銀行の基幹システムの構築から始まり、IT企業でサービス、組織の立ち上げに携わった後に、国内最大手のクラウドソーシングサービス「ランサーズ」に、CTOとして招聘された田邊賢司さん。現在は株式会社wizpraに参画し、CTOに就任。株式会社サーキュレーションの技術顧問に選任されるなど、幅広く活躍をされています。
現在はCTOとして働きつつも、複数社の技術顧問を務め、エンジニア組織づくりやサービス開発に悩む企業の相談に乗っています。
今回は、そうした複数社での働き方や企業からの相談を受けるきっかけとなった専門家相談サービス『Open Research』の相談事例、果ては専門家相談サービスが秘める可能性や活用するメリットまで、興味深い話を伺ってみました。
■IT知識は実務で修得、未経験からプロジェクト・マネージャーへ
Q:これまでのご経歴を振り返ってもらいつつ、その際にどのような経験を積まれたのかお伺いさせていただければと思います。
田邊賢司さん(以下、田邊):
初めに就職した会社では、SI(システムインテグレーション)として、メガバンク系の基幹システムを構築していました。具体的に言えば、銀行の債権を管理するシステムや、融資の支援を行うシステムですね。
Q:IT関連の知識は学校で学ばれたのですか。
田邊:
私の場合は違いますね。その時は全くの未経験で、学校もIT専攻のコースがあって学ぶようなところではなかったんです。IT系の会社に就職前に独学で学びつつ、会社で「現場」から学んでいったという感じです。テスターから入ってプログラマー、リーダー、プロジェクトリーダーの順に役割を任されるようになり、SIでは最終的にはプロジェクト・マネージャーを務めていました。
Q:実務を通じて、IT知識を修得したのですね。そこから株式会社オウケイウェイヴに転職されたきっかけは?
田邊:
業務系のシステムは規模が大きいので、携わる人が何百人、何千人といます。そうなると自分がユーザにどのように役に立っているのか分からない。ただ言われたものを作っているという訳ではないですが、ユーザーに直接触れられるサービスを作りたいと思うようになり始めました。
それで、自分で企画して開発し、リリース、運用までを行えるWebサービスに携わることを目的にオウケイウェイヴへ入社しました。
Q:入社してからは目的に沿った業務に携わることができたのですか。
田邊:
基幹システムのプログラミング言語として、ずっと使用していたのがJAVAでしたので、どちらかというと、一般ユーザーが利用するBtoC向けのWebサービスよりは、BtoB向けのASPのサービス、今でいうSaaSのサービスに、そのサービスがJavaで実装されていたこともあり、携わることになりました。
ですが、新規事業を立ち上げることになり、BtoC向けのWebサービスに立候補ができるタイミングがあったのです。
そこで立候補をし、本格的にBtoC向けソーシャル系のWebサービスに携わることになりました。結果として、プロジェクト・マネージャーという立ち位置で新規事業に携わり、2つのサービスをリリースすることが出来ました。
■着々と磨き上げられる技術、そしてランサーズのCTOに
Q:次なるフィールドは、アフィリエイト事業とメディア・コンテンツ事業を手掛ける株式会社インタースペース。どういったことを主にやられていたのですか。
田邊:
会社にはメディア事業として、ソーシャル系のメディアやコンテンツサービス、ソーシャルゲームのようなサービスを開発したいと伝えました。それでリーダーやマネージャーの経験があったということもあり、開発組織の立ち上げを行いました。
Q:株式会社トライフォートでは会社の立ち上げから携わったんですよね。
田邊:
代表が友人でしたので、会社が大きくなるまでということで入社しました。最初は人数が少ない会社だったのですが、ネイティブに強いエンジニアが複数人いました。それでスマートフォン向けのゲームアプリを開発する方向に舵を切ったんです。
当時はそういったアプリを作れる会社が少なかったので、案件はたくさんありました。そう考えると一番経験を積むことができた期間かもしれないです。辞める頃には、150人ほどの従業員を抱える会社に成長していたので。
Q:ランサーズ株式会社では、どういった経緯でCTOを務めることになったのですか。
田邊:
ちょうどエンジニア組織の拡大を図る時期だったんです。私はゼロから組織を立ち上げたり、大きな組織を回していたりしたので、その経験を評価していただき、CTOとして招聘されることになりました。
ランサーズには企画職があったので、企画にはあまり携わらず、技術者の採用や育成などのマネジメントを主に行っていました。
Q:その後、独立と同時に株式会社wizpraに入社。ほかにもサーキュレーションの技術顧問を含め複数社のアドバイザーもされています。
田邊:
ランサーズに入ってから1年ほど立った後に、自分も何かに挑戦したいと思うようになったのが、起業したきっかけでした。しかし、収入面などを考えた時に自由に働け、尚且つ、自分がやりたい分野の仕事がないかと思ったのです。その時たまたまwizpraから声をかけて頂き、今はCTOとして在籍しています。
会社では主に企画、デザイン、開発の部門をみていますが、たまに営業をするなど、何でもやっています。今ですと新しいプロダクトの企画に力を注ぎつつ、既存のサービスのタスク割り振りやマネジメント、育成まで担っています。
同時に技術顧問としても複数の企業にエンジニア組織づくりやサービスのアドバイスなどをしています。また同様に様々な企業の相談にも乗っています。
■CTO人材によせられる相談の事例とは?
