株式会社ニューチャーネットワークス 代表取締役社長 高橋 透さんに聞く
数多くの講師・コンサルタントをみてきた、研修・人材育成プロデューサーの原 佳弘氏による「選ばれるコンサルタント」連載。
今回のリアルトークに登場していただくのは「事業戦略コンサルタント」として株式会社ニューチャーネットワークス代表取締役を務める高橋 透さん。大学卒業後、旭硝子に勤務し、その後大手コンサルタント会社へ転職。その後31歳の時に、一人でコンサルティング会社を起業されました。
その後、弁護士を含むコンサルタント十数名を擁する規模まで会社を発展させ、既に20年。自身もコンサルタントであり、経営者である高橋社長。どんなヒストリー、想いがあって独立コンサルタントになったのでしょうか。
「20年前とは違う、今のコンサルタントに必要な視点・スキルとは」?
Q:そもそもコンサルタントを目指された経緯・キッカケは何だったのでしょう。
高橋氏(以下、高橋):
ビジネスとは、勝った負けたの格闘技の世界と同じだと思っています。勝負事にはやっぱり勝ちたいですよね。そう考えると、勝つための発想や方法論を、第3者として実践していける仕事ということで、コンサルタントへ憧れを持つようになりました。
一番のキッカケとなったのは、大学時代学んだ「産業の情報化」「サービス経済化」という未来に関する数々の情報でした。特に、学生時代30年以上前に読んだ、アメリカの社会学者ダニエル・ベルの「脱工業化社会」やアルビン・トフラーの「第三の波」などの書籍には刺激と影響を受けました。まだインターネットが無い時代でしたが「これからは、産業や業界を越えた情報化社会が来る」と感じ、「一産業に留まらないコンサルタントと言う仕事を目指したい」と思うようになったんです。
Q:コンサルタントを長年努めておられますが、昔と今のコンサルタント像に変化はありましたでしょうか?
高橋:
20年前のコンサルタントと今では、全く違ってきています。
昔は、課題が明確だった。そしてその課題を解く方法論があった。だから、情報を集め、分析して、いくつかの方法論に当てはめて考えれば、ある程度方向性が見えました。そこでは、論理思考を身につけ、情報収集力、分析力、そして各種戦略の方法論を応用する力があれば、ある程度、コンサルタント足り得たのです。
それが、大きく変わってしまいました。どう変化したかというと、業界の垣根がなくなり、複雑かつ加速度的に物事が変化・生成する世界に変わっていきました。一番根底にあるのはインターネットだと思います。だから情報収集し分析しても解が中々見つからない。大きな方針やビジョンを持って、実際にやってみないと分からない世界です。そこでは旧来の大企業よりもむしろ動きが速く機動力のあるベンチャーが有利な世界が多くなりました。IoT、自動運転、ドローン、3Dプリンターなどの今話題になっているビジネストピックスを思い浮かべればそのイメージが湧く思います。
ですから、これまでの経営学、事業戦略、マーケティング戦略などの方法論を当てはめることが難しくなっています。従ってコンサルタントにも新たな能力、スキルが求められていると思います。そのヒントは、ビックデーター解析、AIなど科学技術は進化している一方で人間はあまり進化していないと言うことです。科学技術を含めた人間の文明は進化しますが人そのものは生まれ、そしていずれは死にますので、なかなか進化しません。
そこで大事なことは「ユーザーエクスペリエンス:UX」。感覚や情緒、イマジネーション、そこから生まれるストーリー、ドラマ性など極めて人間的なこと、そういったことが大事になってきています。技術はどんどん進化します。しかし人間は技術ほど進化しませんので、いかに技術を人間の感覚、情緒、思考に合わせるかが求められ、そこが企業戦略のポイントになってきます。したがってコンサルタントには、これまで通り技術や市場を理解する知力や論理力が求められるのと同時に、人間の感覚、情緒、思考を理解し、そういったややこしい人間的なものも含めた上で戦略仮説を立てる力が必要なのです。
