電子ブックの作成をはじめとした多様なウェブアプリケーションを提供するスターティアラボ株式会社(東京都新宿区)の取締役CPO(Chief Product Officer)であり、岩手県花巻市で110年続く老舗企業・株式会社小友木材店の4代目社長であり、地元の街づくりのためにさまざまなアプローチを行う株式会社花巻家守舎の代表取締役でもある。月の半分は岩手、もう半分は東京で過ごす「パラレル経営者」だ。

小友さんはなぜ3社の経営者を兼務しているのか。そして、パラレル経営を可能にしているものは何なのか。最終回となるインタビュー第3回では、「第3のパラレル経営」となった花巻家守舎の立ち上げと、今後にかける思いについて詳しく伺った。

小友木材店の「課題」が、新会社立ち上げのきっかけに

Q:2015年に設立した花巻家守舎では、地元・花巻の遊休不動産を活用したまちづくりの取り組みを展開されています。どのような経緯で始めたのでしょうか?

小友康広さん(以下、小友):

小友木材店の代表に就任してから、家業の主たる収益基盤が不動産事業であることを知りました。所有資産の一つに「花巻で初めての4階建てビル」という物件があったんですが、これが見事に「不良債権不動産」で……。3階に兄弟会社が一つ入っているだけで、他は一切使われていなかったんです。それが10年以上続いていて、収益よりも固定資産税のほうが高いという状況でした。それで「解体して駐車場にでもしようか?」と思って見積を取っても、投資回収期間が55年くらいかかると分かり、困っていたんです。

そんなときにたまたま、花巻市で開催されていた「家守勉強会」という勉強会に参加しました。そこで初めて出会った、ものすごく優秀な人たち3人と意気投合して花巻家守舎を立ち上げることになったんです。問題のビルのように、活用されずに放置されている遊休不動産は他にもたくさんある。こうした物件をリノベーションし、新しいまちの形を編集していければと考えたんです。

Q:どんな方々と出会ったのですか?

小友:

一人は花巻市役所で都市政策を担当している人です。我々を集めた張本人ですね。他には岩手でもトップ3にも入る総合建設会社の役員で、商工会議所青年部の当時のTOP。そして元看護師の女性。この方は「自分が好きなものを集めたイベントを開催したい!」と思い、自主企画でやったらそれが評判で何千人も集めちゃって、そこから「新しいビジネスにもチャレンジしたい」」ということで参加されていたんです。一緒に北九州で開催されたリノベーションスクールに参加するなど、活動を始めていきました

Q:立ち上げからこれまでの約1年間で、どのような手応えを感じていますか?

小友:

街って、市や区などの自治体が作ってくれるものだという印象があると思うんです。それを「自分たちで変えることができるんだ」という感触をはっきりと持ちました。また、「面白くてスゴイ人はちゃんと探せば地元にいるんだ」という発見もありましたね。花巻家守舎がやっていることは街おこしというより、それぞれの領域でさまざまなチャレンジをしている大人が集まり、面白い街にしていこうという取り組みなんですよ。主役はチャレンジする大人です。

Q:今、日本全国で街おこしに取り組む人たちがいます。何か参考にした取り組みはあるのでしょうか?

小友:

そうですね……。何かを参考にするというよりは、「誰かの取り組みの劣化コピーにはしたくないな」という思いを強く持っています。日頃から意識しているのは、「よく分からないことでも、とりあえずやってみる」ということ。結果ばかりに目を向けるのではなくて、とにかく新しいことに積極的に取り組んで行くという姿勢を大切にしていますね。

事業を承継するなら、できる限り異分野で経営を学ぶべき

Q:小友さんは現在「3つの人生を並行して生きている」とも言えると思います。このスタイルだからこそ得られるものはありますか?

小友:

それぞれ違う分野で活躍しているプロの価値観や考え方に触れられることですね。一見するとつながっていないように思える異分野にも、実は深い結びつきがあることも多いんです。そういった意味では非常に学びが多い日々を送っています。一つの生き方だけでは、異分野で活躍する人たちとの接点の数にも限界があったと思います。

Q:小友さんのように、何十年、何百年と続いているような会社の跡継ぎの方が、外に出て他のビジネスに触れることにはどんな意義があるとお考えでしょうか?

