昔から「転職するには35歳が限界」と言われてきた。

しかし新卒で入った会社に定年まで勤めるのが普通の時代から、転職が当たり前で身近なものとなった。また、ビジネスノマドジャーナルが提唱するような新しい働き方、「名刺を3枚持つ」ビジネスパーソンが増えていることからも分かるように、こうした「35歳限界説」は過去のものとなっている。

しかし、年齢があがるほど転職が容易でなくなることも間違っていない。経験を活かしたキャリアアップ転職ともかく、新しいジャンルへの挑戦は20代など若いうちでないと厳しいだろう。

採用方針・人材市場が大きく変わった

企業の人材活用の仕方が変わってきている。企業は新卒の採用を長い間かけて減らしてきた。一昔前は新卒を採って育てる方針だったところも、コストがかかるうえ、せっかく育ててもやめてしまう可能性が高い新卒より、経験者を即戦力として採用するようになったのだ。

『35歳からの「転職」成功マニュアル』(ソフトバンククリエイティブ)という著書を持ち、グローバル企業の採用事情に詳しい東京海洋大学教授の小松俊明氏は年代別の転職傾向について、「20代はツケ払い転職、30代はショートカット転職、40代は横滑り転職をする人が多い」と解説する。

「ツケ払い転職」とは、新卒での就活の失敗のツケを払うという意味。小松氏も「20代は未経験の業種や業界に挑戦する最後のチャンス」という。

そして「ショートカット転職」。30代前半は20代と同じように未経験転職者もいるが、歳が上るにつれて減っていく、そのかわり、経験やスキルを評価してくれる会社に移ることでキャリアのショートカットをはかろうというのだ。

最後の「横滑り転職」は役職は同じまま他の会社に移るというもの。小松氏も「40代は転職で1つ上の役職をめざすのではなく、まずは環境を変えて同じ役職で初めてから、その会社で昇進に再挑戦するのが現実的であり、成功率も高い」と話す。

こうした情勢の変化の中で、数多くの求職者、転職希望者にアドバイスをしてきた小松氏が指摘する転職成功者の共通点から、いくつか採り上げてみたい。

エージェントを使いこなしている
――転職情報サイトを見るだけでは不十分

転職活動でまず頭に浮かぶのは、転職情報サイトに登録してインターネットで情報を探し、エントリーするという形だ。だがある程度経験がある、マチュアなビジネスパーソンは、エージェントを使いこなしたほうがいいという。

「エージェントというより、道案内をしてくれるキャリアコーチのような存在を見つけるべき」

と小松氏はいう。自分のキャリアに悩んだ時、昔なら上司や先輩に相談したもの。しかし転職が一般的になった今、上司には言いづらいこともでてくる。また部下のキャリア志向を把握したり、部下を育てようとしたりできる上司が少なくなっているという。

昔は上司が悩める部下に声をかけたり相談に乗ったりするものだった。たとえば希望ではない経理部に配属された部下がいたら、「数字を知っておくのは出世するうえでいいことだぞ。そこで頑張ってみたらどうだ?」といって諭したものだった。
生涯、1つの企業に勤め上げるのが一般的だった時代は、そういうアドバイスに耳を傾けたものだ。

しかし、最近は辞めるハードルは低くなっているうえ、転職を勧める上司もいるほど。さらに自分が転職するつもりの上司も少なくないわけで、参考にはならない。

ただし、いいエージェントに出合うには、複数会ってみることが必要だ。自分に合った人かどうか分からないし、中長期的なアドバイスをしてくれる人かどうか分からないからだ。

そしてデキる人材は、当面転職の予定がなくてもエージェントとのコンタクトは取り続けるという。客観的なアドバイスを聞いて自分の市場での評価を知っておくべきだし、転職する必要性に駆られてから動き出す人と比べたら、リードを持って転職活動ができる。

また優秀な転職エージェントは、採用する企業側から評価されているため、「人事権者に強力な口添えをしてくれる可能性がある」(小松氏)という。企業の求人に直接応募しても返信がないこともあるというから、自分に合ったいいエージェントは見つけておきたい。

ただし、忘れてはいけないのが「エージェントのクライアントは企業」ということ。求職者から料金を取るサービスもあるが、一般的には企業からお金をもらうのがエージェント。入社後の想定年収が600万と700万の候補がいれば、後者を入れようとしがちだという。

