個人事業主の確定申告をするときに求められる知識はたくさんあります。そのため、得た知識が虫食い状態になりかねません。しかし、それでは税金面で損するケースが生じ、もったいないです。そこで、知識の虫食い状態に陥らないために、確定申告に必要な知識を網羅します。

知っておきたい確定申告の基本的なルール

一般的には、毎年3月15日まで税務署へ申告書を提出するのが確定申告と認識されています。しかしそれだけでは、確定申告のルールについての知識は不足と言えるでしょう。そこで、基本的なルールを網羅するように解説します。

なぜ確定申告が必要なのか

日本は税金を自分で計算して納付する申告納税制度を採用しています。そのツールとして、確定申告が必要となります。

1年間の収入・所得金額・所得税を税務署へ報告・納付するのが確定申告

個人事業主の確定申告は1年間の収入金額、所得金額、所得税を税務署へ報告する制度です。制度である以上、ルールが定められています。

(1)確定申告書の提出期限

基本的に毎年3月15日です。ただし、土日祝日の場合は提出期限の翌日以降の平日です。

(2)所得税の納付期限

基本的に提出期限と同日(3月15日)です。ただし、現金納付以外の場合は次の納付期限となります。

  • 振替口座を利用

毎年4月下旬に自動引き落としされます。

  • クレジットカードを利用

カードの引き落とし日です。注意点はクレジットカード手数料を負担することです。獲得できるポイントと天秤にかける必要があります。

申告納税制度は税金について税務署と直接コミュニケーションをする制度

自分で確定申告をする個人事業主は税務署と直接コミュニケーションを取る必要があります。その一環で税務調査が行われます。

たとえば、本来受けられない大学生の息子に対する特定扶養控除63万円を所得控除したとします。この際税務署が誤りを指摘する相手ですが、サラリーマンは勤務先なのに対して、個人事業主は本人です。

サラリーマンが確定申告をしなくてもよい理由

多くのサラリーマンは自分で確定申告をしません。勤務先が年末調整により、税金の計算・申告・納付を代行してくれるからです。そのため、給料に対する税金について、税務署とのコミュニケーションは勤務先が代行してくれます。

忘れてはいけない、消費税の確定申告

消費税は消費者が負担しますが、納付するのは預かった個人事業主です。たとえば、本体価格100円のボールペンを消費税8円上乗せして、108円で販売とします。実際に8円を負担するのは消費者ですが、納付するのは販売した個人事業主です。

しかし、全ての個人事業主が消費税を納付するわけではありません。消費税の確定申告には、所得税と違うルールが存在します。

(1)納付する個人事業主

基本的に一昨年の年商が1000万円を超える場合です。

(2)提出期限

毎年3月31日です。所得税の3月15日とは異なります。

(3)納付期限

基本的に提出期限と同日です。しかし、振替口座やクレジットカードで納付する場合は所得税と一緒となります。

確定申告とマイナンバーの関係

マイナンバーを取得した個人事業主は、個人番号も税務署へ申告します。これは国や地方自治体が個人情報の管理などを効率化するのが目的です。一般の人がマイナンバーを用いて、市区町村などに問い合わせても、個人情報を教えてはくれません。

確定申告で1年間の所得税を計算する手順

個人事業主はもちろん、サラリーマンも1年間の所得税を計算します。その手順について紹介します。

所得税の計算方法のアウトライン

所得税の確定申告は納税額の計算がゴールです。そのプロセスを見ていきましょう。

(1)合計所得金額を計算する

収入金額から経費を差し引いて合計所得金額を計算します。

(2)課税所得金額を計算する

合計所得金額から医療費控除などの所得控除を差し引いて課税所得金額を計算します。

(3)1年間の所得税を計算する

課税所得金額に税率を掛けて1年間の所得税を計算します。さらに復興特別所得税が所得税の2.1%分上乗せされます。

(4)納税額を計算する

1年間の所得税から次の金額を差し引いて納税額を計算します。

  • 税額控除
  • 源泉徴収税額
  • 予定納税額

収入金額を計上する基本的なルール

サラリーマンの給料は入金したタイミングで収入金額に計上しますが、個人事業主や副業収入は違います。商品などの納品、サービスの提供などタイミングです。入金の有無は関係ありません。たとえば、クラウドソーシングサービスで12月末日まで入金が確定した金額が翌年1月に銀行口座へ振り込まれても、今年の収入金額に計上します。

