雑所得というキーワードから何かを連想するのは難しいのではないでしょうか。それは雑所得が確定申告上で、どれにも当てはまらない雑多な項目の寄せ集めだからです。雑所得を理解すれば、関係する周辺知識が身につけられます。そこで、雑所得に関係する全ての内容を解説します。

そもそも雑所得とは何か?

副業サラリーマン、フリーランス、賃貸物件の大家などが確定申告をする際、10種類の所得に分類します。その1つが雑所得です。言葉から連想しづらく、分かりづらいキーワードです。まずは雑所得の内容について詳しく見ていきましょう。

その他の雑多な所得が雑所得である

10種類の所得のうち、他の所得に当てはまらないのが雑所得です。それではまず、各所得について解説します。

(1)利子所得

預け入れた普通預金や定期預金などに対する受取利息です。源泉徴収税額が差し引かれて入金されるため、確定申告をする必要はありません。

(2)配当所得

株式投資などにより受け取る配当金のことを指します。

(3)不動産所得

賃貸物件、月極駐車場などに対する所得のことを指します。

(4)事業所得

フリーランスなど不動産所得を除いた事業活動に対する所得のことを指します。

(5)給与所得

勤務先の月給、パート・アルバイト収入(副業も含む)など給料に対する所得のことを指します。

(6)退職所得

退職金を一度にまとめて受け取る場合に対する所得のことを指します。

(7)山林所得

山林の伐採、売却などに対する所得のことを指します。

(8)譲渡所得

土地、建物、自動車などの売却(譲渡)に対する所得のことを指します。

(9)一時所得

保険金の受け取り、競馬・競輪の払戻金などに対する所得のことを指します。

雑所得は3種類ある〜それぞれのアウトラインを解説〜

他の所得に当てはまらない雑所得は、3種類に分けられます。それぞれのアウトラインを解説します。

(1)公的年金等

厚生年金や国民年金など公的機関から受け取る年金のことを指します。所得金額の計算の際は年金収入から概算経費を差し引きます。概算経費のことを公的年金等控除といいます。金額は次の通りです。

  • 65歳未満:最低金額70万円
  • 65歳以上:最低金額120万円

(2)先物取引やFXなどの所得

これらの所得に対する所得税の計算方法は独特です。

1つは所得金額に関係なく他の所得と独立させて、一律15%の税率で計算します。たとえば高額所得者がFXで2000万円儲けても、他の所得に影響はありません。

もう1つは先物取引やFXでの赤字は3年間繰り越すことができ、翌年以降の所得から控除可能です。ただし、控除可能な所得は同種類に限られます。たとえば、先物取引での赤字は翌年のFXによる所得から控除できます。しかし、異なる種類である株式投資による所得から赤字分を差し引くことは認められません。

また、赤字を繰り越すためには、確定申告をすることが必要です。

(3)その他の雑所得

おもに事業活動による所得が当てはまります。たとえば、サラリーマンが原稿料を単発で受け取った場合などは雑所得です。所得金額は収入金額から経費を差し引いて計算します。

まずは雑所得と給与所得を比較しよう

サラリーマンが雑所得を理解するためには、普段から馴染みのある給与所得と比較するのが近道です。

サラリーマンでも確定申告が必要なのが雑所得の特徴

1年間の所得金額と所得税の計算・申告をするのが確定申告です。しかし、一般的にサラリーマンは自分で確定申告をしません。年末調整により、1年間の給与所得とその所得税の計算を会社が代行するからです。

ところが、公的年金等を除いた雑所得は誰も計算を代行してくれません。そのため、自分で計算して確定申告をする必要があります。

しかし、年収2000万円以下のサラリーマンは雑所得が20万円以下の場合、確定申告は不要です。その場合、雑所得が赤字なら無申告でも大丈夫ですが、黒字なら住民税の申告が必要です。

住民税の申告をする際、住民税を自分で納付するという普通徴収を選択しないと、雑所得分の住民税は勤務先へ伝わります。市区町村によっては、副業収入などの個人情報まで通知されます。確実に勤務先に副業がバレないためには、住民税の申告では必ず普通徴収を選択しましょう。

雑所得の計算は経費の計算が面倒である

サラリーマンの給与所得の計算を年末調整という形で代行する理由は経費の計算が簡単だからです。具体的には、年収に応じて給与所得控除という概算経費で算出します。

しかし、雑所得は自分で経費の金額を実費で計算しなければなりません。たとえば、事業活動に使ったコインパーキング代などを一つ一つ集計します。しかも、領収書などの整理・保存が必要なため、給与所得の計算より遥かに手間がかかります。

事業活動を展開しているのに事業所得にならないの?なぜ雑所得なの?

