日本型雇用システムは、昭和の高度経済成長時代に、各企業独自の工業技術を一つの世代から次の世代に伝達するために生み出された雇用システムです。このことは、第4回の記事の中でも触れました。ところが、バルブ経済が弾けたあたりから、絶対的な雇用システムとは言いがたくなってきました。今回は、日本型雇用システムのメリット、デメリットに焦点をあてながら、日本型雇用システムの将来性について考えてみたいと思います。

日本型雇用システムが直面している社会問題

近年、日本の存在感が弱くなっており、その一つの要因が日本型の雇用システムにあると言われていますが、実際のところはどうなのでしょうか。
歴史的にみると、日本にとって、1950年代から80年代は高度経済成長・安定時代でした。その当時、海外では、「日本は戦後短期間で復興した奇跡の国」と呼ばれており、経済的な成功のカギの一つが、日本型の雇用システムだともてはやされていました。

しかし、高度経済成長がやがてバブルとなり、それがはじけたころから日本は物が売れないデフレの時代に入ってしまいました。同時に、出生率が下がり高齢者の数が増える少子高齢化社会と呼ばれ、人手不足の時代を迎えています。人口が減っているため、今必要とされているIT産業や高齢者ケアの市場で人手不足という問題に直面しているのです。このような社会背景の中であえいでいるのが、日本型の雇用システムです。

発展途上国の安い労働力により危機を迎えた日本経済

1990年代に入ると、中国を初め東南アジアの発展途上国が力を伸ばし、安い労働力を供給するようになったため、それまでの日本型の雇用システムでは採算が合わなくなりました。その対策として企業は、必要に応じて解雇が簡単にできる雇用システムを採用するようになりました。それが派遣や契約社員など正社員以外の労働力が増えた理由です。

従来の日本型の雇用システムと相反する派遣や契約による雇用システムは、一見合理的で、企業側にメリットをもたらすように見えますが、長期的には経験や知識が蓄積せず、労働基準法に違反しやすい状況を作り出してしまいます。では、どのような雇用システムが今後の日本の社会に必要とされているのでしょうか。

日本型雇用システムのメリット

終身雇用と充実した社内教育

一度採用されると、会社が倒産しない限り不当に解雇されることはありません。会社側も正規労働者であるならば、辞めないという前提があるので時間をかけて社内教育を施し、会社内に知的財産が蓄積されやすくなります。

新卒者の積極的雇用

新卒者などの若者の雇用率が高いので、世界的に見ると、若者の労働参加率が他国に比べて高くなります。添付のグラフは、若者の失業者率を国別に比較したもので、これを見ると、日本の若者の失業率は世界で一番低くなっています。

<各国の若年層の失業率、2012>

出典元:https://www.bls.gov/fls/flscomparelf.htm
https://www.bls.gov/fls/flscomparelf/lfchart3.png

社会的保障制度

福利厚生や年金などの経費も企業側が賄うため、政府への負担が少なくなります。

日本型の雇用システムのデメリット

次に日本型の雇用システムにはどのようなデメリットがあるのか見てみましょう。

個人の自由が制約される

一度一つの企業に入ってしまうと、人事異動など、本人の意思がほとんど反映されないという問題があります。日本型の雇用システムは「メンバーシップ型」の雇用システムで、各従業員は企業の財産になってしまいます。

トップダウン的な業務の執行

日本型の雇用システムでは、大抵の場合、トップダウンで物事が進むので、部下の仕事へのやる気が落ちやすく、新しいアイデアや意見があっても発言しないようになってしまいます。

年功序列

年功序列では、働いた年数で給料が決められるため、勤続年数が少ないと、良い成果を出しても出世や給料に反映されません。特に若い労働者や出産や育児で一時的に職を離れる女性にとって不利な制度です。

日本型の雇用システムの変容とこれから

これまで日本型の雇用システムのメリットとデメリットを見てきましたが、最近は労働市場の形態が目まぐるしく変わってきています。
30年くらい前までは、派遣や契約社員といった雇用システムはまれでしたが、今では、正社員以外の労働市場があり、転職を好む人も多くなってきています。このように変化の多い中、メンバーシップ型の雇用システムとは異なる欧米社会の「ジョブ型」の雇用システムを賛美する声も聞かています。

このジョブ型では、メリットもデメリットもメンバーシップ型の反対になるのが特徴です。
現在は日本を飛び越えたグローバルという大きな枠で、新しいアイデアやシステムが驚くほどのスピードで生まれ採用されています。そのため、安定的なメンバーシップ型では、その変化に追い付くのが容易ではありません。
新しいものを貪欲に取り入れていく姿勢が大切で、そのためには、欧米の「ジョブ型」のメリットをうまく取り入れることが必要になるでしょう。

方策として考えられることは、一企業の労働力を企業内労働市場とみなし、社内の人事異動をもっと個人の希望に沿ったものにすることです。そうすれば、モチベーションを活性化できるのではないでしょうか。そして、中堅管理者にも人材育成の場をもっと持たせるようにし、常に新しいものを学べる場を提供することです。

まとめ

日本型の雇用システムには良い点もありますが、時代に合わないデメリットも多く見られます。その良さを維持できるやり方を考えながら、日本型の雇用システムのデメリットを分析し、欧米のジョブ型の雇用システムから良い点を学び改善することが必要だと言えるでしょう。世界の実情を更によく理解し、古いものに縛られず、臨機応変に対応できる雇用システムの構築が今求められています。

記事制作/setsukotruong

ノマドジャーナル編集部
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