印刷物や販促ツールの企画・制作、オリジナル情報誌の企画・編集・出版などを手掛ける株式会社アイアンドエフ。新規事業開発にあたり、内部の人材のみで進めるのではなく、コンサルティングファームに依頼するのでもなく、外部の専門家を活用して社内で進めていくことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

 

前編記事では、アイアンドエフ・代表取締役の福島優さんに、外部専門家へ相談した背景や成果について伺いました。

コンサルタントは、過去30年で200社以上の新規事業展開をサポートした実績を持つ、ネクストコンサルティング株式会社・代表取締役CEOの畠中一浩さんです。後編では、実際に取り組んだプロジェクト内容、そして外部専門家が提供できる価値について、畠中さんにお話を伺います。

「プロセス」を重視し、新規事業向きの若手を選抜

Q:最初に、畠中さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

畠中一浩さん(以下、畠中):

IT系のコンサルティングファームと戦略系のコンサルティングファームを経験し、新規事業展開を中心に、幅広い業種を支援してきました。30年間で約200社の新規事業に関わっています。

2005年に「組織に縛られることなく、自由に活動していきたい」と考えて独立しました。

Q:今回ご依頼いただいたアイアンドエフ社の第一印象はいかがでしたか?

畠中:

新規事業に対するとても熱い思いを持っていらっしゃる一方で、なかなかノウハウを蓄積できていない印象でしたね。福島社長には最初の打ち合わせ段階から率直に現状をお話いただき、何を目的に新規事業を動かしていきたいのか、目線合わせをしました。

一口に新規事業を進めるといっても、実際に事業を立ち上げて軌道に乗せるという「解」を重視するのか、それとも社内風土の醸成や人材育成といった「プロセス」を重視するのかでは、取り組みの方向性が変わってきます。今回は、「解」も考慮しながら、社内の若手人材を育成する「プロセス」にも重きを置きたいという福島社長の思いを伺い、プロジェクトを設計しました。

Q:具体的にはどのような取り組みを進めたのでしょうか?

畠中:

まずはプロジェクトメンバーに誰を選ぶべきか、というところからアドバイスしました。どれぐらいの人数で、どの程度の年次で……といった部分ですね。結果的に20代、30代のキャリアの浅いメンバーを選んでいただきました。社長が期待するメンバーであると同時に、「新規事業向き」の人選をしてほしいと要望したんです。新規事業においては、業界経験が長いベテランよりもむしろ、経験が浅く業界の常識に染まっていない若手が活躍するケースが多い。そうした観点もお伝えしました。

メンバー決定後は、2週間に一度、3時間の定例ミーティングを組みました。期間が6カ月なので、合計12回のプログラムですね。

プロジェクト責任者として、妥協のない厳しい姿勢で

Q:福島社長からは、このミーティングで畠中さんからメンバーへ「かなり厳しい声が飛んでいた」と伺いました。

畠中:

はい。最初のミーティングでは「なぜこの場に参加しているのか」「なぜこの会社で働いているのか」といった根本的な部分から考えてもらいました。意識の低い発言があれば容赦なくダメ出しをします。その後、第2回に向けた宿題として「新規事業のアイデアを100通り考える」ことを課しました。結果的に1人10通りぐらいしか出ませんでしたが、これらのアイデアの種を、ミーティングを重ねるごとに絞り込み、現実的な事業プランへと育てていったんです。

私は遠慮せずに厳しい指摘を投げ掛けますし、土日を費やさなければならないようなレベルの宿題を毎回出していたので、メンバーは胃が痛い日々だったのではないかと思います。それでも妥協はできない。私は「新規事業開発プロジェクトの責任者」として参加しているので、厳しくメンバーと接し続けました。

Q:アイデアの絞り込みは何を基準に進めていったのですか?

畠中:

シンプルに「儲かる事業かどうか」です。それが新規事業を考える際に最も重要なこと。どれだけ魅力的なアイデアに思えても、競合がひしめく市場では他社に勝てない可能性が高いですよね。メンバーが出してきた一つひとつのアイデアに対して、「競合はどこか」「勝算はあるのか」といったことを突っ込んでいきました。

ただし、私は答えを提示することはしません。コンサルタントとして考え方のフレームを提示することはしますが、課題に気付き、解決に向けて動くのはあくまでもメンバー自身。それによって新規事業の考え方やプロセスを身に付けてもらいたいと考えていました。

外部専門家を活用できるかどうかは、経営者の本気度にかかっている

Q:ミーティングを重ねて、メンバーの皆さまはどのように変化していったのでしょうか? どのような場面で手応えを感じましたか?

畠中:

ただ「やりたい」「面白い」というアイデアベースでの満足感に終わるのではなく、それを実現するために、「こんな知見が足りない」「こんな人がいたらいいのに」ということを現実的にメンバーが考えるようになりましたね。

 

アイデアと人、リソースを結びつけることも私の役割なので、メンバーが必要とする知見を持つ人を紹介しました。それによって、実際にアイデアが具現化していく。有機的にプロジェクトが回り出し、事業が形になっていったことで手応えを感じました。

参加メンバーには、新規事業の考え方や具体的な進め方がノウハウとして残っていると思います。一度きりで終わらせることなく、新しいアイデア出しや事業化にも継続的に挑戦してほしいと思っています。

Q:畠中さんのような外部専門家の力を100パーセント活用するためには、企業はどんなことを意識するべきなのでしょうか?

畠中:

何よりも大切なのは、経営者が本気であることです。私は福島社長との初回打ち合わせで「メンバーに遠慮せず、ガンガンやりますよ」と宣言しました。それを全面的に受け入れ、任せてくださいました。社長ご自身もすべてのミーティングに参加していたので、メンバーにも本気度が伝わっていたはずです。

経営者の本気度が高ければ高いほど、コンサルタントの熱量は上がっていきます。それが、外部専門家を100パーセント活躍するために必要不可欠なことでしょう。私は今後も、アイアンドエフさんのように確かな思いを持った企業を支援していきたいと思います。

 

取材・記事作成:多田 慎介・畠山 和也

相談者:福島 優

株式会社アイアンドエフ代表取締役。
1988年、地元・岡山市でアイアンドエフを設立。1997年に東京オフィスを開設する。
各種印刷物や販促ツールの企画・制作をはじめ、住宅関連情報誌『新居日和』『タテタラ。』、健康医療情報誌『病院だより』などオリジナル媒体の企画・編集・出版を手掛ける。

専門家:畠中 一浩

ネクストコンサルティング株式会社代表取締約CEO。
アーサーアンダーセン(現アクセンチュア)マネジャー、コーポレイトディレクション(CDI)取締役パートナー、CDIソリューションズ代表取締役CEOを経て現職。
新規事業展開のコンサルティングを中心に、経営戦略の立案、事業計画の策定、企業再生・再成長支援、M&A戦略など幅広い分野のプロジェクトを推進。
著書に『IT投資は3年で回収できる』(PHP研究所)、『人を減らさず、ムダを減らせ』(NTT出版)。