Q:確かにiPhoneなどは、技術は見えないけど、誰でも説明書なく使えますね。
高橋:
その通り。車の自動運転なども、裏側にはすごい技術やノウハウが積まれていますが、人が使う部分はとても感覚的で、使っていることを気がつかないこともある。市場を大きく変える製品・事業を創造するには、右脳と左脳のような、視点の切り替え、融合ができる思考、スキルが求められています。今コンサルタントに必要なのはつまり、理論と感性、ネガティブとポジティブ、オンとオフ、といった、以前より複雑かつ対局的な視点が必要ということです。
クライアントは、技術を持っている、その技術を使って新規事業をやりたい、新製品を開発したい、と。ただし、ユーザー目線が抜けてしまったり、人間の感覚や情緒とかけ離れていってしまうことがあります。そこでのコンサルタントの役割は、技術に関する知識や論理的思考力も持ちながら、市場や消費者目線を持ち続けること。ロジックと感性の両面を支えていくスキルが必要なのです。
コンサルタントが持つべき、クライアントからのフィー=お金に対する感覚
Q:コンサルタントにとって欠かせない視点、姿勢について考えをお聞かせください。
高橋:
自分自身もコンサルタントをさせて頂いている中で、常に自戒のように心がけていることがあります。それは「自分に払ってくれるフィーの大小で仕事を選ぶな」ということです。お金だけで判断するのではなく、一緒にクライアントと何かを創り上げる「楽しさ、ワクワク感、ドラマ性」、そんなポジティブな面・イメージを考えるようにしたいです。
「対価となるお金がもらえないならばプロの仕事ができない」こういったご意見も、ごもっともです。プロとしての報酬を頂くことも、もちろん大事でしょう。お金をもらうな、と言っているのではありません。私が伝えたいのは、判断基準がフィーの大小だけではないよね、ということなのです。例えば、もしクライアントが出せるお金が少ないのならば、「成果報酬型」にして仕事をスタートしてもいいはずです。または、ファンドを連れてきて、一緒になって新しい価値観や世界を創るという提案をすることだって、できるはずです。
Q:今までのお話を聞いていると、現代のコンサルタントに求められているのは、単なる問題解決ではなく、価値や市場創造をしていくことなのでしょうか。
高橋:
おっしゃる通りですね。かつてはクライアントの代わりに戦略や改革、改善方法を考える、いわば戦略、改革業務代行的意味合いが強かった。ですが先ほどもお伝えしたように、コンサルタントに求められている役割や価値が、市場や事業そのものを変革し、創造することに変わったんです。だからこそ、自分へのフィーだけで捉えるのはむしろもったいないと思うのです。
昔は、アイディアや考えを出したり、作業を代行することに意味があったから、その対価となる分のフィーで計算することも、あながち間違いではありませんでした。しかし今は、価値創造、イノベーション、世界を創る事が役割です。そうなると当然、仕事を引き受けるかどうか、やるかどうかの判断基準は、昔とは違ってくるはずですよね。そういったことが頭に無いとこれからは全く通用しないと思います。
成功しているコンサルタントは、あえて厳しい声に耳を傾ける
高橋:
もう1つ大事にして欲しいのは、「どんなに成功しても、コンサルタントは1人でやっているのではない」ということ。例えば、コンサルタントとして高い評価を受けたとします。著書をたくさん出して、大手クライアントを担当して、指名でお仕事を頂けるようになる。それ自体は、素晴らしいことです。
しかし、絶対に忘れてはいけないのは、色々な方のお世話や尽力に支えられて、コンサルタントをやれている、ということ。いや「コンサルタント業をさせて頂いている」のです。「1人でやっています!」なんて、絶対に言ってはダメだと思うのです。「独立しました」と言う言葉もあまり好きではありません。人は誰でも相互に依存し合っています。その中で創造的な変革を仕掛け、実行する一担当係がコンサルタントです。
