歴史書を見ると、人類は最初狩猟生活をしていたと考えられていますが、その後一か所に住み着いて農耕生活を始めました。そのため、農業はどの国でもまず最初に形成される産業になっています。

人間が生きていくための穀物や肉類を生産する大事な産業ですが、それにも関わらず、農業の発展には、これまでいくつかの危機がありました。日本の農業も例外ではなく、様々な問題に直面し、そのたびに、農業に従事する人々の働き方にも大きな影響を与えてきました。

日本における農業の位置

四方を海に囲まれた日本は、漁業が盛んですが、江戸時代には農業は武士の次に大切な職業であると考えられていました。それは「士農工商」の制度を見るとよくわかります。農家は田畑を借りて稲作をする小作で、収穫した米やその他の農作物を地主や武士に年貢として納めなければいけませんでした。

明治時代になり産業革命が始まると、各地に工場が建てられ、より多くの人手が必要になったため、農家の若い世代が工場の労働力として雇われていきました。
伝統的に日本の農家では長男が後を継ぐので、産業革命前では、次男以下の男子は仕事がなくなることもあり、その意味では、産業革命による工業化はこうした男性に働き口を創出したことになります。

農業の機械化と民主化

明治時代の産業革命は、農業にも革命をもたらしました。ただ、機械化はまず製造業が優先され、農業設備が実際に機械化したのは、大正15年頃でした。最初に作られたのが「農業発動機(農発)」と呼ばれるエンジンです。このエンジンを軽負荷の脱穀機に取付けて、米の殻を取る作業を機械化したのが最初でした。

また北海道の開拓では、日本の他の地域よりも早い時期の大正4年ごろから欧米の設備を取り入れ農作業の機械化を行っていました。北海道の開拓で最初に導入されたのがホルト社のトラクターだと言われています。
機械化と並んで、農家の生活を向上したのが第2次世界大戦後にGHQの司令によって行われた農地改革です。それまでは日本の農業人口の88%が小作で、地主から土地を借り、その借り賃を支払っていましたが、農地改革により小作から解放され、独立した農民になることができたのです。

兼業農家の増加

前述のように農業の機械化は大正時代に始まりましたが、本格的な導入は、第2次世界大戦が終わってからで、正確に言えば、高度経済成長時代に入ってからでした。導入され、普及した主なものは、動力耕耘機、農業用トラクター、稲の刈り取りと束造りを行うバインダー、田植機などです。こうした機械化にともない、稲作の労働時間は3分の1にまで減少したのです。

こうして機械化により時間が余るようになったため、副業を始める農家が増えました。一般的に言う「兼業農家」です。特に、寒さの厳しい東北地方では、冬場、農業の仕事ができないことも手伝って、夫婦とも別の仕事を探し従事しました。例えば、夫が製材の雑役夫の仕事をしていた時に、妻は電気製品の組み立て工場で働いたという記録が残っています。また、冬の間、東京などの都市に集団で出稼ぎに出る農業従事者も多くなりました。

生産性が向上したのに、需要が減ったコメ

農村地帯を旅していると、休耕になっている田んぼの多さに驚かされると思います。日本の農家は、戦後の農業設備の普及により労働時間が短縮され生産性をあげてきたのに、肝心のコメの需要が伸びないという皮肉な問題に直面しているのです。

需要が伸びなくなったのは、コメを主食とした伝統的な日本の食生活からパンを主食とした欧米的な食事形態に変わったことが原因だと考えられています。つまり、戦後の混乱期に食料が不足した際に、支援物資としてアメリカからパンの原料である小麦粉が大量に入ってくるようになり、1960年代から始まった学校給食でも主食にパンを使ったことが背景にあるのです。
更には、コメを材料とする日本酒もウィスキーやワインにとってかわられる傾向があり、これも需要減のひとつの要因だと考えられています。

このような農業を取り巻く厳しい社会状況を背景に追い打ちをかけるように、農業を離れる若者が増え、農村は「三ちゃん農業(「じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃん」により農業が営まれること)」と呼ばれるように60歳以上の年齢層が77.5%を占める過疎地になってしまいました。

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の影響

厳しい状況に拍車をかけると考えられているのが、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)です。TPPは日本、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ベトナムなどの環太平洋諸国が結ぼうとしている経済連携協定です。(2015年10月に大筋合意。米国も2017年1月まで加盟の意向を示していましたが、トランプ大統領の意向により現在は交渉から離脱しています。2017年7月現在)この協定の目的は貿易を自由化することにより、高い国際競争力を求めることですが、日本の農家にとっては、ただでさえコメの需要が減り、若い働き手がいないという厳しい状況にあるのに、それが更に助長されることになってしまうと懸念されています。

農業における働き方の新しい動き

これに対し、政府は2016年に農業予算を増やしこれまでのインセンティブ、つまり、農水省職員の人件費、年金の給付、稲作からの転作への助成金、農地や港の整備などの公共事業費などを継続して提供するだけでなく、「農業女子プロジェクト」や「輸出総合サポートプロジェクト」などの新しいプロジェクトを立ち上げることで、農業の活性化を図ろうとしています。そしてこれに応えるかのように、今、農業が若い世代で人気を呼んでいます。会社という組織に縛られることなく、自分なりの働き方ができることが人気の理由になっているようです。

まとめ

農業は、人間が命を繋いでいくために欠かすことのできない食物を生産する産業です。どの産業よりも長い歴史を持ち、今日まで様々な危機に直面しながらも、危機を乗り越えて発展してきました。
近年では、農業離れにより農村の過疎化が進みましたが、最近になり、新しい働き方を求める若い世代の間で人気を集めています。今後の展開に期待したいと思います。

記事制作/setsukotruong

ノマドジャーナル編集部
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