Q:今現在は伺ったようなスキルや経験を有するエキスパートとして、どういった相談を受けることが多いのですか。
田邊:
例えば相談として受けたのは、割りと大きな企業の開発チームを管掌している役員からの依頼でした。自社サービスを開発している部隊と、受託開発をしている部隊を持っていました。ただ、自社も受託も別々の問題を抱えているという状況。
その方自体はエンジニアバックグラウンドではなかったため、そういった組織体制をどうしたら良いのか。どういった人材を採用したら良いのか。CTOを採用した方が良いのか。組織に対して全体的なマネジメント、つまりどういう組織づくりをした方が良いのか。開発のプロセスやフローはどうしたら良いのか。というような相談を受けました。
Q:やはり大きな企業でも、組織づくりをしていくのは簡単ではないんですね。
田邊:
そうですね。小さな会社でも大きな会社でもそれぞれのステージにおいて組織作りの壁はあると思います。小さい会社の例ですと、IoTのサービスを提供している会社で、10人ほどのスタートアップ企業のCTOからでした。どちらかというと、この会社は採用をどうしたら良いのかが一番大きな悩みでした。
Q:どういったポイントに重点を置かれたのですか。
田邊:
私としては採用をするために行ってきた情報をシェアしたり、育成をどのぐらいの割合でやっていたのかを伝えるなど、課題を採用と育成にフォーカスして伝えました。
Q:ほかにはどういった相談を受けられましたか?
田邊:
オフラインのビジネスで、事業自体は既に成り立っている会社で、これからさらに成長していくためにエンジニアを採用してウェブサービスを創っていくようなフェーズでの相談もありました。その場合は、既存ビジネスの文化を毀損しないようにしつつ、エンジニア文化を醸成していくことについて、レポートラインやマネジメントの仕方、細かいところではリモートワークの取り入れの可能性含めたアドバイスや事例の共有をしました。
また、実際にエンジニアの採用の場面に同席して、スキル的な観点やCTOとしての素養や確認するべき点にコメントなどもしています。
様々な企業の経営層から相談を受けていて思うのは、CTOの職務やエンジニア組織の作り方などは明確な「解」があるものではありません。だからこそ複数の事例を知っている人材のアドバイスの価値があるし、相談者も多くの事例や考え方を知っていくことに意味があると思っています。
■需要が高まるエンジニア。CTO経験者に気軽に相談できる環境づくりの重要性
Q:お話を聞いていてエンジニア、技術者の組織づくりは組織規模の大小に限らず、そして担当者もエンジニアかそうでないかによらず問題として挙がることが分かりました。これからの日本で、特にニーズが高まるのはどちらだと思われますか。
田邊:
組織を立ち上げて間もないシード期の会社でしょうか。百戦錬磨のエンジニアで、CTOを経験したことのある人材が、スタートアップに最初からいれば全然問題ないのですが、そもそもエンジニアの人口自体が少ない中で、スタートアップは優秀なエンジニアの獲得に苦労している所がとても多いです。
なので、最初はエンジニアを雇えなかったり、雇えるけどお給料があまり出せなくて、良い人材を雇えない可能性があります。
Q:そこでCTO経験者などに手軽に聞くことができる環境があれば、内部に知見のないまま最初のエンジニアの採用するリスクを低減できますし、組織にエンジニアがいなくてもエンジニアの受け入れ体制ができ、その考え方や視点を事前に取り入れられる利点がありますね。
田邊:
良いエンジニアを雇うよりも、私のような人材に相談する方が金銭的に安く済み場合もありますし、早いし、効率的なこともあります。
その上、相談サービスであれば当然ながら秘密保持を前提としているので外部には開示したくないレベル感の採用などのお話をすることができますし、エンジニアブランディングの面で助けることができるかもしれない。この取り組みは、将来的に私自身がやりたいことに繋がっている話でもあるんです。
■知識の整理と新たな気付き、「相談を受ける」ことのメリット
Q:Open Researchには多数で多様な専門家が登録しています。専門家としては企業の相談を受けるメリットは何だと思われますか。
田邊:
