会社に属しながらも組織に依存していないビジネスノマドの働き方は、共に働く人達に大きな影響を与えます。今回はビジネスノマドとの関わりによってキャリア形成に大きな影響を受け、新卒でベンチャー創業期のメンバーに入りながらスキルを身につけ、独立していった事例です。

2007年創業のセルフ健康チェック事業を営むケアプロに大学時代から参画し、現在は株式会社みんなの健康 代表取締役 志賀 大さんと、ビジネスノマドである守屋 実さんにお話を伺いました。志賀さんは、ケアプロにて営業、新規事業担当などを経て、現在は経営者として日本初トリアージ型救急クリニックを立上げ自ら事業運営を行なっています。キャリアの岐路に際し、いつも守屋さんの影響があったといいますが、果たしてそれはどのようなものだったのでしょうか?

第1回の今回は、「ビジネスノマドは内部人材の目にどう映るか」について、先にケアプロの組織に参画していた志賀さんから見て、ビジネスノマド守屋さんの参画時当初の印象と、働き出してからの育成や自身に与えた影響について伺いました。

ケアプロの創業期メンバーとして、看護師への道からベンチャー人材へ

Q:志賀さんは、大学時代にケアプロのインターンを経験されています、創業期から参画メンバーですね。

志賀 大さん(以下、志賀):

ケアプロのインターンは大学3年の3月くらいからやっていました。インターンとしてジョインしてからは週4,5日働いているので、大学生ながらほぼフルコミットでした。ケアプロでは、入社は3番目に古いことになり、本当に最初の立ち上げ期からの参画ということになります。

Q:志賀さんは大学では看護学科で、看護師としてのキャリアを考えていたと伺っています。もともとケアプロにインターンで入ったきっかけは何だったのでしょうか?

志賀:

当初はケアプロに入社するつもりではなかったんです。

看護師として病院で働く前に、もう少し社会を見てみたいという感覚はありました。そうした中で、ケアプロ社長の川添さんとお話しする機会があり、事業に共感すると同時に、川添さんがヘルスケアでの事業家として自分のロールモデルになると感じました。というのは、川添さんも看護師、保健師としてのバックグラウンドをもち、大学病院勤務などを経て起業していたためです。自分がそのロールモデルの隣で修行できるということがインターンを決めたきっかけですね。そして、インターンで入って半年後に守屋さんに出会いました。

ベンチャーに突然来た「大人」。守屋さんとの出会い。

Q:守屋さんが入社されるまでの半年間、志賀さんはインターンとしてどういった業務をされていたんでしょうか?

志賀:

最初の半年は健康チェックのイベントを運営・開催企画をする、という事業の主担当者をやっていたのですが、なにせベンチャーの創業期なので、もう担当とか関係なく色々とやっていました。治験のモニターを集める事業、銀座にお店を出すプロジェクトなども同時に行なっていました。

Q:守屋さんは、ケアプロ創業前の構想段階から、川添さんとは縁があり連絡をとっていたと伺っています。そして入社後も、複数の企業で働きながらも、外部人材やアドバイザーというよりは、実質的に立ち上げ社員のような位置づけで幅広い業務をしていたようですね。

守屋 実さん(以下、守屋):

立ち上げ当初のベンチャーに入ってたら、インターンもノマドも何も関係なく、すべからく立ち上げ社員的な動きになりますよね、学生か社会人かとか関係ない。

ビジネスノマド守屋さんと会った最初の印象。「期待」と「異物感」

Q:志賀さんから見て、ビジネスノマドの動き方をしていた守屋さんと最初に会った印象はいかがだったのでしょうか?

志賀:

最初は、「うわ、なんか来た!」という「異物感」を感じました。それまではまわりも若いメンバーばかりで、自分も学生ということもありますし、若いメンバーで頑張っていこうという連帯意識が強かったんです。そこに、外部から大人の偉そうな人が来た!という印象でした。

その「異物感」の一方で、守屋さんの経歴をなんとなく聞いていたんです。新規事業をいくつも立ち上げて来た人が入社する、と。ということはケアプロが一気に伸びるのではないか!いう「期待感」も織り交ざっていました。

Q:印象的な出会いだったのですね

志賀:

初対面が白いパンツだったとか、そのときの服装まで強烈に覚えています。20代しかいなかったところに突然入社してきたわけですからね。

実は当時、他にも入社まではしないものの外部から来られるベテランの方がいました。ある方は「ケアプロのビジネスモデルはこうやって展開すべきだ!」という内容の多数のスライド資料を持ってきて提案してくれたりしました。学生ながらに大人ってすごいなあと思いながら、そういった中で入社した初めての大人の社員だったので、守屋さんはケアプロにどんな貢献をしてくれるんだろう?と当時はそんなことを思っていましたね(笑)。

