(写真:中嶋 翔さん)
新規事業のプロに聞く「新規事業の落とし穴」第3回は、インタビュー(ヒアリング)の手法についてお伝えします。
前回はリサーチインタビューにおいてありがちな落とし穴とそれを回避するための方法についてお伝えしました。今回は、株式会社チェンジの中で数々の新規事業立ち上げを経験されてきた中嶋氏にもインタビューの具体的な流れについて伺います。
「定量情報で裏付けられた定性情報」を、事業企画の根拠とする
Q:インタビューの設計の仕方と流れについて教えて下さい。
中嶋 翔 さん(以下、中嶋):
まずはインタビューの前ですが、仮説を立てます。闇雲に質問するのではなく、仮説に基づいて5W1Hで仮説を検証できるようなインタビュー項目を考えます。実際の現場では当初の予定を無視して興味深く感じられたところを深掘りしていくような結果になる場合もありますが、事前に全体を設計することが重要です。真面目な方だと、最初に用意した5W 1Hに則った質問項目にこだわってしまって、面白い話が出ても解答欄を埋めることに徹してしまうことがありますが、インタビュー時には1つの質問で他を網羅してくれることもあります。
大事なことは事業企画につながるインサイト(洞察)を得られることなので必ずしも当初用意した全ての質問項目を埋める必要はありません。
Q:サンプル数についてはどう考えてらっしゃいますか。1名の方の意見が必ずしも全体を代表しているとは限りませんが、実施できるサンプル数には限界があります。例えば100人のインタビューは現実的でないですよね。
中嶋 :
はい。100人もインタビューはせず、その方のプロフィールから、多くの人に当てはまる回答なのか推測します。しかしこれはあくまで定性的な情報なので、これを裏付けるために、ちゃんとこの後に定量的なデータを集める作業を行います。定量情報で裏付けられた定性情報でなければ事業企画の根拠情報としては利用しません。
例えば具体的なインタビューの例ですが、一人の中国人の女の子から「パナソニックのアイロンを絶対に中国に持って帰りたい」という話が聞けました。それが気になって後で調べてみると、中国人が日本で買う商品ランキングに入っているわけです。これでパナソニックのアイロンは中国では人気があるということが裏付けられています。このような定性情報と定量情報を紐付ける作業を繰り返します。つまりインタビューとリサーチの組み合わせですね。インタビューで聞けた情報がその人だけにしか通用しない発言の場合もあります。そういった話は定量情報で裏付けようとした時に矛盾が発生して例外事項だったということがわかります。ですので、インタビューには定量情報の収集(リサーチ)が必要不可欠です。
想定していない情報をさらに掘り下げる
Q:質問項目から脱線したことで有益な情報が得られたことはありましたか。
中嶋 :
すでに話にも出ましたが、私が関わっている、中国人のアルバイト募集事業の立ち上げの時、中国人を雇いたいであろう飲食店さんにインタビューに行ったんですが、ここで面白いお話が聞けました。当初私共は、「店舗さんは中国人を直接雇用したいだろう」と考えていました。
しかし、個別の店舗では直接採用する時間が無い一方、派遣会社さんでは対応されているという事実がありました。さらに派遣会社さんは中国の現地の旅行代理店と組んでいて、採用も旅行代理業も両方もされているという想定外のお話も聞けました。このお話が現在の事業企画につながっています。このように、インタビュー中には想定していない情報が聞けた場合、ここを掘り下げることは重要ですね。
重要なのはインタビューをする相手の選定
Q:では、インタビューのコツはありますか。
福留 大士 さん(以下、福留):
誰にインタビューするかが重要ですね。適切な人にインタビューすることができれば、極めて高い成果が得られます。逆に不適切な人に聞いてしまうと時間の無駄であるばかりか、間違った情報を収集してしまうことにもなりかねません。リサーチで一番質の高い情報は人から得られる情報です。リサーチでは過去から現在の話しか得られません。未来は人間の頭のなかにあるわけで、未来をつくるキーパーソンにインタビューすることがとても重要です。
例えば、中嶋がエンドユーザー、先ほど話した例だと中国人の観光客にインタビューしました。これは、本当の消費者の姿を知るという点でとてもいい例です。それ以外にも、中国人観光客向けの事業を年中考えてらっしゃる方や、すでに中国人向けの事業で成功されている方、そのような方々にコンタクトして話を聞くのがとても効率が良いと思います。逆に「この人に聞いてもしょうがないな」と思う方に聞いても良いアウトプットは出ないです。良いインプットだからこそ、良いアウトプットが出るので、インタビューする際は「相手」が重要になります。
成功者へのヒアリングは要注意
Q:インタビュー相手の選び方で気をつけるべきことはありますか?
福留 :
成功体験のヒアリングになってしまう場合は要注意です。経営者や事業立ち上げ経験者などで、自分の事業で成功しているがゆえに自信満々に答える方には気をつけたほうがいいかもしれないですね。自信満々に言われてしまうと簡単に信じてしまいそうになりますが、それが必ずしも正答であるとは限りません。その方だからこそ成功している要素があったかもしれないですし、そのタイミングだったから成功したのかもしれない。本人の要因分析も、実は後付けの理由だったりします。それを信用し過ぎると痛い目にあいますね。これは成功している方だからこそのバイアスですね。よくあることなので気をつけた方が良いです。逆に失敗の要因の方が信じられます。
インタビューの相手によってリサーチの成果は大きく変わってしまいます。
適切な人材を見つけることが難しい場合はOpen Researchのような専門家サービスを活用することも一案でしょう。
次回はインタビューの落とし穴に嵌ってしまった実例についてお送りします。
取材・記事作成/畠山 和也
撮影/加藤 静
株式会社チェンジ 代表取締役兼執行役員社長
1998年アクセンチュア入社、ヒューマンパフォーマンスグループにて、製造業や政府官公庁向けの組織・人の変革プロジェクトやシステム導入プロジェクトに従事。2003年に株式会社チェンジを立ち上げ、代表取締役に就任。人材開発やITなど、他領域に渡る新規ビジネスを国内外で立ち上げた実績を持つ。
株式会社チェンジ シニアコンサルタント 中国語の仕事.com担当
2011年横浜国立大学経営学部卒業後、株式会社チェンジ入社。チェンジでは事業開発の担当部門で新入社員時代から、インドでのIT技術者育成事業、ソーシャルメディア活用のコンサル・運用支援事業などの事業立ち上げを行ってきた。近い将来、子会社の社長の座を狙っている。
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