「超高齢社会」という言葉が当たり前に使われるようになって久しい。国民の4人に1人が65歳以上となった現在の日本は、世界に類を見ない「超高齢先進国」でもある。いわゆるシニア層に向けては、今後もさまざまな業界・領域から新規事業でアプローチする動きが加速していくだろう。

将来のトレンドを探るための先進的な消費者グループ「トライブ」のリサーチを行う株式会社SEEDATAは、超高齢社会の事業・サービス開発に向けたヒントとなるトライブ「シニアウオリア」を発表している。

「シニアウオリア」の定義は、60歳を過ぎても積極的に働き、社会と濃密な関わりを維持している人たち。従来の定年後のイメージである「年金を元手にした悠々自適な老後生活」を送るのではなく、旺盛な労働意欲をベースにして再雇用や起業といった形でビジネスに関わり続けている一群だ。

トライブレポートからは、比較的自由に使える所得があり、無理なく働き続けていくためのコストを惜しまないシニアウオリアの姿が垣間見える。リサーチを担当したSEEDATAアナリスト・岸田卓真さんに、その実像と調査結果についての考察を伺った。なお、本リサーチについては、働く意向の強いシニアエクゼクティブを顧問サービスとして提供している株式会社サーキュレーションのアクティブシニアの協力の下に行われた。

アクティブシニアの価値観を知ることは、日本の将来を見通すことにつながる

Q:「シニアウオリア」をリサーチしようと考えたきっかけを教えてください。

岸田卓真さん(以下、岸田):

超高齢社会をキーワードとした話題が飛び交う中で、「定年後もバリバリ働いているシニアの方が多いよね」という会話になったことが発端です。SEEDATAメンバーの家族や親類といった身近な存在にも、定年後も働き続けているアクティブシニアが多かった。若い世代や、完全に引退している高齢者世代とも異なる価値観を持っているのではないかということで、具体的なインタビューを通じてその志向性を明らかにしていきました。

また、現役世代や若い世代は「将来的に自分たちもシニアウオリアとして長く戦っていかなければならない」という状況に置かれています。ゆくゆくは年金受給開始年齢の引き上げも予想されます。そうした中でシニアウオリアのトレンドを探ることは、日本の将来を見通すためにも重要だと考えています。

趣味のように仕事を楽しみ、経験・スキルを継承したいと考えるシニアウオリア

Q:リサーチを通して、どのような発見がありましたか?

岸田:

シニアウオリアの実像をとらえるために進めていった対面インタビューでは、個人によって働くことへのモチベーションや姿勢はさまざまでした。その差は「現在の年齢」と「エグゼクティブ度(定年後にどのような役職であったか)」によって生じることが分かり、この2軸でシニアウオリアを複数のグループに分類しました。

年齢やエグゼクティブ度も高い「顧問ウオリア」、日本の大企業を定年後に自ら仕事を見つけて働き続けている「一般ウオリア」、外資系企業で若くして定年を迎え余力をまだまだ残している「外資系ウオリア」、長年自営業を続けているため定年という概念がない「自営業ウオリア」などがそれです。

 

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Q:具体的にはどのような志向性が見て取れるのでしょうか?

岸田:

仕事の領域に関して言えば、「仕事が趣味化していく」という傾向がありました。純粋にお金を稼ぐための手段というよりも、仕事と趣味が混じり合った新たなやりがいとして向き合っているんです。新たに勉強して身に付けたウェブ制作の知識を生かして、ほとんどボランティアのような値段で制作業務を請けている方もいました。

また、経済面だけではなく、健康面でもプラスになるという意味で仕事を続けている方も多いようです。体の健康はもちろん、現場の第一線で活躍し続けることによる心の健康にもつながっています。

Q:ポジティブに新しいチャレンジを始める方も多いのですね。

岸田:

そうですね。一方で、「仕事に対するやり残し感」や、そこから生じる「若い世代への継承欲求」も強いんです。インタビューで接した20代の若いアナリストと積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくださる方が多く、「若者たちと話したい!」という熱のようなものを感じました。今後、技能・知識を継承するようなマッチングの場を求めるニーズは高まっていくのではないでしょうか。

Facebookやスマホゲームは身近な存在

Q:リサーチを通じて意外性を感じた部分はありましたか?

岸田:

仕事を続けているので可処分所得は多いのですが、日常消費に対しては倹約意識が高く、旅行や家族の結婚式など有意義で満足感が得られる消費に対しては惜しまないという姿勢が見えました。「高収入シニア倹約家」は今後も増えていくのでは……と見ています。

もう一つ意外だったのは、インタビューした方々がネットに親しみ、デバイスを使いこなしていたことですね。「Facebookを日常的に使っている」「スマホゲームで若者と交流している」「ほとんど電子マネ–だけで生活している」など、20代の感覚で話していても大きな違和感はありませんでした。ただ、どうしても老眼で画面の文字が見えにくいという問題があるので、デバイスはタブレットや大画面スマホが好まれているようでした。

Q:今後、「シニアウオリア」のトライブはどのようなシーンで活用できるのでしょうか?

岸田:

商品開発の分野では、従来の「生き生きと暮らしたいシニアのため」といったぼんやりとしたターゲット像から一歩進んで、「働くシニアのため」の検討が進んでいくのではないでしょうか。シニアウオリアの財布の紐は決して緩くはありませんが、仕事の生産性を高めることに役立つ商品であれば広く受け入れられるのではないかと感じます。医薬品や食品分野では特に、こうした観点での開発が進みそうですね。

また、企業における「継続雇用」の課題にも、シニアウオリアの価値観を知ることが解決のヒントになるのではないかと感じます。必ずしも報酬重視ではなく、趣味と一体化した「仕事を楽しむ」という価値観。長年の仕事人生を経てもなおやり残したことがあると感じ、若い世代に受け継いでいきたいという「継承欲求」。これらを踏まえた人事制度の設計を行うことで、多くのシニアウオリアが活躍し、成果を生み出す職場が誕生するのではないかと思います。

 

<編集後記>

現役世代を生きる私たちにとって、シニア世代はあたかも「別世界」のようにとらえがちな側面があるのかもしれない。しかしシニアウオリアのトライブレポートを追っていくと、現役世代と共通する価値観や行動パターンに親和性を感じ、ビジネスの現場で強い味方となってくれるであろうモチベーションや知見も伝わってくる。

そしてまた、現代のシニアウオリアの生き様は、現役世代が将来のロールモデルとするべき姿でもある。自身のキャリアプランを明確にしていく上でも、このトライブレポートは有効なメッセージを伝えてくれるだろう。

 

取材・記事作成:多田 慎介・畠山 和也

専門家:岸田 卓真

株式会社SEEDATAチーフアナリスト
京都大学工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)修了。
Royal College of Art(王立美術院)、Pratt Instituteにてデザインエンジニアリング、インダストリアルデザインを学ぶ。
2015年よりプランナー兼アナリストとしてSEEDATAに参加、現在チーフアナリストとしてトライブ調査、レポート及びコンサルティング業務に従事。