個人事業主は経費を自分で計算しなければならない立場

サラリーマンの給料に対する経費は、給与所得控除という年収に応じた概算額で計算します。しかし、個人事業主は実額ベースにより自分で経費を計算します。

経費とは事業に関連する費用のことを指します。自宅の家賃など事業とプライベートで兼用している場合は、事業割合(全体のうち、事業で使用した分の割合)分だけをあん分します。そこで、費用の具体例を3つ取り上げます。

(1)スーツ

スーツは仕事とプライベートで兼用なのが普通です。事業用が明らかでないので、経費で落とすことは現実的に難しいでしょう。しかし、結婚司会業が使用する、結婚式場での司会専用のスーツ代は経費で落とせます。

(2)パソコン

基本的に経費で落としやすい費用です。パソコンを使用しない個人事業主は少ないからです。しかし、不動産投資などパソコンの使用頻度が少ない業種の場合は、事業割合の算定を慎重に行う必要があります。

(3)家賃

オフィス専用なら経費で落とせますが、物件が自宅と兼用の場合は注意が必要です。事業割合を算出するために、仕事用の部屋面積を明確にしましょう。また、明らかに事業割合が大きすぎると税務署から間違いを指摘される可能性が高いです。

所得控除を自分で計算するのが個人事業主の特徴

たとえば、生命保険料控除を受ける場合、サラリーマンは控除証明書を勤務先に提出するだけです。しかし、個人事業主は確定申告をするときに自分で計算しなければなりません。

所得税は課税所得金額に比例する

所得税の税率は7段階(5%〜45%)であり、課税所得金額に比例して高くなる累進課税制度を採用しています。そのため、収入に占める所得税の負担率は高額所得者ほど重くなります。

納税額の計算で所得税から差し引く3種類の金額

3種類のアウトラインを紹介します。

(1)税額控除

住宅ローン控除など

(2)源泉徴収税額

給料やデザイン料など、入金されるときに天引きされる所得税

(3)予定納税額

1年間の所得税が15万円以上などの場合に前払いする所得税(前年の所得税✕2/3)

特に予定納税額は注意が必要です。たとえば、利益の出た年の翌年は強気に投資したくなるところですが、逆に支出を控えなければ資金繰りが苦しくなります。予定納税額が多額となるからです。

個人事業主の節税対策の基本

節税対策は、よく知られている項目から忘れがちな項目までいろいろです。おもな節税対策を紹介します。

開業する前の費用は忘れずに経費で落とす

経費で落とす基本は「事業に関連する費用」ですが、その範囲は事業活動に限定されません。開業準備の費用も経費の対象となります。具体例を挙げましょう。

(1)不動産仲介手数料

オフィスを借りるときに支払う不動産仲介手数料は経費で落とせます。

(2)許認可の申請費用

飲食店などの許認可を申請の際、行政書士へ依頼する手数料は経費で落とせます。

(3)20万円未満の同業者団体の入会金

医師会などの入会金が20万円未満なら経費で落とせます。

(4)交通費

出店前のマーケットリサーチに必要なコインパーキング代など交通費は経費で落とせます。

開業準備の費用は事業活動中の費用より使い勝手がよいです。普通は使った年に経費で落とすのがルールですが、開業準備の費用は好きなタイミングで経費として落とせます。そのため、税率が高い所得金額の大きい年に経費で落としたほうが節税効果は高いです。

よく聞く青色申告と白色申告とは?

一般的に青色申告と白色申告では、帳簿の作成方法が異なります。

  • 白色申告:各収支項目の集計とその明細書の作成
  • 青色申告:複式簿記

いずれも確定申告で計算した所得金額を裏付ける資料です。しかし、信ぴょう性では青色申告に軍配が上がります。複式簿記を採用することで、収支の結果と蓄えられた財産が連動するからです。

たとえば、今年の売上が前年比2倍だとします。普通、入金額と預金残高が増えます。白色申告の場合、売上を前年と同額で確定申告をしても、前年より増えていることは分かりません。しかし青色申告の場合、預金残高が増えているのに、売上が前年と同額なのは不自然なのは明らかです。