自分で事業活動を展開していると思っても、無条件で事業所得とは認められません。その理由、および事業所得と雑所得の違いについて解説します。

雑所得は事業所得や不動産所得よりも税金面で不利

税務署が事業所得として認めない理由のひとつに税金面の有利・不利が挙げられます。そこで、雑所得の不利な点を見ていきましょう。

(1)事業活動での赤字分が他の所得から差し引けない

仮に副業サラリーマンの事業所得や不動産所得が赤字なら、給与所得から差し引けます。そして、勤務先から天引きされた源泉徴収税額の一部を取り戻せます。

しかし、雑所得の赤字分は給与所得から差し引けません。

(2)青色申告の申請ができない

事業所得や不動産所得は青色申告の申請ができ、税金面で優遇されます。そこで、雑所得では優遇されない項目を紹介します。

  • 青色申告特別控除が受けられない

10万円または65万円の青色申告特別控除を事業活動での所得金額から差し引けます。なお、青色申告特別控除の金額は改正される方向なので、今後の動向に注目しましょう。

  • 消耗品、備品を一括で経費として落とせる購入金額が10万円未満に限定される

青色申告の場合、消耗品・備品の購入金額が30万円未満なら一括で経費として落とせますが、雑所得は10万円未満に限定されます。たとえば、20万円のパソコンを購入したとします。青色申告は全額経費で落とせますが、雑所得は購入金額を使用可能年数(パソコンは4年が原則)で割った分だけです。

事業所得は本格的、雑所得は片手間

基本的に事業活動が本格的な場合は事業所得として認められますが、片手間の場合は雑所得となります。

理論上、副業サラリーマンが片手間での事業活動で赤字を計上して、勤務先から天引きされた源泉徴収税額を取り戻すことは可能です。しかしそれでは問題があるため、本格的でない事業活動については雑所得としているのです。

副業の事業活動で事業所得として認められる主な4つのポイント

事業活動を本格的と認めるか否かは、次の4項目を総合的に見て判断します。業種によって事情が異なるからです。

継続的に採算が取れること

事業活動の大きな目的は儲ける(採算)ことです。それを継続することが事業所得として認められるポイントです。たとえば、サラリーマンが副業でライターをしているとします。継続的かどうかは、「連載記事を担当している」「毎月原稿の執筆依頼を受けている」などが判断材料となり得ます。

労力をかけて真剣に取り組んでいること

本格的な事業活動なら労力をかけるのが普通です。その目安となるのは次の2点です。

  • 精神的、肉体的に労力をかけていること
  • 副業のために人数を要し、設備が備わっていること

たとえば、副業でホームページの制作を受注している場合、休日や空き時間に本格的に活動しているかどうかがポイントとなります。

また、労力をかける例として、太陽光発電への投資収入が挙げられます。本人が直接働かなくても、設備の管理を委託することで事業所得と認められる条件を満たします。

最近では副業の支援団体が存在します。実際に団体へ加入すれば、労力をかけていることがアピールできます。

さらに事例として、兼業農家の赤字が事業所得と認められたケースがあります。採算が取れなくても常識的に考えて、農具などの設備が必要であり、労力をかけていると判断されたからでしょう。

労力をかけている・いないを客観的に判断することは難しいです。そのため、副業の活動記録をメモに残すなどして、労力をかけていると説明できるようにしましょう。

副業収入がなくなると生活に支障をきたすこと

フリーランスと同じように、事業活動での収入が生活の糧になっているかどうかが問われます。

たとえば、派遣社員が勤務先での収入だけでは衣食住の費用を賄うのが苦しいとします。生活費を補うために副業でホステスをしていた場合、雇用契約を除けば(この場合は給与所得)事業所得として認められます。

副業での事業活動が外部から職業として認識されていること

フリーランスが職業を聞かれれば、事業活動の内容を答えます。その職種であることを周りから認識されるのが普通です。

副業サラリーマンも事業所得と認められるためには、フリーランスと同じように周りから職業として認識されることが求められます。

具体的なポイントは何でしょうか?

