2017年11月、会社員の副業・兼業の在り方について、大きな動きがありました。厚生労働省が作成し、多くの企業が手本にする「モデル就業規則」で、副業を「原則禁止」から「原則容認」に切り替える方向でまとまったのです(業務への支障や、企業秘密の漏洩が生じる場合などを除く)。これにより、社員の副業を禁止していた多くの企業が、就業規則を見直すとみられています。2018年からさらに加速していくであろう、会社員の副業・兼業。この流れが人手不足にどのような効果をもたらすか、さまざまな角度から見ていきましょう。

5社に1社は副業を容認する時代

「パラフト」という転職情報サイトがあります。同サイトのコンセプトは、“自律した個を尊重する企業・団体の「求人情報」と、世界に点在する多様な価値観を取り上げる「情報記事」を発信”するというもの。実際に求人を開いてみると、「リモートワーク」「副業」「時短勤務」「海外勤務」「深夜出勤」「午後出勤」「週3日~」など、さまざまなアイコンが目に入ります。求職者はこれらのワードを見て、希望に合った働き方ができる企業・仕事を探すことができるのです。

同サイトでは、副業・兼業、リモートワーク、時短勤務など、多様な働き方を実現するための情報発信も行っています。まさに時代に即した内容で、今後こういったサービスはさらに普及していくでしょう。

その背景として、2017年3月、安倍政権が掲げる働き方改革の実行計画に、「副業・兼業の普及推進」という項目が盛り込まれました。同年の副業、兼業を認めない企業の割合は77.2%(リクルートキャリアの調査による)。2014年の85.3%と比較すると、明らかに減少しています。

副業・兼業を容認しているのは、まだまだスタートアップが中心ですが、サイボウズやロート製薬、日産、富士通、花王、リクルート、Yahooなどのそうそうたる大企業も名を連ねています。5社に1社は副業・兼業を認める時代。いよいよ本格的にパラレルキャリアの時代が訪れようとしているのです。

多様性なくしてイノベーションは生まれない

副業・兼業の普及に合わせて、企業はどのような対応をすべきなのか。まず、社員の柔軟かつ多様な働き方を許可し、受け入れ態勢を整備することです。従来のような、新卒入社をしてフルタイムで働き、定年まで勤めあげるというスタイルは、完全に終わりつつあることをまずは意識すべきです。そして先の「パラフト」で挙げたように、週3~4日の出勤や、時短勤務、リモートワークなどを認める制度構築をすることが、副業・兼業の促進になります。

それは結果的に、企業にとっても大きなメリットをもたらします。その一つが、優秀な人材の獲得や流出の防止です。柔軟な働き方を推進する企業は、労働者から就業先として選ばれやすくなります。ブランドイメージも向上し、採用や離職防止につながるのです。

イノベーションも生まれやすくなります。業種を問わず多様な人材が集まると、それぞれの持つノウハウや知見が、垣根を越えて融合します。一つの業界・企業では起こりえなかった化学反応が生まれるのです。消費者のニーズがより多様化・細分化する中、真に求められるサービスを生み出すには、組織として多様性を受け入れる必要があります。

社員一人ひとりのビジネススキルも上がるでしょう。副業・兼業をするということは、「会社に依存する」という感覚から離れることでもあります。そのため、自らが経営者感覚を持ち、生産性や業績を意識して業務に取り組むようになるのです。

人生100年時代に、副業・兼業をする意義

副業・兼業を受け入れるメリットを挙げてきました。逆に言うと、こういった取り組みができないと、優秀な人材が獲得できず、離職者も増えてしまいます。イノベーションも生まれづらく、社員の成長も見込めません。

多様かつ柔軟な働き方を受け入れ、促進することは、CSRや社会貢献活動の一環と思われがちです。しかしそれだけでなく、生き残るための経営戦略として考え、取り入れるべきなのです。新しい仕組みや制度の構築には、エネルギーが必要です。「忙しい」「人が足りない」という理由で対応を後回しにすると、気づいた時には時代から取り残されている怖さがあることを強く認識すべきです。

自社だけでなく、地域社会へもよい影響をもたらします。自由な働き方が許されれば、経営者人材が育ち、スタートアップ起業の数も増えます。そして地域経済の活性化や雇用創出、ひいては労働者不足の解消につながるのです。

労働者側にとってもメリットはあります。平均寿命が延び、「人生100年時代」と言われる中、より自分に合った働き方・仕事を見つけることで、年齢を重ねても豊かな暮らしを送れるでしょう。

ただ、副業・兼業をすることで、労働時間や負担の増加が懸念されています。時間や健康をいかに管理して、本業も副業もプライベートも充実させられるか。モデルケースや成功事例から、企業も労働者も学んでいく必要があります。

日本社会全体が抱える、労働力不足という問題。それを緩和するカギの一つとなるのが、副業・兼業の推進です。本連載では12回にわたって、各業界の取り組みや事例を紹介してきました。ここで取り上げた内容が、少しでも企業や労働者の皆様の役に立てたなら、この上ない喜びです。

ライター: 肥沼 和之

大学中退後、大手広告代理店へ入社。その後、フリーライターとしての活動を経て、2014年に株式会社月に吠えるを設立。編集プロダクションとして、主にビジネス系やノンフィクションの記事制作を行っている。
著書に「究極の愛について語るときに僕たちの語ること(青月社)」
フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。(実務教育出版)」