このように、所得金額の計算に信ぴょう性を持たせるのが青色申告の特色といえます。

青色申告の申請は必須である

所得金額の計算に信ぴょう性を持たせる青色申告に対して、国は税金面でバックアップしています。おもに次の項目です。

(1)青色申告特別控除が受けられる

お金を負担しなくても、10万円か65万円の所得控除が認められます。

(2)消耗品・備品が全額経費で落とせる金額の範囲が拡充される

白色申告は購入費用10万円未満までしか全額経費で落とせないのに対し、青色申告は30万円未満まで認められます。

(3)赤字分が翌年以降の所得金額から控除できる

今年の確定申告で赤字の場合、翌年以降3年間の所得金額から控除できます。

青色申告で確定申告をするためには、税務署へ「青色申告承認申請書」を次の提出期限までに申請する必要があります。

  • 1月15日までに開業した場合、もしくは再申請する場合:青色申告を受ける年の3月15日
  • 1月16日以降に開業した場合:開業日から2月以内

小規模企業共済の加入を検討しよう

小規模企業共済は事業主向けの退職金制度です。掛金を支払って、リタイア後に活用できます。しかし、加入できるのは独立した個人事業主や中小企業の役員に限られます。副業サラリーマンの加入は認められません。

月額の掛金は1000円〜7万円の間で、500円単位で設定でき、全額所得控除できます。節税効果は次の通りです。

課税される所得金額 加入前の税額 加入後の節税額
所得税 住民税 月額掛金1万円 月額掛金3万円 月額掛金5万円 月額掛金7万円
200万円 10万4600円 20万5000円 2万700円 5万6900円 9万3200円 12万9400円
400万円 38万300円 40万5000円 3万6500円 10万9500円 18万2500円 24万1300円
600万円 78万8700円 60万5000円 3万6500円 10万9500円 18万2500円 25万5600円
800万円 122万9200円 80万5000円 4万100円 12万500円 20万900円 28万1200円
1000万円 180万1000円 100万5000円 5万2400円 15万7300円 26万2200円 36万7000円

(出典元:中小機構

青色申告で確定申告をするために必要な書類

所得金額を裏付ける資料として必要な書類が定められています。詳しく見ていきましょう。

青色申告に求められる帳簿の作成方法

複式簿記により、支出と蓄えた財産を連動させた帳簿を作成します。現実的には会計ソフトへ入力することになります。そこで、会計ソフトについて紹介します。

(1)青色申告会で奨励している会計ソフト

  • やよいの青色申告(弥生会計)
  • ソエカル青色申告
  • グルーリターンA

(2)クラウド会計

  • freee
  • MFクラウド など

(3)永久に無料の会計ソフト

  • フリーウェイ経理Lite

上記の会計ソフトの中でも、特に弥生会計、クラウド会計のfreeeやMFクラウドがおすすめです。多くの税理士が対応しているため、将来依頼するときにスムーズとなるからです。

帳簿のほかに保存する書類

帳簿を作成した際に利用した、資料の原本の保存が求められています。

  • プリントアウトした帳簿
  • 青色申告申告決算書
  • 年末(決算日)時点の在庫の明細書
  • 領収書(レシート)
  • 通帳
  • 請求書、納品書、契約書、送り状

など

保存の際領収書かレシートかは迷うところです。それぞれの特徴を紹介します。

(1)領収書

  • 正式な書類であり、支払先が分かる
  • 買い物の内訳明細が把握できない

(2)レシート

  • 支払先が表示されていない
  • 買い物の内訳明細が把握できる

多額の買い物は正式な書類である領収書、少額の場合は内訳明細が分かるレシートで保存するのがポイントです。

確定申告で税務署へ提示・提出すべき書類

個人事業主の書類提示・提出先は全て税務署です。サラリーマンの年末調整のような、書類の一部を勤務先に提出することなどはありません。

(1)提示・提出が選択できる書類

  • 社会保険料(国民年金保険料)控除証明書
  • 小規模企業共済掛金の控除証明書
  • 生命保険料控除証明書
  • 地震保険料控除証明書
  • 医療費控除の領収書
  • セルフメディケーション税制に必要な健診結果など医師の証明書 など

(2)提出すべき書類

  • セルフメディケーション税制に必要なスィッチOTC医薬品の領収書
  • 住宅ローン控除に関する書類
  • 源泉徴収票 など

書類の不備で青色申告が取り消される可能性あり

青色申告は万が一書類に不備があると、過去にさかのぼって取り消される可能性があります。取り消されるデメリットは大きいです。

たとえば、青色申告特別控除65万円を受けていたとします。税務調査で過去5年間にわたって青色申告が取り消された場合、「65万円✕5年=325万円」に対する税率分に相当する税金を納付しなければなりません。

