テレビ局の社員としてデジタル戦略全般に携わる一方で、社外にて書籍、イベント、コミュニティなどのプロデュースをしている柳内啓司氏。

一昨年、『人生が変わる2枚目の名刺』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓するなど、”パラレルキャリア”を推奨している。

会社員という本業の名刺以外に名刺を持つことで、本業との相乗効果が生まれ、人生が楽しく豊かになる」という柳内氏に、2枚目の名刺を持つことの意義や効果などについて聴いた。

「忙しいから社外活動ができない」は間違い

Q:2枚目の名刺ではどういう肩書きで活動されているんですか?

テレビ局員 柳内啓司さん(以下、柳内):

「メディアプロデューサー」として、書籍、ウェブ、イベント、コミュニティなどの企画プロデュースをしています。

面白いものを世に送り出して、世の中を動かしたりブームをつくったりしたいという思いがまずあるのですが、世に送り出す形として、テレビ向きのものもあれば、書籍向きだったり、あとはおもちゃに向いているものもあります。

自分は面白いもの、その原石を探してきて、一番ふさわしい形で提示する、そういうことをやっています。

Q:書籍を出してからの変化や周囲の反応はいかがですか?
「自分も2枚目の名刺を持ちたい」という相談は?

柳内:

以前にも増して、社外のネットワークがつくりやすく、また情報も集まりやすくなりました。社内でも、自分が人脈・パイプが強い人間だというキャラクターづけができたので、仕事や相談が来るようになりましたね。

相乗効果を実感しています。私は今年35歳になるのですが、ちょうどこの世代って、会社でもそれなりに責任を持った提案をする世代だと思うんです。
「オープンイノベーション」という言葉ありますが、大きな組織に属しながらも、社外のネットワークを生かして何か新しいこと、面白いことをやろうと思っている人は多くて、そういう方からの連絡も増えているように思います。

相談もありますね。以前からの知人からも、その知り合いからも受けますし、見ず知らずの読者からメールで相談が来るようになりました。

Q:2枚目の名刺を持って困ることはないでしょうか?

柳内:

会社を辞めて独立するとなると、向いているかどうか考えないといけないですし、リスクもありますが、本業以外のスキマの時間で新しいことを始めるのは、リスクはないと思います。

相談の中には、「目立ったことをして会社や同僚ににらまれないか」というものがありますが、社内でも優秀な人はむしろ面白がってくれる人が多いですね。
会社にぶら下がっちゃっているような人に限って、嫌味とか言ってくるイメージがあります。

Q:本業以外の時間を別の活動につかうのは、大企業に所属しているからできるのではないか、という指摘がありそうです。

柳内:

たしかに大企業に属していると、会社の信頼度や知名度があって得な部分もあるかと思います。

しかし、いかに時間をいかにつくるか、ネットワークをつくるかという点においては、所属企業の規模は関係ないですね。
私が所属している企業も、結構忙しいところですが、効率化してスキマ時間をつくったり、敢えて早めに帰ったりすることもあります。しっかり組織に貢献しているという前提があってのことですが。

忙しい中でも、好きなことをやるにはやっぱり工夫が必要です。

たしかに空気を読んで周りに合わせて、無駄に会社にいたり、横一列にやったりするのは、短期的には同僚に嫌われないというメリットがあるかもしれませんが、これだけ変化が激しい時代、横並び主義はリスクになると思います。

自分の好きなものをはっきり見つけるという意味でも、こういうことをやるのはいいと思うし、それに中小企業だからとか関係ないと思います。

打算や計算ではなく本当に好きなことを見つけてやる。
そして発信する

Q:好きなことを見つけるのって、意外と難しいのではないでしょうか。

柳内:

要は行動量ですね。
結婚相手だって何人か付き合って初めて、運命の人と出会える訳ですから。小さい頃の習い事と同じで、いろいろやってみて初めて「ああ、自分はこれが好きなんだ」と分かると思うんです。

完璧主義を目指さず、まずはいろいろ試してみると、そのなかで、自分が好きで、さらに周囲に感謝されたり評価されたりするものと出合える。

好きなことが見つからないという人は、おそらく行動量が足りないのでないでしょうか。

Q:書籍では心がけておくべきことを複数挙げていらっしゃいます。敢えていくつか大事なことを選ぶとしたら?

柳内:

2つほど挙げるとしたら、まずは「本当に好きなことをやる」ということ。
社外活動で世間体を気にしたり、「儲かりそうだから」と考えたりして始めても長続きしません。
時間をかけても苦にならない、自然にやってみたいなと思えることをやる。趣味の延長でもいいと思います。

あとは「発信する」こと。こういうことをやってみたい、やってみましたということを、誰かに直接またはソーシャル上で言うことだと思います。

行動量をつくるものって情熱だと思うんです。

Q:組織に属していると、バイネームで(名前を出して)情報を発信することを躊躇する人もいると思いますが…。

柳内:

基本は勇気をもって「えいやっ」と始めれば、意外とできてしまうものです。
活動内容によっては匿名やニックネームで、顔も出さずにできたりもします。最初はバカにする人もいるかもしれませんが、そこでめげずに正しいことを続ければ、きっと味方が現れると思いますよ。

