労働環境を改善しようと働き方改革を進めている日本ですが、特に注目されているのは、労働者の4割弱を占める非正規労働者に対する政策です。
日本は新卒採用が主流なため、不況のあおりを受けて就職できずとりあえず非正規として働き始めたものの、その後正規の雇用先が見つからず非正規労働者として働き続ける人も少なくありません。
そのなかでも、派遣会社を仲介とした間接雇用である派遣労働に関しては多くの問題点が指摘されています。
日本の間接雇用の問題点を踏まえ、間接雇用の制度を整備しているフランスを参考に、間接雇用のあり方について考えていきましょう。
日本の「間接雇用」の問題
日本は現在、役員を除く雇用者のうち約4割弱の労働者が、非正規雇用として働いています。非正規雇用の労働者は正規雇用よりも悪い待遇であることが一般的で、収入が低く昇給が見込めない、有給休暇やボーナスの面で不利などデメリットがあります。また、正社員より解雇されやすい立場にあるので、生活は常に不安定です。
そんな非正規雇用にはアルバイトや契約社員などいくつかの雇用形態がありますが、そのうちのひとつが間接雇用です。
平成28年のデータでは、非正規労働者の6.6%、133万人ほどが派遣社員として働いています。(厚生労働省の統計より)
間接雇用はその名の通り、企業が直接労働者を採用するのではなく、派遣会社を通じて採用することを指します。採用活動を、人材派遣会社が行うのです。
企業にとって間接雇用を行うメリットは、労働者のために丁寧な社内教育やキャリアアップをする必要がなく、社会保障費や退職金にかかる人材費をカットできることや、正社員に比べて解雇しやすい点が挙げられます。単純に、コストカットになるのです。
労働者としてのメリットは、勤務地や時間、さらに仕事内容を選ぶことができ、高度なことは要求されないため未経験者でも働きやすいといったところでしょう。
ですがその一方で、正社員と同じ仕事を任せておきながら「非正規だから」と不利な待遇を受けたり、提示された条件とはちがった労働時間や仕事内容を強制されるトラブルなどが起こっています。
さらに問題なのは、派遣社員は圧倒的に立場が弱く、搾取されやすいことです。トラブルを起こせばすぐに仕事を失う可能性が高いですし、派遣会社から仕事を紹介してもらえなくなります。
また、派遣会社にとって派遣先の企業は顧客なので、派遣した先で問題を起こされると困るのです。
本来は働き方のひとつである間接雇用ですが、日本の間接雇用を取り巻く環境は、労働者にとって決して「いい」とは言えないでしょう。
フランスの間接雇用、ポルタージュ・サラリアル制度
フランスでも派遣などを含めた間接雇用の制度は合法ですが、それには厳しい制限が設けられています。その制限は、労働者が搾取されないために設けられたものです。
その背景には、日本が現在導入を目指している同一労働同一賃金という考えがあります。この同一労働同一賃金という基本原則がある限り、派遣労働者だから待遇が悪くていい、とはならないのです。
また、派遣契約も厳密に取り交わされているので、「都合のいいウソ」は許されません。
もうひとつ、ポルタージュ・サラリアルという制度もあります。個人事業主はポルタージュ会社(派遣会社)と雇用契約を結び、ポルタージュ会社から給料をもらいます。そしてポルタージュ会社は顧客企業と契約を交わし、顧客企業はポルタージュ会社に謝礼を払います。
日本でいう派遣労働とちがうのは、あくまで労働者でが自分で顧客企業を見つけること、基本的には単発のプロジェクトであること、報酬は労働者と顧客企業で取り決めることです。
つまりこの制度では、働き方は個人事業主でありながら、ポルタージュ会社の存在により、雇用労働者としての身分を確保できるのです。
2015年、3~4万人ほどがこの制度を利用しているとされ、多くは単発の高度な仕事、たとえばコンサルタントや会計監査などに従事しています。
間接雇用に必要な労働者の保護
「派遣切り」という言葉があるように、日本では、間接雇用で働いている人は総じて立場が弱い傾向にあります。ですがそれは、間接雇用制度自体が悪いからではありません。そこに、「労働者の保護」という視点が欠けているのです。
間接雇用をうまくつかえば、企業は人材確保がしやすいですし、労働者も時間や仕事内容を踏まえて就職することができます。
ですがそこには、フランスのように同一労働同一賃金という原則と、労働者保護の理念が必要ではないでしょうか。
働き方改革が進むなか、「どうやって働くか」の選択肢は多いほうがいいでしょう。しかし働き方が多様化すればするほど、それぞれの制度をしっかりと整備し、企業にも労働者にもしっかりとメリットがあるように運営されるべきです。
そのひとつとして、「派遣切り」されやすく不利な待遇であることが大きい間接雇用を、もう一度見直すことが大切でしょう。
取材・記事制作/雨宮 紫苑