ビジネスノマドとの関わりによってキャリア形成に大きな影響を受け、新卒でベンチャー創業期のメンバーに入りながらスキルを身につけ独立していった事例です。
第7回は、これまで志賀さんと守屋さんとの関係からみえてきた、ノマドならではの社員相談窓口としての機能がありましたが、その他のビジネスノマドとしての価値発揮の仕方について伺いました。
社長や経営層の補完的な機能を担う
Q:守屋さんのベンチャーの支援内容についてお伺いします。ベンチャー企業の若い社長は、突出している部分もある一方で偏りがある方が多いと思います。そういったところで、事業立上げ経験が豊富な専門家が補完的に立ち回って機能するイメージがあります。
守屋 実(以下、守屋):
そうですね。事業の成長に必要だけど、埋められていないところは誰かが補完する必要があるということだと思います。
志賀 大(以下、志賀):
ケアプロでは「参謀」感がすごかったですよ。社長は事業にとにかくまっすぐな方。まっすぐ進み過ぎると、軌道修正せずに進んでしまうこともあるから、それを知らぬ間に軌道修正していく、社長本人は軌道修正させられていることに気づいていないけれど、急な角度をなだらかにしてくれて、戻してくれて、他の社員がついていけるようにしてくれる。75度くらいなのを45度くらいにちょっとずつしてくれていて。
それと同時に、社員皆の角度を上げてくれていました。そういった角度調整をしているな、と見ていて思いました。
Q:角度を上げてくれているな、というのは、例えばどういう場面で感じるんですか?
志賀:
例えば、事業の内容を噛み砕いて説明してくれる時。「こんなに数字が並んでいるけれど、要は、売上がこれで、みんなで頑張ればいける!ということだから」とか。あるいは、「ここはもっとテンポ出せという意味だから」、とか。最初はそんな感じで理解しやすいようにざっくり伝えて、あとで噛み砕いて説明してくれる。
実際に業務をやっていく中で、最初のざっくりとした理解がもう頭に入っているから、そういう経営的な数字を追うのが初めての人にとっても、追いやすかったりしますよね。最初、経営、事業の戦略とか分からないなかでもちょっとずつわかっていく、追えるようにしてくれるので、しっかり腑に落ちるということがよくありました。
Q:守屋さんが実際にやっていた業務は他にどういうことがありましたか?
守屋:
採用や、マニュアル作り、組織マネジメント、営業の育成など、当時足りていないところを全部やっていました。
ちなみに会社というのは、「法人」というくらいなので、みんなで寄ってたかって「人」としてのすべての役割を満たさなければならない。「顔」だけでも、「手足」だけでも、「心」だけでもダメ。それぞれの仲間にはそれぞれの個性や強さ、その時の調子など色々あるので、その時々で全体として「法人」としてのベストを出していくことが必要だと思います。
志賀:
ケアプロも立ち上げ当初は足りないところだらけでした。「想い」以外全部足りない。ただ、「想い」は100点でしたよ(笑)
「部活」から「会社」に
Q:志賀さんの目にはそのような守屋さんはどのように映っていたのでしょうか。守屋さんが入って組織の変化としてはどのようなものがありましたか。
志賀:
守屋さんが入ってきて、組織が一気に変わりました。それまでの「部活動」的なものから、本当の「会社」に。「健康チェック部」から「健康チェック事業会社」になったような感じです。
守屋さんが会社を大きくするために必要なパーツをどんどん集めてくるんです、会計のところも当時わからなかったんですが、税理士の事務所にお願いをするほうがいい、とか、ロジスティクス機能を外注する、とか。
通常、僕らからすれば、「それお金かかるから自分たちでやろうよ」と思うところだったのが、事業に集中することの大切さをあとで理解しました。
Q:入ってすぐにそこまで変わるものなのですね。
志賀:
変わりましたね。当初は、ちゃんとした事業計画もなかったですからね。なんとなく日銭を稼ぐみたいなところから、計画的にいく、事業計画というものの大切さを教えてもらいました。
守屋さんはメンバーに事業計画を発表するときに「何も考えずに見るとただの数字。でも、これはみんなが汗をかいて、血を吐きながらでも懸命に頑張るというストーリーが書かれている。だからただの数字に見えている間はもう一度聞いてくれ」と言っていました。なんだか事業計画を見たのは初めてなのに聞きやすかったですね。
採用は阿吽の呼吸でどんどんいく
Q:守屋さんにとって採用も大きなミッションの一つだったと思います。どのように人を採っているんですか? 志賀さんの時のような口説き、みたいなものも結構やったのでしょうか?
守屋:
ベンチャーが成長する過程で、人を採らないと大きくなれないのは自明ですよね。だから採用はあらゆる手を使っていました。例えば当時、ケアプロは管理が全然できていなかったから、知人から管理の人材を引っ張ってきたりもしました。
Q:こういう人を採らなきゃいけないね、といった採用戦略も社長と結構すり合わせていましたか?
守屋:
すり合わせは最小限でした。そもそも小さい会社だから、そこまで人事戦略計画会議なんてものは必要ない。そんなところで事細かに話さないといけない時点で、その二人はうまくいってない。阿吽の呼吸でどんどんいかないと。
Q:なるほど。どんどん口説いていったんですね。
守屋:
創業間もないベンチャーに来てくれるというのは、相手に、リスク背負ってくださいと言ってるようなものだから。だから、最後の最後は酒飲ませるなりしてどさくさにまぎれるしかないこともある。まあそうやって同意しちゃったんだよね、志賀さんは(笑)
志賀:
入社しちゃいましたね(笑)
Q:志賀さん、入社の意思決定において守屋さんの存在は大きかったんですか?
志賀:
そうですね、守屋さん以外は僕のことをそんなには口説かなかったので。当時のケアプロの経営陣は、わりと全部こっちの意志にまかせてしまう感じだった中、口説いてきたのが守屋さんでした。
取材・インタビュア協力・撮影/サーキュレーション インターン生 小林
1992年に株式会社ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室で、新規事業の開発に従事。メディカル、フード、オフィスの3分野への参入を提案後、自らは、メディカル事業の立上げに従事。2002年に新規事業の専門会社、株式会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業、複数の事業の立上げおよび売却を実施後、2010年、守屋実事務所を設立。設立前、および設立間もないベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。投資を実行、役員に就任して、自ら事業責任を負うスタイルを基本とする。2016年現在、ラクスル株式会社、ケアプロ株式会社、メディバンクス株式会社、株式会社ジーンクエスト、株式会社サウンドファン、ブティックス株式会社、株式会社SEEDATAの取締役などを兼任。
2010年にケアプロ株式会社に創業期メンバーとして参画。当時日本初のサービスであるワンコイン健診サービス(現:セルフ健康チェックサービス)の責任者として従事。退社をする2015年までに、営業・採用・事務・広報・ロジスティクスなどを経験。ケアプロ在籍中に一般社団法人みんなの健康を2011年に設立。2015年にみんなの健康を株式会社として再度設立し、日本で初めて行政より民間委託を受けた、一次救急専門のクリニック「いおうじ応急クリニック」を開始。医療機関の創業・開業やヘルスケア分野におけるコンサルティングを行う形で活動をしている。2016年現在では、年間自宅看取り件数が国内5本の指に入る在宅医療法人にてハンズオンコンサルティングも行っている。
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