(写真:福留 大士さん)

新規事業はその言葉どおり「新規」であるが故に社内にプロフェッショナル人材が在籍していることは少なく、必要性は感じていても適切な対応が取れていないという企業も多いのではないでしょうか。

新規事業のプロに聞く「新規事業の落とし穴」第1回は、新規事業の最初のステップといえる「業界リサーチ」のやり方についてです。

企業の構成要員である「人」が変わらなければ企業は変わらない。という考えのもとに、「コンサルティング事業」と、「研修事業」とを通じて企業変革を実現している株式会社チェンジの代表取締役COO(Chief Operating Officer=最高執行責任者)を務める福留 大士さんと同社新規事業の中国語の仕事.comの立ち上げを行ったシニアコンサルタントの中嶋 翔さんに、業界リサーチの進め方について伺いました。

既存事業だからといってその事業環境を十分に把握できているとは限らない。

Q:新規事業立ち上げにおいて最初のステップは「リサーチ」だと思いますが、新規事業企画におけるリサーチの位置づけについてお聞かせください。

福留 大士さん(以下、福留):

私自身は、最初に立てた仮説を基にファクトを揃えて、数字を確認していく作業をリサーチと位置づけています。分かりやすく言うと、「この辺りに商売がありそうだな」と見当がつくような、「確からしい」仮説を作る作業です。

自分が元々行っている事業の場合は、ある程度は見当がつくと思いますが、「リサーチできている」といえるためにはそれらを全部数字や具体的な事実に落とす必要があります。つまり、具体的な事実に基づいた仮説を作る必要があるということです。日頃触れている事業であれば「調べなくてもわかっている」と思いがちですが、この日頃触れている事業の「具体的な事実」を把握していないことは往々にしてあります。

例えば、「これからクラウドが熱い」ということは誰にでもわかりますが、リサーチができたと言えるためには、「何がどう熱いのか?」ということを示す具体的な数字や具体的な事実が整理されていなければなりません。
事実の裏付けがない段階であれば「クラウドが熱い」ということが事実であると考えていたとしても、事実ではなく仮説に過ぎないという所からスタートをしないといけないということです。

さらに言うならばどんな「確からしい仮説」であっても全ては仮説にすぎないということも忘れてはなりません。例えば外国人観光客向け事業で観光客の推移を調べた場合、過去これだけの人が訪日した。年々伸びている。ということは間違いのない「事実」です。当然、今後も伸びるだろうと予測できます。が、今後も伸びるという部分は「仮説」にすぎません。

もしかしたら訪日観光客の大半を占める韓国や中国で急に海外渡航が禁止されるかもしれない。そうなると訪日観光客は激減しますね。起こりそうにないことではありますが、可能性はゼロではないですし、そういった起こりそうにないことが起こることがあるというのも事実です。

よくある「競合はいない」という思い込み

Q:リサーチにおいて「取得すべき情報の種類・性質」については、どのようなものがあると考えられますか?

福留:

情報の種類・性質には、インタビューなど自らが仕入れた情報と統計データなど誰かが加工したデータがあります。適切なリサーチをするためにはこの二つの情報を組み合わせていく必要があります。

そのときに、顧客に対するインサイト(洞察・見識)を持っていることが重要です。顧客や市場というものをよく理解した上で、具体的な事実や数字といった客観的な情報が整理されている必要があります。

また、どんなビジネスにも何らかの形の競合や類似企業がいるので、「競合は何であるのか?」ということを知っておくことが重要です。事業担当者は、つい「自分の事業には競合はいません」と、自社のサービスはどこともバッティングしていないとか、競合はいないという風に思い込みをしてしまいがちです。しかし、それはあくまで主観であって、利用しようとしている顧客の目線に立つと、似たようなものだと思われているケースや、競合ではないと思っていたサービスと実は比較されているケースは多々あります。

また、新規事業におけるリサーチにおいて見落とされがちなのが、「本当にそれは自分の会社でできるのか?」「自分の会社の強みに根ざしているのか?」という観点です。この二点を見落とさず、深く掘り下げて調査していかなければならないところだと思っています。

調査項目はまず仮説ありき。闇雲に調べてはいけない。

Q:リサーチ作業はどのような流れで行われるのでしょうか?

福留:

実際のリサーチ作業の流れとしては、まず「ここにビジネスがありそうだ」という仮説が発生して、それに基づいて調査項目が決まります。そして、それらを人に尋ねるのか本で調べるのか、といった調査手法が決まり、調査方法に従って実際に調査をしてみて仮説を検証する、という流れの繰り返しになります。

リサーチにおいてやってはいけないのが、闇雲に調べるということです。多くの人が、とりあえず調べるということをやってしまいがちです。色々情報収集をして、色々な情報が出てきて、ここから何が言えるのか?と改めて考えだす、いうのは誤った手順です。まず、仮説ありきでリサーチをして課題解決を考えるのです。

Q:実際に新規事業立案に携わった中嶋さんからみて、実務においても仮説→リサーチという同様の流れで進めているのでしょうか?

中嶋 翔さん:

仮説ありきということは変わらないのですが、仮説とリサーチはほぼ同時ということが多いですね。今回の外国人観光客向けの事業の時も思い立ったら銀座や羽田の中国人に話を聞きに行ってしまったりしました。後から振り返って自分の仮説を考えなおすことも多いです。

リサーチ結果というのはあくまで過去の情報ですので、仮説が正しいかどうかは、事業計画段階では検証しきれません、結局やってみなければわからないです。PDCAで言う所のP(計画)は後です。むしろDCAPのような、D(行動)が先行したほうが迅速に精度の高いものをつくることができると思います。

ありがとうございました。こうした仮説設計やリサーチを高速で進めるために、情報収集と仮説構築がセットで進められるOpen Researchのような専門家ヒアリングサービスを使う新規事業担当者も増えています。

ここまで、新規事業立ち上げにおけるリサーチの意義と手法について、加えてリサーチの際に注意すべき点について語っていただきました。次回はリサーチ結果をどう分析するか、分析結果をアウトプットする上での注意事項について語っていただきます。

取材・記事作成/畠山 和也
撮影/加藤 静

【専門家】福留 大士(ふくどめひろし)
株式会社チェンジ 代表取締役兼執行役員社長

1998年アクセンチュア入社、ヒューマンパフォーマンスグループにて、製造業や政府官公庁向けの組織・人の変革プロジェクトやシステム導入プロジェクトに従事。2003年に株式会社チェンジを立ち上げ、代表取締役に就任。人材開発やITなど、他領域に渡る新規ビジネスを国内外で立ち上げた実績を持つ。

【専門家】中嶋 翔(なかじましょう)
株式会社チェンジ シニアコンサルタント 中国語の仕事.com担当

2011年横浜国立大学経営学部卒業後、株式会社チェンジ入社。チェンジでは事業開発の担当部門で新入社員時代から、インドでのIT技術者育成事業、ソーシャルメディア活用のコンサル・運用支援事業などの事業立ち上げを行ってきた。近い将来、子会社の社長の座を狙っている。

ノマドジャーナル編集部
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