さらに、エージェントはたくさんの人に会うので、一人ひとりのことまで覚えているとも限らない。いいエージェントを探しておくことは必要だが、過信は禁物だ。

性格分析をしてくれる身内がいる
――仕事の相談は同僚や友達にはすべきでない

企業は履歴書や職務経歴書から分かるキャリア情報だけでなく、性格も知りたがるもの。だが自分の性格について客観的に評価できる人はなかなかいないだろう。

そこで友人に相談するアイデアが頭をもたげるが、小松氏は「先輩や同僚、友人には相談はしないこと」といい、「両親やパートナーなど身内がいい。できればちょっと距離のある、おじさんがいい」と話す。
なぜなら身内は、ビジネスシーンから離れた時の「素の自分」を知ってくれているからだ。両親や親戚なら、自分の小さい頃から知っている人もいる。そのため、性格や好み、失敗のパターンを知っている可能性がある。

「意外と粘り強いよね」
「部活を選ぶときサッカーとか部員が多いところは絶対選ばなかったよね」
「短気なところがあるよね」

こうした生来の自分を知ってくれている人から、率直な意見がもらえる状態をつくっておくことは、地味なようで重要だ。

身内以外の誰かに頼むと、狭い考えを押し付られる可能性があるし、嫉妬心が芽生えて本音で答えてくれないことがある。さらに先輩はキャリアもプライドもあり、自分のことを否定しないから、参考になる意見は聞けないことが多いといい、同僚や友人は「愚痴をこぼす相手、ヒントをもらう程度のつながりにしておくべき」(小松氏)なのだ。

会社員でもフリーランスのつもりで過ごしている

――会社に寄りかからない

会社員はどうしても「社内でのポジション」に目が行きがちで、「市場での自分の位置づけ」を考えることを忘れてしまう。小松氏は「30代の人は、今自分がフリーランスになったと仮定して考えてみるべき」とアドバイスする。
デキる人材は、自分の客観的な評価、市場でのポジションというものを意識している

会社という後ろ盾を失ったと仮定したとき、自分のどんな能力を、どのお客さんにアピールするのか。過去にやってきたこと、今やっていること、できること、したいこと。どこにネットワークがあるのか。そうした事柄を踏まえて、自分を営業するつもりでビジネスに励むのだ。
会社に寄りかかりきってしまし、自分の脚で立つ気概がなければ、いざという時に転職が成功するはずがない。

「今所属している会社の中だけで物事を考えて『うちはこうだから』となってしまうのは絶対によくない。転職市場で絶対に苦労する」と指摘。「今すぐ転職の予定がなくても、そういう思考法を持つことは有用なはず」と提案する。

成果につなげるためのコツを知っている
――小さなことを積み上げないと成果は得られない

ここに挙げたこと以外にも、意外と知らない、忘れがちな、成果を出すためのコツはたくさんある。知ってか知らずか、転職がうまくいく人は、こうしたコツを実践しているという。

たとえば「面接前に模擬面接をする」「記載の応募条件はすべて満たさなくてもいい」「転職サイトにもそれぞれ特徴があり、自分の希望案件が多いものを使う」「履歴書・職務経歴書は読みやすいものにする……。

いいエージェントがいれば、なぜその企業が採用しようとしているのかという求人の背景を知ることができるし、ひいては面接官の情報まで得られることがある。こうした、インターネットだけでは分からない情報を、エージェントから引き出しておくことも大きなアドバンテージを生むのだ。

小松氏は、「サラリーマンだけでなくバス運転士や鍼灸師などいろんな人から相談を受けているが、悩みの本質は同じ。なかなか自分だけで考えていても客観的になることは難しい。自分のためになる意見を言ってくれる人をちゃんと見つけられた人が転職を成功させられる」と話している。

専門家:小松 俊明(こまつ・としあき)

東京海洋大学教授(産学連携教育)。総合商社、外資系企業など産業界出身の大学教員。サイバー大学客員教授、厚生労働省職業紹介責任者講習講師、英語教材開発会社やグローバル教育に注力する高等学校のアドバイザーを務める。主な著書に『できる上司は定時に帰る』(あさ出版)、『役に立つMBA役に立たないMBA』(阪急コミュニケーションズ)他多数。
ノマドジャーナル編集部
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