また、取り消された場合、青色申告の再申請は1年間できないので、白色申告で確定申告をしなければなりません。

確定申告が必要な人・不要な人は

個人事業主でも確定申告が不要なケースがあります。そこで、確定申告の実施判断に焦点を当ててきます。

確定申告が不要な個人事業主の条件

申告納税制度の考えからすれば、税金が0円でも、収入金額や所得金額は報告すべきです。しかし税務署の事務コスト削減のため、次の条件を満たす個人事業主は確定申告が不要となります。

  • 青色申告:黒字で所得金額が38万円以内の場合
  • 白色申告:赤字・所得金額が38万円以内の場合

38万円以内の理由は無条件で所得控除ができる基礎控除が38万円だからです。

青色申告なら赤字でも確定申告をしよう

赤字分が翌年以降3年以内の所得金額から控除できるのが青色申告のメリットのひとつです。しかしそれは青色申告で確定申告をするのが条件です。所得金額が38万円以内の場合は無申告でも税務署からとがめられませんが、赤字分を翌年以降の節税対策に活用できません。そのため、赤字なら確定申告をしましょう。

確定申告をしない場合はどうなるの?

税務署は預金口座や取引先への税務調査など、情報収集に余念がありません。そのため、無申告はいずれバレると考えたほうがよいでしょう。

税務署に無申告がバレると所得金額の申告漏れが指摘されます。白色申告で確定申告をするため、所得金額を推計で計算される場合があります。消費した割り箸の本数から飲食店の売上を推計した事例もあるほどです。

当然、税金を支払いますが、所得税に上乗せして延滞税などの追徴課税を請求されます。

また無申告は精神衛生上よくありません。税務署にバレるのを恐れて、過去数年分の確定申告を税理士に依頼するケースが見受けられますが、そうすると当然税金も数年分まとめて支払うことになります。

以上のように、確定申告をしないデメリットは大きいといえます。

個人事業主の税理士に頼むべきか

確定申告を自分で行うと手間がかかります。その分、本業に専念したほうが売上はアップすると考えている個人事業主はいるでしょう。ただ逆に、税理士へ支払う顧問料がもったいないと感じる人がいるのも事実です。要する費用対効果の問題といえます。そこで、税理士に頼むべきかどうかを検証します。

税理士に頼むべきタイミング

税理士へ支払う顧問料の費用対効果が高い場合は、迷わず頼むべきです。その目安は次の通りです。

(1)本業が忙しくなった場合

事業が軌道に乗ると仕事が忙しくなるため、本業に専念したほうが売上は伸びます。一方自分で確定申告を行うとその分事務作業に時間を奪われ、売上に支障がでる可能性があります。本業が忙しくなったら税理士に頼むとよいでしょう。

(2)消費税の課税事業者となった場合

課税事業者とは、消費者から預かった消費税を納める個人・法人のことを指します。課税事業者となると、会計処理は複雑になってきます。たとえば、コンビニエンスストアが商品を売り上げた場合、消費税の支払いが付随する商品と切手・収入印紙のように非課税の商品を区分し、売上を色分けする必要があります。消費税の課税事業者になったら税理士へ頼むべきといえます。

いったい税理士へ支払う顧問料はいくらなの?

税理士へ支払う顧問料に明確な相場はありません。顧問料の目安は年商か税理士の事務作業量です。そこで、年商をベースとしたモデルケースを紹介します。訪問頻度と顧問料が比例するのが特徴です。

(1)年商1000万円未満

毎月の顧問料:1万5000円〜2万5000円

(2)年商1000万円以上3000万円未満

毎月の顧問料:2万円〜3万円

(3)年商3000万円以上5000円以下

毎月の顧問料:2万5000円〜3万5000円

(4)年商5000万円以上1億円未満

毎月の顧問料:2万5000円〜4万円

(5)年商1億円以上

税理士との交渉しだい
確定申告料は毎月の顧問料の4〜6カ月分が相場といわれています。しかし、税理士の中には毎月の顧問料に含める人も存在します。

まとめ

いかがでしたか?
確定申告の仕組みから節税対策まで網羅するように解説してきました。特に青色申告を申請する・しないことの違いで、税金面にどのような差異がでるかを説明いたしました。また、確定申告の補助輪として、税理士についても触れました。以上の内容を参考にベストな選択してください。

執筆者:阿部 正仁

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。