(写真 左:中嶋 翔さん 右:福留 大士さん)

新規事業の落とし穴第4回は新規事業の実事例をご紹介します。前回は、「誰に」インタビューするかが重要、そして成功者へのヒアリングは要注意といった、インタビューでの注意点についてお伝えしました。その中でも、成功者よりも失敗者の方が適切な情報を得られるという話がありましたが、今回は新規事業を実際に行うにあたっての「失敗事例」をお送りします。

万全と思えた新規事業がどのように、なぜ成功に導くことができなかったのか。他山の石としていただければと思います。

無意識の「前提」に気付けなければリサーチは失敗する。

Q:新規事業に関わるインタビューやリサーチで失敗した事例について教えて下さい。

福留 大士 さん(以下、福留):

私は2010年、インドで飲食店やっていましたが、現地で不動産を購入せず「賃借する」と判断したことで事業を失敗させてしまいました。原因はインタビューとリサーチそれぞれの失敗です。

Q:海外への進出事業の失敗ですね。まず、インタビュー調査での失敗について教えてください。

福留 :

ちょっと考えていただきたいんですが、飲食店をはじめる場合に、不動産を買おうとしますか?しないですよね。私もしませんでした。でもインドは事情が違いました。インドはインフレ率が高く、「購入する」ことを視野に入れる必要がありました。しかし、当時の私には日本文化のバイアスあり、「購入する」文化に気づいていませんでした。

その結果どうなったかというと、インドでは不動産を購入せずに賃借していたので、日本と違い、賃料が急激に上がっていったんです。1回の交渉ごとに20~30%のペースです。貸主である不動産デベロッパーとの交渉は半年から1年に1回程度ですので、賃料の上昇はあっという間でした。最初150万だった家賃が1回の交渉で200万になり、次は200万がさらに240万にという勢いで上昇していました。ようやく利益が出るようになったくらいのタイミングで賃料が上がるので、また赤字に戻るというような状況でした。

せっかく沢山の日本人やインド人に話を聞いても、日本の「賃借」文化を前提にインタビューしていたので、物件の立地の話、例えば「とりあえず1日あたりで、人の通りが2万人くらいありそうなところがいいですね」という話に、「わかりました」となって、そのような物件を「賃借」しようとするわけです。

インタビューしている段階で「購入する」という選択肢がなくなっている状態でした。当時「購入する」選択をしていたら、今頃不動産の含み益で、その時に2億投資したものは6億ぐらいになっているわけです。せっかく新規参入でバイアスフリーな環境なのに、新しい物の見方ができなくなっていたこと、これがあの時のインタビューでの大きな失敗です。

Q:自分自身が、日本の賃借する前提のバイアスがかかっているまま、ある種偏ったインタビューをしてしまったということですね。バイアスがかかっていたとのことですが、インドの経営者にインタビューした際もそういった話は出てこなかったんでしょうか?

福留 :

インドの経営者からは出てこなかったですね。もちろん不動産を購入している人も購入していない人もいるんですけど、賃貸でやっているところはチェーン展開をしていまして、1店舗だと波があるので、トータルで利益が出るようにしていました。これはその後にわかったことです。賃貸でやっている経営者は1店舗に勝負をかけているわけではなかったんです。

店舗を所有している経営者にもインタビューをしていますが、その方は個人で自分の自宅をレストランにして営んでいるだったこともあり、「彼らはもともと家を持っているから」というバイアスがかかり、不動産を「購入する」の選択に至るインタビューにはなりませんでした。

Q:次に、リサーチという観点での今回の失敗について教えてください。

福留 :

次にリサーチでの失敗ですが、当時、もっと綿密にインドのインフレ率をリサーチできていたら、不動産を購入する選択ができたのだと思います。しかし、20年以上デフレが続いているという日本社会にいたこともあり、インフレ率を調べるという発想がありませんでした。
物価というものを事業のパラメーターに入れないわけですよ。しかしインドでは人件費も、モノの費用も全て上がっていくんですよね。当然価格にも転換するんですがコストの転換に比べればどうしても遅くなる。当時、物価というものを徹底的にリサーチして、直近5年間の人件費の上昇率や、同様に不動産価格の上昇率などがリサーチできていて、それを事業計画のコスト構造にちゃんと反映できていれば事業として成功していたと思います。

物件のシミュレーションするときに、むこう3年間同じ賃料を並べている。このことにおかしいと気付けなかった時点で失敗は決まっていたのだと思います。リサーチ、インタビュー、いずれ段階でも気づく可能性はあったものの、「日本社会に生まれ、ビジネスをしている」というバイアスに阻まれその機会を活かせませんでした。その機会に「気づく」ことさえできれば成功していた可能性は高いと思います。

新規事業の専門家であっても一人ではすべての落とし穴を回避できるとは限りません。新規事業プロジェクトのリーダーとしては最終的には自ら決断をするとしても、検討段階では複数の専門家からの意見を得て、自分とは異なった視点から指摘を得ることでこういった「落とし穴」にはまる罠を回避することができるといえるでしょう。Open Researchでは同一プロジェクトにおいて複数の専門家から指摘を得られるサービスをご用意しております。

次回は新規事業企画における優先順位の考え方についてお送りします。

取材・記事作成/畠山 和也
撮影/加藤 静

【専門家】福留 大士(ふくどめひろし)
株式会社チェンジ 代表取締役兼執行役員社長

1998年アクセンチュア入社、ヒューマンパフォーマンスグループにて、製造業や政府官公庁向けの組織・人の変革プロジェクトやシステム導入プロジェクトに従事。2003年に株式会社チェンジを立ち上げ、代表取締役に就任。人材開発やITなど、他領域に渡る新規ビジネスを国内外で立ち上げた実績を持つ。

【専門家】中嶋 翔
株式会社チェンジ シニアコンサルタント 中国語の仕事.com担当

2011年横浜国立大学経営学部卒業後、株式会社チェンジ入社。チェンジでは事業開発の担当部門で新入社員時代から、インドでのIT技術者育成事業、ソーシャルメディア活用のコンサル・運用支援事業などの事業立ち上げを行ってきた。近い将来、子会社の社長の座を狙っている。

ノマドジャーナル編集部
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