今回は、「広報×ブランディング×知財法務」の強みを生かしてパラレルに活躍されている瀧本さんに、
● 会社に所属しながらどのように独立準備をしたのか
● 実際に支援した案件でお強みを生かした事例
をお伺いしました。
お話を伺った方:瀧本 裕子様
プラップジャパンで広報・プロモーション支援、世界大手のブランディング会社でブランディング、そしてソフトバンクで知財部門の経験を経てフリーランスに。
広報・ブランディングを得意とする弁理士として活躍中。大手・ベンチャーを問わず、広報部署の立ち上げや社内広報担当育成、広報・ブランディング戦略、ベンダーコントロール、イベントプロモーションやオウンドメディア運営まで幅広く支援。
クライアントのメリットや成長だけを主軸に考えるために独立を決意
――まず、瀧本さんが独立した背景からお伺いできますか?
実は昔から独立ありきで考えていたわけではないんです。
ソフトバンク時代、大学の特許系弁理士に聞いて知った話なのですが、日本の大学が基礎特許をたくさん放棄してしまった時代があったんです。その頃から、未来の日本はどんな産業で暮らしを支えていくんだろうか、と漠然とした不安を持っていました。
その後スタートアップ企業との関わりが増えたことから、彼らの中から世界で戦えるスタートアップ企業がたくさん出てくれば日本の未来も明るいのでは?と考えるようになりました。ただ彼らを間近に見ていると、広報や契約書周りでもう少し脇を締めればもっとうまくいくのに…と思うことも多々あり、私が過去に培った強みを生かしていくことで、日本の未来を担うスタートアップをサポートできるのかもしれないと思うようになりました。
企業に属したままだと所属企業のメリットを第一に考えなければいけなくなりますが、スタートアップ企業のメリットや成長を主軸に考えたいので、独立が最適な選択肢でしたね。
約8ヶ月の試運転期間を経て、スムーズに独立
――瀧本さんは独立前に豊富な経験や資格もお持ちで、独立して戦うための武器は充分な状態だったとは思いますが、独立にあたって、ご自身が強みを持つ領域は世間にニーズがあると確信されていましたか?
実際にニーズがあるかどうか、独立してやっていけるかどうかについては、自信があったわけではないです。独立しようと決意してから8ヶ月くらいは、就業時間終了後や土日を使ってボランティアの試運転期間を設けました。仕事関係で出会ったシードやシリーズA時期のスタートアップや代理店時代にお付き合いのあった大手企業に対して、広報戦略策定・壁打ち部分をメインにお手伝いしていましたね。手応えを感じて、幸いなことに独立してからそのまま継続してご依頼してくださる企業も3社ほどありました。
複数の専門性をフル活用し、未来を担うスタートアップをあらゆる角度から支援
――サーキュレーション経由でこれまでに5つのプロジェクトに参画頂いていますが、いくつか案件概要や支援内容を教えていただけますか?
老舗メーカーのコーポレートリブランディング
全国展開をしている老舗菓子メーカーでは、2年弱に渡るコーポレートリブランディングのプロジェクトに携わりました。200周年という歴史的な周年事業を前に、明確に次のありたい姿やブランドビジョンが棚卸しできていない状態だったので、まずは次の200年に向けた強みや社内外からの期待値の抽出から始めました。
店舗の販売スタッフ、工場勤務者、本社・営業所社員、役職者など20名に満遍なく、「今の会社をどう思っているか?」「どんなところが好きか?」「今後どんな会社でありたいか?」等、30項目ほどヒアリング。よくある話なんですが、自社の強みを自分たちでも認識していないことって多いんですよね。こちらの会社もそうでした。
ヒアリング結果から次の200年を表現するキーワード・新CI(コーポレートアイデンティティ)を導き出し、それらを全方位に一貫して浸透させる取り組みも合わせて実施しています。社外に向けては、新商品開発、店舗改装、特設WEBサイト立ち上げ、プレスリリースイベント等のプロモーション、社内に向けては、社是を刷新し、それに関するイベントやコンテストを複数回実施しました。
――複数の強みが活かせたシーンはありましたか?