考えてみれば、すぐ分かることですよね。コンサルタントなんて、クライアントがいなければ、ただの歩く辞書、参考書なんですから。問題を抱えたクライアント、将来を真剣に考えているお客様がいてこそ、コンサルタントに存在価値がある。だから私は思うのです。すごく極端な言い方ですが「コンサルタントは高度に考え、行動する乞食だ」だと思います。皆に支えられて、おこぼれを頂いて、存在しているのです。そのぐらいの一種欲のなさと言うのか、クールな一歩も二歩引いた裏方精神が必要かと思います。
つまり「コンサルタントの上司はクライアントである」なのです。コンサルタントとしてやっていると、なんだか自分ですべてをコントロールしてるように思えたり、偉くなったように感じる事があるかもしれません。しかしそれはとんでもない間違いです。あくまでクライアントが上司、ボスなんです。だからこそ、クライアントの声に、真摯に耳を傾けるべきなのです。
クライアントファースト、お金だけの判断基準ではない、周囲への感謝、そんな事を忘れなければ、コンサルタントとして成功していけるはずです。そういったコンサルタントは、お客様や市場が必ず見つけてくれて、成長できると考えています。コンサルティングは、相手あってのこと。心の底から相手のためを思い、自分の腹をどれだけ括れるか。これが成功の分かれ目だと思います。
株式会社ニューチャーネットワークス 代表取締役、上智大学経済学部非常勤講師、ヘルスケアIoTコンソーシアム 理事
1987年上智大学経済学部経営学科卒業。
旭硝子株式会社へ入社、セラミックスのマーケティング、新規事業開発を担当。
その後、大手コンサルティングを経て、1996年に経営コンサルティング会社”ニューチャーネットワークス”を設立し、代表取締役を務める。
現在は、ハイテク産業からコンシューマービジネス、官公庁までをコンサルティングする戦略コンサルタントとして活躍。主に、大企業の組織リーダーを対象に、未来を構想し創造するための”成長戦略”の企画構想とその実行支援を行っている。近年では複数の産業、大学、自治体、NPOなどを組織化したコンソーシアムなどを立ち上げソーシャルイノベーションの観点から企業の新しい未来像を描き、新事業を創造する支援を行っている。
実績として、ハイテク産業、精密機器、自動車部品、電機、小売、製薬、食品、化学、素材メーカー、(他多数あり)などの多業界に携わり、研究開発戦略、事業戦略、アライアンス戦略、関係会社戦略、現場起点での経営改革導入、経営幹部研修等で活躍している。
主な訳書、著書として「技術マーケティング戦略」(中央経済社 2016年)「競合分析手法」(中央経済社 2015年)「90日で絶対目標達成するリーダーになる方法」(2014年 SBクリエイティブ)「ネットワークアライアンス戦略」(2011年日経BP) 「GE式ワークアウト」(デーブ・ウルリヒ他著、共訳、日経BP、2003年)、「事業戦略計画のつくりかた」(著、PHP研究所、2006年)、「図解でわかる・技術マーケティング」(共著、JMAM,2005年)など多数。
Brew株式会社代表取締役 人材育成/スクールプロデューサー
1973年生まれ。中小企業診断士。横浜市立大学卒業後、建設市場のシンクタンクにて経営企画を担当。その後、法人向けセミナー・企業研修を行う会社へ転職。階層別研修から営業、マーケティングなど専門領域の研修設計、セミナー企画実施を10年以上行う。
2014年、Brew(株)設立。300人以上の講師・コンサルタントネットワークから「最適講師の提案」、顧客の課題解決につながる研修やコンサルティングを「ゼロから設計」して提供している。東洋経済オンライン、ハーバービジネスオンラインなどでも執筆。
著書には、「研修・セミナー講師が企業・研修会社から”選ばれる力”」(同文館出版)がある。
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。