前回の記事では、地域の住民や企業の出資によって作られた金融機関として信用組合を紹介しました。このような形態の金融機関のことを協同組織金融機関と言います。
信用組合の他にも、信用金庫、労働金庫、JAバンク(農業協同組合)、JFマリンバンク(漁業協同組合)も協同組織金融機関と位置付けられています。
銀行から融資を受けることが難しい中小企業のために作られた協同組織金融機関ですが、その思想は現代のクラウドファンディングにも通じるものがあります。
中小企業向け融資の課題
そもそも、なぜ、銀行とは異なる組織の金融機関が必要だったか。
その理由は単純明快で、融資を一種のビジネスと考えると中小企業向けの小口融資は旨味が少ないのです。これは金利による収入を一般の会社で言う粗利と考えると分かりやすいでしょう。
貸付期間1年間・一括返済とした場合、大企業向けに年利1%で1億円の融資をした際の金利収入は100万円です。これを基準として、中小企業向けの小口融資で同じ金利収入を得るためにはどうすれば良いか、融資額は1社あたり100万円と仮定して整理していきます。
単純に考えると、同じ年利1%に設定しても、中小企業100社に融資をすれば金利収入100万円を得ることができます。しかし、ここに100社のうち何社が完済できるかという点を加味してみましょう。
中小企業庁が作成している「中小企業白書」の2011年版には、新設企業の生存率が掲載されていますが、創業1年後の企業生存率は97%と推計されています。ここから100社中3社は1年で市場から撤退≓返済不能と考えていきます。
すると、金利収入は97社から1万円で97万円に対し、貸し倒れは300万円となり、貸し手側は損をすることになります。よって、中小企業向け融資で金利収入100万円を得ようとすると、年利を上げた上で、より多くの企業に融資をしていかなければいけないのです。
この前提条件だと、返済不能リスクよりも高い年利を設定しないとプラスにならないのですが、仮に年利3.1%と設定すると、14,300社への融資でようやく金利収入が100万円を超えます。融資先の母数は100社のままでとなると、年利は4%台にまで引き上がります。
いくぶん乱暴な計算でしたが、貸し手側に立つと、リスクが低い大企業向けの大口融資に特化した方が効率的ですし、あえて中小企業向けに融資をするのであれば金利を高く設定しないと割に合わないということです。
これが、中小企業は銀行から融資を受けることが難しい、高金利でしか融資を受けることができないという問題につながっていきます。
協同組織金融機関の思想
株式会社という組織形態のもとで運営される銀行は、融資を通じて利益を上げ、それを株主に還元していかなければいけません。通常の企業と同じく、経済合理性を追求していかなければならないのです。
しかし、先ほど説明したように経済合理性を追求していくと、リスクが低い大企業向け融資を優先せざるを得ないですし、中小企業向け融資を行う場合は金利を高く設定していくことになります。
そこで、経済合理性を追求すると中小企業に融資をしにくくなるのであれば、最初から経済合理性なんて目的にしなければ良いと発想を逆転させることで誕生したのが協同組織金融機関です。
協同組織金融機関は、経済合理性とは一線を画した「組合員の経済的地位の向上」を目的に掲げています。そして、この目的のために組合員が相互に助け合っていくのだとして、組合員から集めた資金を融資の原資として活用しているのです。
たとえば、東京都千代田区に本店を置く東浴信用組合は、関東1都3県の公衆浴場・銭湯が組合員であり、1軒でも多くの公衆浴場を存続させることを使命として掲げて融資を行っています。東浴信用組合のディスクロージャー誌を見ると、「浴場件数」を経営指標として捉えているのが分かります。
つまり、「銭湯による銭湯のための融資を行うことを目的とした金融機関を作る」「この目的に賛同する銭湯は組合員になって出資をしてくれ」という思想のもとに設立されたのが東浴信用組合なのです。
連載の第4回で紹介したFAVVOに、島根県江津市の駅前銭湯再生プロジェクトと銘打たれたプロジェクトがあります。廃業してしまった銭湯を復活するための資金を募集した結果、67人から587,000円の資金調達に成功しています。
これも世が世ならば、資金の提供者は組合員、集めた資金は江津市内の銭湯への融資に充てる江津浴場利用者信用組合といった協同組織金融機関設立という形で実現させていたかもしれません。現代型クラウドファンディングと協同組織金融機関は、単に発展の歴史が異なるだけで目指すところと思想は同じということでしょう。
フリーランスのための金融プラットフォーム
政府で検討を進める「働き方改革」の中では、長時間労働の規制に加えて兼業・副業のあり方も議題にあがっています。
そもそも、正社員として雇用されて一つの組織で働き、その給料のみで生計を立てるというライフスタイルが一般的になったのは、つい最近のことです。むしろ戦前までは、現金収入ルートの多様化、副業を奨励していました。副業を行う人達が設立した副業組合をルーツとする協同組織金融機関もあるくらいです。
協同組織金融機関には、明治・大正のフリーランス・ノマドワーカーが自分達の手で作り上げた金融プラットフォームという一面もあります。協同組織金融機関のひとつである信用金庫の融資の3割以上が従業員5人以下の企業向けというのも、設立のルーツ・精神を受け継いだ結果なのでしょう。
フリーランスになった途端に銀行が冷たくなった、そのような事態に陥った際はメインバンクを信用組合や信用金庫といった協同組織金融機関に変更してみると良いかもしれません。融資による支援だけではなく、クラウドファンディングによる資金調達も選択肢に入れたアドバイスをしてくれるのではないでしょうか。
記事制作/ミハルリサーチ 水野春市
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