ありましたね。広報・ブランディングが主のプロジェクトでしたが、知財法務の強みは大いに活かせました。外部との契約書チェックや商標調査は、本来なら法務担当者や外部弁護士に協力依頼をするところを私一人で担当できるので、一貫した法務戦略の下、スピード感を持って対応できたんじゃないかなと思います。
世の中に浸透していないITソリューションを広める広報PR
BtoBのIT企業の広報立ち上げ案件は、彼らの展開するソリューションがまだ世の中に浸透していない=マーケットができてあがっていない点が特徴的でした。これこそ、営業や広告宣伝ではなく「広報」が事業成長をサポートできる案件だと感じ、支援を決めました。
一般にマーケットが育っていないフェーズで「うち、すごいんです!」というメッセージの広報をしても世間に反発食らうだけなんです。なので、メディアに対してはまず「こんな課題があるんですよ」と啓蒙する切り口から試みました。課題認識が一定浸透したら、そのソリューションを提供しているのが私たちなんです、と展開していくやり方です。
広報は広告宣伝とは違い、すぐに結果が出るものではありません。支援先にも浸透に時間がかかることを理解していただいた上で、着々とステップをこなしています。支援に入って8ヶ月ほどですが、担当者の方も協力もあって、当初立てたKPIをすべて上回って達成できているのはとてもありがたいですね。
――瀧本さんが得意とする法務領域でも「グローバル」の法務体制構築や「品質管理体制構築」など、メイン担当ではなかった領域の案件もあったそうですが、専門外の案件に取り組んでいかがでしたか?
私の強みの周辺領域にチャレンジさせてもらえたのは、学びが多く嬉しかったですね。
世間で注目をあびていたものづくりメーカーでは、休職に入った法務担当の穴埋めピンチヒッターとして、当初は一人法務体制で、IPOおよびアジア展開強化に向けた法務体制強化と品質管理の大枠整備を行うプロジェクトに関わりました。確かにこれまでの経歴では、「グローバル」の法務体制構築や「品質管理」に自身がメインで携わったことはありませんが、私が経験してきた知財法務はすべての部署に関わる領域。契約書チェックをするために、どの部署がどんな動きをしているか、業務内容を把握しておく必要があったので、一定の知見があったんです。
例えばグローバルの法務体制については、アジア進出が盛んだった部門の担当もしていたので抵抗はなかったですね。また品質管理に関しても、知財法務として業務をしてきた中で、必要な大枠を提案するだけの知見はあったので、現地の法律に準ずるように弁護士さんや現場の方々と協力しながら仕上げていきました。
――フリーランスって企業在籍時に培ってきた強みをベースに企業支援することが多く、周辺領域へのチャレンジってあまりない印象だったのですが、実際どうですか?
私はむしろ、クライアントからの要望を達成するためには、自分の強みの周辺領域にチャレンジせざるを得ないと思っています。一人でできることは限られているので、必要に応じてフリーランス仲間やベンダー様に依頼して、実際に形にしていく過程を共にすることで、自分自身の新たな知見として吸収しています。
――その他スタートアップの支援を通じて、新たに成長を感じた部分はありますか?
いい意味でのプレッシャーで自分自身が伸びているのを感じます。スタートアップ支援はチャレンジングでとても充実している反面、大企業と比べて戦うツールが少なく、リカバリーしにくい側面もあるため、並大抵ではない覚悟が必要です。大企業では考えられないスピード感の課題が出てくることも多く、驚くようなピンチに遭遇したり、高いリスクを背負うこともあります。「これは無理だ」と思う場面も多いですね。
でも、私はフリーランスとして働くにあたって、「目の前のリスクやプレッシャーから絶対に逃げない」ということだけは決めているんです。なので、負うべきリスクかどうかをジャッジした上で、可能な限り寄り添って実現のお手伝いをさせていただいてます!
編集後記
今回は「広報×ブランディング×知財法務」の3つの武器を持つ瀧本さんにお話を伺いました。一般的な会社であれば複数部署にまたがるような複数領域のお強みを持っている方は、いろんな角度からの案件相談があり、まさにフリーランス向きですね。またフリーランスになってからも、(特に信頼関係ができているクライアントからは)自身の強みの周辺領域へのチャレンジの機会をもらうことが多い、というお話は、大きな気づきでした。
そんな瀧本さんの今後のキャリアプランは「女性が自由に働ける組織で夢を叶えること」だそう。
瀧本様談:
「近い将来、女性にとって働きやすい、自由な会社も作りたいという気持ちもあります。従来の固定的な働き方ではなく、社員同士で顔を合わせるのは週1回程度の緩いつながりを保ちながら、それぞれが自走して高い成果を出し続ける組織が理想です。そして目下の夢は、毎年1回、社員とその家族全員をつれて海外旅行をすること。今後は、”年齢を重ねることが楽しくなるようなサービス”も仕掛けていきますので、男女かかわらず興味のある方とつながっていければと思っています。」
サーキュレーションにご登録いただいているプロフェッショナルの皆さまは、8割が起業家・フリーランスです。自身で事業を立ち上げ、起動に乗るまでの準備期間に、サーキュレーションを活用いただく方も多くいらっしゃいます。いろんな働き方のご要望に沿えるサービスでありたいので、お悩み中の方はお気軽にご相談くださいませ。
取材:井竹萌