ビジネスマンとしての基礎と事業の創り方を学ぶ

Q:インターン生であった志賀さんは入社当初の守屋さんとはどのように関わっていたのですか?仕事を一緒にやったり、何かを教わったり、ということはあったのでしょうか。

志賀:

そうですね、仕事の進め方といいますか、ビジネスマンとしての立ち回り方というのは守屋さんにほぼすべて教わりましたね。

例えば、トラブル対応ですね。問題を起こしてしまった時に、仕事に対しての責任感をどこで感じるべきなのか、というところを学びました。

自分たちのツメや見通しが甘く、お客様が提供してほしいと思っているサービスを提供できていなかったとき、軽い謝罪をするだけで済ませようとしたことがありました。でも、それではダメだと。トラブルの原因を把握して同じことが起こらないよう対策をまとめ、お客様のところに赴き説明をするようアドバイスを受けました。少しのトラブルでも、サービス自体の改善の機会と、お客様の信頼をより得る機会にしていかなければならない。仕事に対しての責任の取り方をこの時学びました。

Q:なるほど、仕事に対しての責任の取り方ですね。他にはどのようなことがありましたか?

志賀:

商品開発でも大変勉強になりました。ケアプロは最初の健康チェックの際に、看護師の拘束時間と、検査する患者の人数、検査項目、郵送費、交通費の5つの項目で見積もりを取っていたんですが、これでは毎回計算しなければならず、我々自身も、そしてお客様にも手間がかかっていました。

たくさんのお客様に買って頂くためには、もっとわかりやすい商品にしなければならないと。例えば、骨密度、50人、3時間のイベントとなったら、値段がすぐわかる。それくらい分かりやすくパッケージ化し、お客様に一目でわかるようにする。販売を拡大するためにパッケージ化し、代理店をうまく使う。そのための方法・資料の作り方などを教えてもらいました。

Q:事業に関すること以外でも、個人として学んだことはありましたか?

志賀:

よく相談に乗ってもらっていました。判断を迷っている時に相談すると、守屋さんは自分の意見をあまり言わず、相談しているけれども結局自分が全部決めてしまっているように、誘導されることが多いんですよね。

守屋:

僕自身が、人にこうだ!って、命令するタイプではないというのもあるけど、個人としての育成の観点もあって「そういう時はどうするの?」「そういう時は相手の人、どう思うかな?」等の質問を投げかけて、結局は自分で判断してもらうようにしていますね。

創業期で人数の少ないベンチャーだと、各個人の成長は非常に重要です。その場で解を出すのではなく、本人にいかに腹落ちさせるか。そうして個人個人が育っていくほうが、長期的に考えれば組織にとってインパクトは大きいですから。

《編集後記》

ベンチャーの創業期は、みんなが目の前の仕事に忙しく、若手人材が多く人材の育成にも目があまりいかないことが多い。その中で、「大人」として関与しながら、インターンを含めた若い人材にも目を配って、中長期的に活躍する人材として育成目線でフォローする。新規事業を数多く担当されてきたビジネスノマドならではの価値貢献といえます。知られざるハンズオンの新規事業専門家としての組織貢献の在り方を伺った気がします。

取材・インタビュア協力・撮影/サーキュレーション インターン生 小林

【専門家】守屋実
1992年に株式会社ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室で、新規事業の開発に従事。メディカル、フード、オフィスの3分野への参入を提案後、自らは、メディカル事業の立上げに従事。2002年に新規事業の専門会社、株式会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業、複数の事業の立上げおよび売却を実施後、2010年、守屋実事務所を設立。設立前、および設立間もないベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。投資を実行、役員に就任して、自ら事業責任を負うスタイルを基本とする。2016年現在、ラクスル株式会社、ケアプロ株式会社、メディバンクス株式会社、株式会社ジーンクエスト、株式会社サウンドファン、ブティックス株式会社、株式会社SEEDATAの取締役などを兼任。
【専門家】志賀大
2010年にケアプロ株式会社に創業期メンバーとして参画。当時日本初のサービスであるワンコイン健診サービス(現:セルフ健康チェックサービス)の責任者として従事。退社をする2015年までに、営業・採用・事務・広報・ロジスティクスなどを経験。ケアプロ在籍中に一般社団法人みんなの健康を2011年に設立。2015年にみんなの健康を株式会社として再度設立し、日本で初めて行政より民間委託を受けた、一次救急専門のクリニック「いおうじ応急クリニック」を開始。医療機関の創業・開業やヘルスケア分野におけるコンサルティングを行う形で活動をしている。2016年現在では、年間自宅看取り件数が国内5本の指に入る在宅医療法人にてハンズオンコンサルティングも行っている。
ノマドジャーナル編集部
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