小友:

小さい頃から「自分が会社を継ぐんだ」と宿命付けられている人は、全員一度は外に出たほうが良いと思います。自分の実力や、社会人としてのレベル感をフラットな目で評価してくれる場に一度は晒されたほうが良い。社長の地位が約束されている環境では、たとえ身分が平社員であっても、周囲からは腫れ物に触るような扱いしかされないでしょう。そうした意味では、縁もゆかりもないところで、家業とはまったく違う業種を選ぶべきです。本質的な経営を学べる場、なおかつその事業が家業から遠ければ遠いほど、価値のある経験を積めるのではないでしょうか。

小友木材店は祖父の代で財を築き、父の代で花巻にあった製材工場をショッピングモールに変え、不動産事業にコンバートしているんですよ。その結果、売上構成の7割以上を不動産事業が占めていました。さらに、その内の利益の大半はショッピングモールが占めていて、万が一に備えた違約金契約などもきちんと締結されていました。

都会を理解し、地方を楽しむ

Q:こうした生き方は今後、広がっていくと思いますか?

小友:

どうでしょうか? 私は必要だからそうしただけなので……。ただ一つ言えるのは、「3つの仕事をパラレルでこなしたい」とか、「とにかく3つやらなきゃ」といったように、パラレルに生きること自体が目的になったり、憧れだけで始めたりしてしまうと厳しいかな、と思いますね。私の場合はそれぞれの場所に解決したい問題があって、それに対して自分がどう関わって解決していくかを考えたときに、それまでの職場に籍を置いたまま家業を継ぎ、新たな会社を共同で作るという方向に進んでいっただけなので。

たまたまそうなっただけなので、企業経営という形じゃなくてもできたのかもしれませんね。できることならどれかに集中したかったです(笑)。ただ、「3社の経営者として生きることもできる」と気付いてしまったんですよね。「自分の時間を投下すればいいだけなんだから、やってやろう」と。これが違う入り口で、「複数社の役員をやっていることはカッコイイ」なんていうモチベーションで始めていたら、おそらく上手く進んでいなかったと思います。

林業の世界では昔はみんな兼業林家だったので、もともと副業化しやすい性質なのかもしれません。農業と比べても、季節に影響されない分、圧倒的に林業のほうが兼業しやすいんです。ITを駆使することで、兼業林家が生まれやすい「懐かしい未来」のようなものを作りたいという思いもあるんですよ。都会で複数企業を掛け持つだけではなく、地方ならではの資産を利用して、都会にいるよりも可処分所得を高く持てるような世の中を作りたい。それを実現していきたいと思っています。

Q:小友さんのような働き方をしている方は、他にもいらっしゃるんですか?

小友:

いますよ。花巻で地場製品を売るECサイトを運営しながら、東京のIT企業でも働いている人とか。東京から見れば少ないように感じるんですが、地方から見るとそういう人は目立つんです。そういう意味では「地方バリュー」というものは間違いなくありますね。同じことをするなら、地方でやるほうが注目されやすい。リソースを得る環境として東京は最適かもしれませんが、フィールドとしては地方のほうが良いのかもしれません。

金銭的に高い報酬が得られるかというと厳しいかもしれない。でも可処分所得で考えれば、東京と比べても豊かな生活ができるように思います。「年収が何百万円あるか」ということよりも、「自由に使えるお金がいくらあるか」ということのほうが大事じゃないですか。地方にはお金がなくても得られる価値があって、例えば農作業を手伝えばものすごい量の野菜をもらえます(笑)。

問題解決そのものにワクワクできる人なら、きっと地方を楽しめるはずです。何といっても地方のほうが課題満載で、解決のしがいがありますから。地方と都会のバランスを上手く取って、自然体でパラレルに生きていく人が今後増えるとうれしいですね。

 

《 編集後記 》

自社の遊休不動産で味わった苦い経験が「花巻家守舎」の設立につながったと語る小友さん。第3のパラレル経営は、問題解決の方法を真摯に考え、地元の人々と連携する姿勢から始まっていた。

第2回では、家業である小友木材店での取り組み、そして岩手・東京にまたがるパラレル経営者となった経緯を詳しく伺う。

 

第3回では、花巻家守舎という「第3のパラレル経営」について、そして岩手と東京をまたいで活躍する小友さんの今後にかける思いを伺う。

パラレルキャリアを歩むこと自体が目的ではなく、「やりたいこと」「やるべきこと」を追求していくことで、自然とキャリアがパラレルに展開されていく。小友さんのように経営者としてそれを成し遂げる人も、確実に増えていくのではないだろうか。

 

取材・記事作成:多田 慎介・畠山 和也

専門家:小友 康広

1983年2月13日、岩手県花巻市生まれ。大学卒業後の2005年にスターティア株式会社へ入社し、新規事業「ActiBook」の立ち上げと東証マザーズ上場を経験。2009年、スターティアの100パーセント子会社として設立されたスターティアラボ株式会社の執行役員に就任、2011年より取締役(現職)。2013年、地元花巻で110年続く家業・株式会社小友木材店の専務取締役に就任、2014年より代表取締役(現職)。2015年、花巻市中心市街地のリノベーションを通じて街づくりに取り組む株式会社花巻家守舎を設立し、代表取締役に就任(現職)。