多くの営業組織をみてきた営業のスペシャリストによる連載第21回です。
以前の記事(記事:「ベンチャー企業のための営業職採用ノウハウ事例」)にて印刷業での営業改善事例をご紹介しましたが、今回は商談を構築する方法について解説します。
営業としての責任、仕事とは?
自社の商品・サービスのことをよく知り、どういう顧客にとって自社商材が役に立つかがわかったら
後は「その顧客に自社の商品・サービスがその顧客の役にたつことを理解してもらう」だけである。
当然、商材・サービスを導入するかどうかは顧客が判断することであるが、提案する人間は自社商材・サービスが顧客の役にたつことを確信していなければならない。このことは提案する立場として最低限の義務だと考えている。
顧客が自己の判断で導入の可否を判断するのと同じ次元で営業も導入の可否を判断しなければならないし、もし、その判断が否になることがあれば即刻提案を引っ込めなければならない。営業とはそれだけの覚悟をもって挑むべきものだと私は考えている。
この前提に立つと、営業パーソンが顧客の前に現れた時点で顧客が自社商材・サービスを導入することは」「営業パーソンの立場として「絶対善」である。絶対善であるからには、万難を排して導入してもらわなければならない。そして顧客に成果を出してもらわなければならない。
それが営業としての責任であり、仕事である。
絶対的な自信と商談の構築力が必要
そのために必要なものは二つある。
一つは前述のとおり、商材に対する知識に裏打ちされた絶対的な自信である。もう一つは商談を構築する構築力である。もっと言うならば営業プロセス全体を構築する構築力である。
商談を構築するとはどういうことか?一言で言うならば商談の中で想定されるシナリオを全て想定し、導入に至る道筋を立て、導入に至らない道筋を予め排除しておくことである。
よく言われることだが、同じ情報を伝えたとしても、伝え方、伝える順番、伝える前にヒアリングした内容、伝える際の表情・しぐさ等々によって人間の判断は大きく変わる。こういったコミュニケーションを間違えれば導入から遠ざかるし、正しくコミュニケーションを取れば導入に至る。
この「コミュニケーションによって判断が変わる」有名な例がある。ご紹介したい。
「恐怖の物質DHMO」のコミュニケーションとは?
「恐怖の物質DHMO」
1997年にアメリカで行われた調査がある。DHMOという物質について説明した後で、この物質の法規制の是非を問うたところ50人中43人が「規制すべき」と回答した。
みなさんもこの物質の法規制をすべきか考えていただきたい。
水酸と呼ばれ、酸性雨の主成分である。
温室効果を引き起こす。
重篤なやけどの原因となりうる。
多くの材料の腐食を進行させ、さび付かせる。
電気事故の原因となり、自動車のブレーキの効果を低下させる。
末期がん患者の悪性腫瘍から検出される。
原子力発電所で用いられる。
各種の残酷な動物実験に用いられる。
防虫剤の散布に用いられる。洗浄した後も産物はDHMOによる汚染状態のままである。
各種のジャンクフードや、その他の食品に添加されている。
その危険性に反して、DHMOは頻繁に用いられている上にほとんど法規制がされていない。
いかがであろうか?おそらくほとんどの方が「法規制すべき」という判断になったのではなかろうか?
ちなみにこの物質の日本語名は「水」である。
驚かれたかも知れないが、翻って上記のDHMOの説明を読んでいただければ間違ったことは何一つ書かれていないことがわかるだろう。それでも「法規制すべき」という間違った結論を殆どの人が選んでしまうのである。これは「水」という極めて有名な物質であるから、タネ明かしをした瞬間に全てを理解することができる。
が、営業現場ではこれと似たようなことが頻繁に発生している。しかし、営業されているようなわかりにくい商材ではなかなかここまで顧客理解を進めることは難しい。営業パーソン自身が水を法規制の対象としてしまうような間違ったコミュニケーションをとってしまっているのである。
顧客に正しく商品・サービスとその効用を理解してもらうために、十分な努力と仕組みが必要であることを理解していただけたであろうか。次回はもう少し具体的に商談構築の仕方をお伝えしたい。
ソフトバンク、リクルート、ラクスルにてマーケティング・営業を歴任した後独立。自身が一線の営業として活動するのみならず、顧客のマーケティング・組織まで踏み込んだ施策を実行。メーカー・商社・代理店・小売など30業種以上を担当。顧客規模としても大手から中小まで幅広い経験がある。現在、営業・マーケティングコンサルタントとして6社を担当。成果にコミットしたコンサルテーションに定評がある。
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。