たとえば、経理部勤務のサラリーマンがコンサルティングの副業をしている場合、「○○コンサルタント」という肩書の名刺があれば、周りから職業として認識される可能性が高いです。別の方法として、コンサルティングの業務案内のホームページを作成する方法が考えられます。また、副業に関係する内容をブログやフェイスブックに発信することも一つの手です。

規模に関係なく雑所得にならない不動産投資がある

同じ副業でも、不動産投資は無条件で不動産所得と認められます。そのため、赤字分が給与所得から差し引けるなど税金面で有利です。それでは、不動産投資について詳しく見ていきましょう。

雑所得にならない不動産投資の範囲

不動産会社が奨める投資物件の全てが不動産所得になるわけではありません。実は明確に範囲が定まっています。具体的には、アパート・マンションなど賃貸物件、月極駐車場、土地の貸付などに限定されています。

反対に同じ投資物件でも、太陽光発電の売電収入(電力の販売)やコインパーキングの収入は事業所得か雑所得になります。

これらの範囲を不動産投資を検討する際の判断材料にしてはいかがでしょうか。

不動産所得は事業的規模にすると税金面で有利

不動産所得でも、物件が事業的規模かどうかで、税金面での取り扱いが違ってきます。その具体例を紹介します。

(1)青色申告特別控除で多く所得控除ができる

事業的規模の不動産所得は青色申告特別控除65万円の所得控除が認められます。一方、事業的規模でない場合は10万円しか控除が認められません。所得金額800万円の副業サラリーマンを例に節税効果の違いを比較しましょう。

  • 税率33%(所得税23%、住民税10%)
  • 事業的規模の場合の節税効果

青色申告特別控除65万円✕33%=21万4500円

  • 事業的規模でない場合の節税効果

青色申告特別控除10万円✕33%=3万3000円

節税効果の差は「21万4500円―3万3000円=18万1500円」です。

(2)帳簿の記帳が大変

事業的規模の不動産所得は青色申告特別控除65万円が所得控除が認められる反面、きちんとした帳簿の記帳が求められます。

単にお金の出入りを記帳するだけでなく、土地建物の金額など不動産投資により蓄えた財産の明細書を作らなければなりません。帳簿の記帳には会計ソフトを利用するのが現実的といえます。

事業的規模と認められる不動産投資とは?

税金面で有利となる事業的規模の目安は次の通りです。

  • 一戸建て住宅:5棟以上
  • アパートやマンション:10室以上
  • 月極駐車場:車50台以上

ここからは事業的規模かどうかをシミュレーションしましょう。

例)一戸建て2棟、アパート4室、月極駐車場30台

それぞれの物件だけでは事業的規模に当てはまりませんが、全種類をトータルで見ると話は別です。
まず、アパートの部屋数と月極駐車場の台数を1棟あたりに換算します。

  • アパートやマンション1室→0.5棟
  • 月極駐車場1台→0.1室

例に当てはめると次の通りになります。

  • 一戸建て2棟
  • アパートを2棟に換算(4室✕0.5棟)
  • 月極駐車場を3棟に換算(30台✕0.1棟)
  • 合計7棟

よって5棟以上のため、不動産所得は事業的規模となります。

まとめ

今回は雑所得の内容から周辺知識まで幅広く解説してきました。同じ事業活動でも事業所得と認められるケースや雑所得になるケースに分かれるなど曖昧な部分は多いです。しかし曖昧だからこそ、「職業として周りから認識される」など、本格的な事業活動かどうかは世の中の常識に左右されます。日ごろからの副業に関する情報収集を怠らないようにしましょう。

執筆者:阿部 正仁

TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。