専門家自身もクライアントと話しているうちに、知識が整理されることです。やはり、こうした機会があると、自分が今までやってきたことでも、きちんと整理しきれていない場合もあるので、そういった場合とても良い機会になることがあります。その道のプロフェッショナルとして話すことによって知識が整理され、更に新しい課題や知らないトレンドが出てくると、必然的に調べると思いますし、そうして新たな知識や気付きを得ることもできるのではないかと思っています。
Q:アドバイスをしたとしても成功する場合もあればうまくいかない場合もあると思います。同じ知識でも、どの業界やどの規模の会社で実際に通用するのかは分かりませんよね。
田邊:
相談者が全く同じシチュエーションはないと思います。回答しても全部が全部、成功する訳ではない。それは業界が違ったから上手くいかなかったのか。体制が違うから上手く行かなかったのか。
だからこそ相談者も考えながら意見を獲得する必要があるし、一人に聞いて満足するよりも、複数の専門家に対して相談するほうがより良いと思います。
Q:確かに、複数に聞くことで整理もできるし、相談の仕方や聞き方もわかってきたりしますね。多面的な視点も身につくので専門家よりも場合によっては視野が広くなるかもしれません。
田邊:
また、顧問やアドバイザーになれば、稼働事例や相談ごとにフィードバックをもらえることができます。働いていると、意外とこうして個別のミッションやプロジェクトごとにフィードバックをもらえる機会は多くないです。
その点顧問であれば、雇用先に縛られることなく、多様な企業の経験を得られることができますので、自分のスキルや経験について、対象先に応じても通用する部分とそうでない部分が自然と見極められるかもしれません。
Q:相談で多様な企業と接点をもつことで、自身の知見やスキルも磨かれるということですね。相談を受ける側もこうしたサービスを介して成長できる?
田邊:
そうですね、専門家側も成長することができます。
今後、私としてはスタートアップの技術支援を行っていきたいので、その時に現在のネットワークだとか、様々な知見に触れることで、業界ごとに提供するサービスを変えることができるのではとも思っています。
Q:ランサーズやサーキュレーションにかかわってこられた田邊さんですが、これからは、人々の働き方に多様化していることを肌で感じられていると思います。専門家に手軽に相談できるような機会やそのためのOpen Researchのようなサービスは今後も必要になりますか。
田邊:
知識の切り売りだけであれば、いつか枯れてしまいます。
知識を提供するというだけ以上の付加価値をどこに付けるのかという時に、知識を活用して新しいサービスを創るのは一つだと思います。知識を提供するだけでなく新しいサービスを創るところまで入り込んで自分の専門性を提供する。
サーキュレーションのサービスでいうと、顧問やノマドでのプロジェクトベースでの働き方も提供しているので、Open Researchで専門家に1時間程度の相談という機会を設定することもできるし、そこからさらに技術顧問やアドバイザーとしての立場で、組織づくりやサービス創りでも貢献することもできる。多様な企業に接点を持つことができ、多様な働き方で価値貢献ができるという仕組みは専門家としても魅力的だと思います。
取材・記事作成:山田 貴大
2011年より株式会社インタースペースにおいて、エンジニア部門の立ち上げに携わる。
2012年8月にスマートフォン向けアプリ開発事業を行う株式会社トライフォートの創業メンバーとして参画。
新規プロジェクトの企画、サービス戦略の策定、チームメンバーの立ち上げに携わり、
創業時から1年半で、150人までの組織に成長させた。
その後、日本最大級のクラウドソーシングサービス企業「ランサーズ」にCTOとして参画し、
クラウドソーシングプラットフォームの運営においてエンジニア部門を統括。
エンジニア部門の組織拡大、仕組み化に携わり、サービスの成長に寄与した。
2015年9月に株式会社ProfitMakersを創業し、同時に株式会社wizpraに参画、CTOに就任。
2015年11月、株式会社サーキュレーションの技術顧問に就任。
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