公認会計士に大学在学中に合格にしながら、事業会社のキャリアを選び、スクウェア(現:スクウェア・エニックス)にて経営者の横でIRや経営企画としてのスキルを高めた土屋英希氏のキャリアです。後編は独立までの経緯と独立後の働き方、そして、独立プロフェッショナルとしてたくさんの会社を見てきた中で、「働き方」についてどのような見方にたどり着いたかをお伺いしました。

どのように優れた経営者でも「経営判断を誤る瞬間」は起こり得る

Q:スクウェア時代、前社長 和田洋一氏の経営スタイルをお近くで体感されて得たものを教えてください。

土屋英希さん(以下 土屋):

そうですね。やっぱり会社って安定して成長するのが一番なんですよねって思います。

そこに関わっている従業員もそうですし、取引先もそうですし。ボラティリティーが高過ぎると怖いんですよね。下にいきなり向かったときに振り幅がでかいと、底が抜けてそのまま倒産しないですよねって不安になったりとか。上に行って調子づいているときというのは誰も止めませんので。誰も止めないってことでそこで固定費をでかくすると、下への振れ幅がとんでもなくでかくなる。そういうのを踏み外すことが致命傷になる。

独立して以降は、実際に経営判断を誤る瞬間を何度も目にしました。ほんとにちょっとしたことなんですよ。だからこんなふうに横から冷静に近くで見ている存在が必要なんだろうな。どんなに優れた経営者であってもそういうことは起こり得るんだろうなということは実感として持つことができました。

タバコ部屋で「スクウェアとエニックスが合併したらどう思う?」

Q:2003年スクウェア・エニックス合併の際、印象に残っていることはありますか。

土屋:

ある日、和田さんに呼ばれたんです。社長室でぶわーってタバコを吸いながら和田さんがホワイトボードにぐわぁーって突然書き始めて。「スクウェアとエニックスが合併したらどう思う?」と聞かれました。

私は、「うーん、いや、いいんじゃないですか。ファイナルファンタジードラゴンクエストという数年に1本の超大型タイトルがあってお互いに数年のブランクを縮められるし、ファイナルファンタジーは比較的、全世界的に売れているという評価があって、ドラゴンクエストは国内でしか売れないという評価がある。また、スクウェア側には開発者がたくさんいる。ライセンスの商品もそれなりにある。でも日本国内でやっているビジネスはそれだけです」と。

続けて、「一方、エニックスという会社は開発人員はほとんど持っていなくて外注制作。だからプロデューサー的な存在は多いけれども開発ラインがないので比較的身軽。加えて国内事業はマーチャンダイジングと併せて出版の事業もやっている。自分たちの出した商品の利益率を高めるために自社流通も持っている。ということは国内も海外も全部うまい具合にお互いを補完できるので、結構よい組み合わせじゃないでしょうか。」そんな話をしました。まぁ、まさかこの二社が合併するわけないでしょ、と思ってすぐに忘れてしまったんですが(笑)。

それからしばらく経った後、いつも通り和田さんに「ちょいちょい」って呼ばれて。「なんすか?」って言ったら「あのさ、スクウェアとエニックスの合併決まったから」って。そして、そのスケジュールが思いがけないほど直近のお話で。広報IR担当として、その後はほぼ連日徹夜ですね。両方とも上場会社じゃないですか。他のスタッフにも言えないのでずっと一人で朝から晩まで。さすがに和田さんも悪いと思ったのか、朝早く来るんですよね。朝6時とか7時くらいに来て「どう?」って。「とりあえず資料見てください。」、社長が「わかった。」、「じゃあちょっと始業まで寝てきます。」で、起きた頃には赤入れが終わった資料が置いてあって。今、振り返っても非常に密度の濃い期間でした。

Q:その後、2004年に今度はガンホーさんに移られて。

土屋:

はい。経緯としては、坂井CFOにお会いして、その後、孫泰三会長と森下社長ともお会いして、そのときに誘われたんです。「12月決算で、直前期を変えずに上場したい。やってくれないか」というお話でした。上場準備っていうのはそうそう携われるものではないので、せっかくの機会ということで移籍をさせていただきました。

Q:そのとき和田さんとはどのようなお話をされたのですか。

土屋:

和田さんは…実際にはどう思っているかわからないですけれど、基本的に去るものは追わずという精神を表に出している方なんです。退職することにしましたと伝えたら、「次は何をやるんだ、どこ行くんだ。」それだけでしたね。「そうか、頑張れ」って。

変化する経営サポートの在り方、変わらない自身のスタンス

Q:ガンホーさんでの上場支援後、複数社を経て独立された今、プロフェッショナルとしてどのようなスタンスを大事にされていますか?

