専門家への1時間の相談事例を掲載しています。今回は、「産学連携」の進め方についてのご相談です。新しい技術の開発を進めるにあたって、その道の研究者と共同研究ができるのは大きなアドバンテージとなります。一方で、そのような大学の研究者との連携の仕方、アプローチ方法や契約の結び方、チーム体制やプロジェクト管理・進捗の把握の仕方は相手が大学ということもあって勝手が違うと感じられている方も多いかと思います。

今回は、とある製造業の老舗企業の経営企画担当者による依頼にこたえる形で実現した産学連携のスペシャリストとの相談事例です。

前編では、そもそも産学連携とはどういった取組みか、開始にあたっての留意点などをお伺いしました。後編では、アプローチ後に、共同研究契約の注意点、連携にあたっての役割分担など具体的なところまで相談が及びます。

【要点】

  • 共同研究契約について注意するところはありますか?
  • 連携を進めるにあたっての役割分担、体制について

【質問者】

弊社は老舗企業ですが、新しい事業の柱として、新規事業の必要性を感じています。そのために研究開発部門ではある技術をベースに開発を続けてきていました。ただ、社内のリソースも限定的なので今後これらの開発を加速化できないかと思い産学連携の機会を模索しています。

ある大学の研究領域に興味をもっていて、連携できそうな気がするのですが、実際にどうやってやるものなのか、どこに問い合わせてどんな体制でやるのか、そもそもどういった枠組みのことを産学連携としているのか、予備知識が全くないので一度整理しておきたかった。

Q:そもそも大学側はどの程度話に乗ってくれるものなんでしょうか?

大賀 紘一さん(以下、大賀):

産学連携センターは企業に協力的です。共同研究を始める際にも、センターが先生を口説いてくれたりしますね。

ただし、先生でいうと、先ほど述べたような研究テーマに興味があるかも重要ですし、別の会社とずっと共同研究をしているような既にひも付きの先生もいるので、その場合は別の同業種企業との共同研究について自由が効かない場合もあります。
特に業界大手企業と大学の先生はコネクションがある場合が多いようです。

Q:実際に共同研究に入った際に、共同研究契約について注意するところはありますか?重要な項目は何でしょうか?

大賀:

例えば、次のような項目が重要ですね。

  • 作業分担

  • ここでは、担当者と作業内容について明記しておくのですが、担当者は個別の実施者まで細かく記載しておく必要があります。

  • 情報交換

  • 情報交換が意外と重要です。会議をやらないと先生が忙しくて時間がとれず、情報共有もされない状態になりがちです。定期的に実施する必要がありますし、研究行程にマイルストーンも設定しましょう。
    ステージごとにわけて、各ステージがおわったら会議をして成果を説明してもらって次のステージに進むか検討するという進め方にしましょう。

  • 成果の帰属

  • 共有の持ち分比率について決めておきます、通常50:50が多いですが異なる場合もあります。

  • 撤退時の取扱

  • 商品化せず研究を終了する場合、研究成果の特許など維持費用はだれがもつかなどの取扱いを決める必要があります。別の用途に使う可能性も見越して会社が特許の持ち分を譲り受ける場合もあるなど今後の方向性を考えて両者で決める形です。
    その他としては、費用負担について、公開・発表についての制約などの規定もあります。契約期間でいうと、1年から5年ぐらいまでが多いでしょう。期間については、各ステージを含めて設定していきましょう。

Q:大学の研究成果のリサーチから初めて、産学連携本部にアプローチしようと思います。といっても弊社も本件をハンドリングするような十分なリソースがいないのですが、実際に進んだ際のプロジェクトチームの組成はどのようにするものでしょうか?

大賀:

そうですね、特に中小企業では会社側にプロジェクトを推進する人材がいない場合が多いです。大学側が研究の主導権を握って、商品化から会社が入っていくような形が多いですね。

大企業だと基礎研究のみを大学に期待することが多いので、大学としては、地域振興や地元の企業支援のためにもっと商品化のところも含めて関わっていきたいという意向があります。大学の先生も中小企業を支援したいような風土が、特に地方の大学ではありますね。そのため、場合によっては商品化も含めて人的リソースは大学側から提供してもらえるような体制を組むことができるかを事前によく相談しておいた方がいいと思います。

相談者コメント:
産学連携については全くの素人でしたが、今回のインタビューにて (1)産学連携で何が達成できるか、(2)連携の体制構築プロセスの在り方、そして、(3)留意事項は何か、という産学連携で研究開発を進めるにあたっての全体像を明確にすることができ、非常に有意義なものとなりました。
産学連携において何が達成できるのかという点について、研究開発のゴールをどのように設定するべきなのか、また、それにより、大学、教授、そして企業の立ち位置がどのように変わってくるのかという点の話は非常に参考になりました。
産学連携のアプローチの仕方についても、大学・教授の研究テーマや志向をどのように把握し、アプローチ先として選別していくのかという点も大変具体的な話を伺い、社内に立ち返ってのプロジェクトの立ち上げの進め方についても具体的にイメージすることが出来ました。
留意事項においては、大学、教授、そして企業の利益が相反することになり得る点を詳細にお話しいただき、企業にとってそこから想定されるリスクを如何にして排除するかという点を実務的な観点、および共同研究契約のドキュメンテーションレベルでのリスクヘッジの観点からも説明いただき、大変参考になりました。

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専門家:大賀 紘一(オーガックIPインターナショナル代表)

神戸製鋼所の知的財産部技術契約室長として、技術移転、ライセンス契約などの実務処理及び、交渉・契約等に携わって来た。
その後、子会社のシンフォニアテクノロジーの法務部長に転じ、外資との合弁事業等にも関与。
退職後は、岩手大学地域連携推進センター技術移転マネージャー、並びに客員教授として、産学連携を推し進める大学・企業間の実務・交渉等を担当。また、集中講座にて教鞭を取る。

ノマドジャーナル編集部

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