Q:2枚目の名刺はビジネスでなくてもいいんですね。

柳内:

どっちでもいいと思っています。もちろん収入が得られればそれはいいですが、まずは好きなことをやる。極めていくことで、ビジネスにだってできると思いますよ。

自分の生きがいの面でも、収入源の面でも、会社だけに頼るのって危険だと思うんです。やりがいを複数持っておけば、1つがダメになっても、ほかで得られます。

それは収入面でも同じ。収入も会社からの給料だけだと、どんな局面でも会社の論理に従わざるを得なくなります。もちろん本業で手を抜いていいというわけではないのですが、社外にも収入源を持っておくのは大事です。

ただ私の優先度としては、やりがいが先で、その次に収入を考えますね。

会社員の父、自営業の母。両方からそれぞれの良いこと、悪いことを学んだのかもしれない

Q:柳内さんがパラレルキャリアという考えに至るにあたって、幼い頃の経験が関係しているのでしょうか?

柳内:

詳しく分析したことはないですが、父は会社員で母が自営業でしたから、両方見て、それぞれのいいこと、悪いことを感じていたのかもしれません。

母は、女性の社会進出が進んだ時期に大手商社に総合職で入って、キャリア志向だったのですが、寿退社が当たり前の時代だったので退社して。
それから自営の仕事を始めたのですが、そういう自分で切り開いていくところを、子供ごころにまぶしく感じていたんでしょうね。

Q:一昔前は、会社員が本業の会社の仕事以外に何かを始める、やりたいと思ったら、会社の仕事をしながら2枚目の名刺を持つというより、「独立」というのが一般的だったと思います。

柳内:

独立が絶対的に正しいとは限りませんし、リスクもありますから、必ずしも独立は勧めませんが、ただ「2枚目の名刺を持つ」のは初めの一歩に過ぎません。そこからずっと名刺を2枚持って活動する人もいれば、独立して2枚目の名刺が1枚目になる人もいると思います。

面白いことに、書籍でインタビューさせてもらった、組織に所属しながらパラレルキャリアを築いていた人たちのほとんどが出版から2年半たった今、独立されているんですよ。

独立を志向している人が、試しに会社に所属しながら2枚目の名刺で起業してみて、うまくいきそうなら会社を辞めるという道もいいのではないでしょうか。

そうやって頑張ることで、本業のほうで輝けたりするものです。転職してキャリアアップしたり、2枚目の名刺でやっていたことを会社の任務としてやらせてもらえるようになったり。きっかけにして自分が合うキャリアを見つかればいいと思います。

Q:2枚目の名刺、メディアプロデューサーとしての目標は?

柳内:

それに触れたり使ったりすることで人生が変わったり、リフレッシュできたりするようなコンテンツやコミュニティをつくりたいですね。

ちょうど今やりたいこととしては、メディア関係のコミュニティづくりです。メディア業界、昔からあるマスメディアとオンライン・メディアって分断しているんです。
最近は徐々に人材的にも、産業的にも境界が溶けてきてはいますが、まだまだだと思います。だからその境界を超えるようなコミュニティをつくりたいですね。

実際にFacebookグループを作って活動を始めているのですが、それを拡張させていって、そこで深めた議論を記事やイベントにして、メディア業界を活性化させたいです。
これは本業であるテレビの仕事にも意義があることだと思いますしね。

最後に、「2枚目の名刺を持ってみたい」と考えている人にエールを。

柳内:

これからの時代、社会や会社から与えられた道、「こうやれば大丈夫」というやり方、生き方はアテにできません。自分なりに幸せを定義して、自分が何をしたいのか、しっかりと見つめて進んでいかないと、立ち行かなくなってしまいます。

与えられたもの、生き方ではなく、自分で考え、行動して切り開いていかなければいけません。その一歩として、2枚目の名刺を持つことが役立つと思います。

会社に所属しながら、仕事と別のことをするのが気恥ずかしいという人もいるかもしれません。
しかし、人口が減少し高齢化が進むなど、社会が大きく変わりつつある中で、10年後、20年後もこれまでと同じような働き方、生き方で大丈夫だと思えるなら、「気恥ずかしい」などと言っている余裕はあるでしょうか?

「ゆでガエル」という言葉があります。自分が浸かっている水の温度がゆっくりと上っても、中にいるカエルは気づかないものです。
これは自分も気をつけていますが、恵まれた環境にいる人ほど、変化を察知するのが遅れて、気づいたら危機的な状況に居るという事態が起きないとは言えません。

繰り返しになりますが、リスクのないことなので、まずは自分の好きなことを見つけて、2枚目の名刺を持ってみてほしいですね。

専門家:柳内啓司(やなぎうち・けいじ)

1980年生まれ。東京大学大学院卒。在学中にサイバーエージェントにてウェブ広告制作に携わった後、TBSテレビに入社。バラエティやドラマの番組制作、社内ベンチャーでの事業立ち上げなどを経て、現在はネットとTVが連携した番組の企画・宣伝を担当。コミュニケーション、テクノロジー、キャリアなどをテーマにしたコラム執筆や著名人へのインタビュー取材も多数。
ノマドジャーナル編集部
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