土屋:

後になって「あの時、こう言ってくれればよかったのに」ってことは言われたくないんです。

すごく逃げのことばに聞こえるかもしれませんが、私は外部の人間なんです。経営者はあなたです。さまざまなオプションは提示します。オプションに対するリスクもリターンも考えられる限り提示します。その中から1つのものに絞るのか、複数のものを取るのか、どれも取らずに全然ちがうものをいくのか。それはあなたが、経営者が判断することです。判断したものに対してはその通りに運ぶよう全力でやります。ただ判断しないっていうのであれば、そのまま会社をたたんだ方がいいんじゃないですか。判断するために経営者はいるんですよね。私はそういう考え方の人間です。だから嫌われることも多いと思います。必要があれば初対面でそれを言っちゃいますし、本当は触れたいんだけど人が触れられないようなところも言います。「この状況を放置するのなら会社をたたんだ方がいいんじゃないですか」って、言うべきときは言いますよ。

どうして正社員の方が推奨されているのかわからない。これからの働き方

Q:今40代でいらっしゃる。今後20年以上の時間をどのようにイメージされていますか。

土屋:

この20年の中でどれだけ多くの企業さんと、面白いひとたちと出会えるか。起業されている方だったり、経営者だったり、さらにそれを手伝おうとしている従業員の方々、周りの関係者の方々とか、そういう方々のなんらかのお手伝いをしていきたい。経営者が本当に困った瞬間だとか、何か重要な意思決定をしなきゃいけないときとか、自分が勘違いをしていないか環境認識を間違えてないか不安になったときとか。そういうことを確かめるための話し相手で構わないので、いろいろな企業さんと関わっていきたいですね。

そうなってくると、サーキュレーションさんのようなかたちで、専門家が週1回でも2回でも行って、経営者が本業に専念できる環境を外部のプロフェッショナル人材たちで支えましょうっていうのも、これからは普通にあっていいと思います。

Q:外部内部は関係なくそれはもうお互いのパートナーシップですね。

土屋:

そうですね。たとえば人事を見るときによく言っているのが、どうしてそんなに正社員という雇用形態にこだわるのかということ。会社にとってのヒューマンリソースを考えた際、正社員、契約社員、臨時雇用員(アルバイト)、業務委託、派遣社員は基本的に全部変わらないはずなんです。個々の業務を比較した際、経営という主軸から見て重要性が高い、重要性が低いという差こそあるかもしれないですが、仕事をしている各自からすると任されている仕事というのは本人たちにとってそれぞれがすべて重要なことなんですよ。

これをやらなかったら仕事がなくなるかもしれない、これをやらなかったら次のステージに行けないかもしれない。だから本人たちにとってみれば任された仕事は全部が重要なんです。だとしたら、雇う会社側からしてみると雇用形態というのはあまり関係ない。本当にやりたいひとが、やりたいですって言って手を挙げてくれて、そこの中で話をして、じゃあ君はこういう条件を希望しているのでアルバイトにしますね、業務委託にしますね、正社員にしますねっていう話をそこからすればいいじゃないかって思ってしまうのです。

あとは、上場準備の時によくあるのですが、外部に依存しないことにこだわって業務委託を切って中に取り込もうとするんです。

でも正社員って法的には2週間で辞められるじゃないですか。契約社員って契約期間を全うしなきゃいけないじゃないですか。業務委託って途中でぶった切ったら損害賠償になるかもしれないじゃないですか。

どうして正社員の方が推奨されているのかわからないんですよね。業務に対するコミットを強く求めるのであれば、契約でバリバリに縛った方が求められるわけじゃないですか。なので、正社員で内製化しなきゃいけないことにこだわる理由というのが私の中では全然しっくりこなくて。なので、もっとフリーで働こうとしている人たちを支援する仕組みがあっていいんじゃないかって思いますね。

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取材・記事作成/伊藤 梓
撮影/加藤 静

【専門家】土屋英希氏
株式会社シャンディガフ代表取締役。大学3年時に公認会計士2次試験合格。卒業後、信託銀行に入行。信託銀行 総合企画部主計を経て、大手ゲーム会社のIR・経営戦略担当に転身し上場2社の合併を経験。その後、株式公開業務実務責任者としてオンラインゲーム会社に移籍。退職後はコンサルティング会社に勤務。同僚とともにインターネットサービス企業の設立を経て、現在個人会社にて複数社の管理部門業務支援及び経営コンサルティングを行う。会計知識を活用した実務ほか財務(直接・間接金融との折衝を含む)・人事・総務・法務といった所謂経営管理業務全般の実務経験及び管理監督支援を実施。そのほか経営戦略としての事業計画立案・推進、M&A案件の支援実績あり。

ノマドジャーナル編集部
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