た際はどうなるのでしょうか?これは1日当たりの労働時間が4時間未満かそれ以上になるかで扱いが変わります。
4時間未満の労働は「内職・手伝い」と扱われ、収入によって基本手当の金額が減額、支給となります。また、基本手当の金額の80%を超える額の収入となった場合は、その日の基本手当は支給されずに繰り越されます。
4時間以上の労働は「就労」と扱われ、その日の基本手当は支給されません。(条件に合致すれば、かわりに基本手当の30%の金額に当たる「就業手当」が支給されます)
いずれの場合もハローワークに正しく申告する必要があります。(具体的には失業認定日に提出する申告書に正しく記載する必要があります)
創業にも使える再就職手当とは
先に記載した「再就職手当」は、個人事業主が開業した場合にも受給できます。ハローワークに求職申し込みをした際に以下の2条件を満たせば受給可能です。
- 税務署に開業届の提出を行っていないこと
- 自営業が就職か迷っている段階であること
ハローワークに求職申し込みをした段階で会社を設立して代表者に就任していた場合はどうなるのでしょうか。この場合は既に就業しているので、雇用保険の基本手当(失業手当)や再就職手当の支給対象とはなりません。
不正は絶対ダメ、雇用保険を不正受給した時は
雇用保険の不正受給には厳しい罰則があります。不正が発覚した日以降一切の基本手当が支給されないのは当然として、過去にさかのぼり不正受給した金額の返還とその2倍にあたる金額の納付命令が出されることがあります。(いわゆる3倍返し)
また、悪質な場合は詐欺罪として刑事告発されることもあります。
基本手当(失業手当)の不正受給はなぜバレる?
それでは、なぜ不正受給はバレるのでしょうか?密告電話や投書が多いと思うかも知れませんが、実は隠れて働いていた会社から雇用保険の資格取得届が提出されることにより発覚するケースがほとんどです。試用期間中でも雇用保険には加入する義務があるからです。正しくハローワークに就職の申告をしましょう。
まとめ
雇用保険の制度には複雑な面もあります。厚生労働省のハローワークインターネットサービスの閲覧やハローワークの窓口への相談によって正しい知識を身に着けるとともに、多くの給付制度を正しく活用してくださいね。
執筆者:岡 佳伸
2016年10月より特定社会保険労務士として開業、元ハローワーク職員(厚生労働事務官)。雇用保険の専門家として、各種助成金、雇用保険、労働問題を得意にしています。今までに労働、社会保険、労働保険に関する記事を多数執筆、監修。近年は各種講演会も開催しています。(キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士も保有しています)