知られざるビジネスノマドの働き方。ファッション流通コンサルタント、インディペンデント・コントラクター(IC)協会の理事長も務める、ビジネスノマド歴12年の斉藤氏による独立キャリアについてのコラムです。

(第4回目の記事はこちら

前回はフリーエージェント(個人事業主)として独立するに当たって用意すべき資金と理想的なスタートアップについてのお話をさせていただきました。今回は、そもそも自分は独立できる専門性を持っているのか?独立したらどんなことを生業にどんなクライアントと仕事をして行くのか?をイメージするために自身のキャリアの棚卸と将来のクライアント先を想定するためのお話しをします。

自分のキャリアのSWOT分析。「求められる専門性」を持っているかどうかを棚卸してみよう

独立して自分が培った専門性を活かし複数の企業と契約して仕事をする。その道のプロとして本当にメシを食っていけるのか?それを考えるためにはこれまで自分がどんなキャリアを積んできたのかを振り返り、棚卸をしてみるところから始めましょう。

これは独立するか、転職するかにかかわらず、同じ会社にいても辞令を待つ受け身な姿勢ではなく、自分から前向きなキャリア形成をしたいと考える人ならやってみる価値はあることだと思います。 いわゆる自分のキャリアのSWOT分析です。SWOTの強み(S)、弱み(W)、機会(O)、脅威(T)のうち、自分が発揮できる強み(S)とそのビジネスチャンス(O)を書き出してみましょう。

自分がこれまで培った強みとなるキャリアは何か?=専門性

ここでは、BtoC(個人向けビジネス)ではなく、より報酬の高い BtoB(法人向けビジネス)を想定します。

自分が誰よりも得意な仕事、社内で認められる華やかな営業実績などを上げた成功体験も「強み」となりますが、むしろ日常業務ではないプロジェクトチームなどに携わり、何かひとつのことをいちから始め社内外の協力を得ながらメンバーと共にやり遂げたこと、それを通じて独自のスキルを体系化させた体験の中に本当の「強み」があるものです。

例えば、次のような経験です。

  • 新会社設立、新規事業や新部署の立ち上げにあたり、最初から関わり、ある程度の形を作って引き継いだ経験
  • 業務効率を上げるための社内制度づくりやマニュアル作成のプロジェクトに中核メンバーとして関わった経験
  • 会社が次の成長ステージにステップアップに上がるための業務プロセス変更やシステム導入にかかわった経験
  • 社内にスペシャリスト(専門家)がおらず多くの企業がアウトソーシングに頼っている業務の専門知識やスキルを培った経験

もしこれをお読みになっている読者の方が、社内で「このプロジェクトメンバーには是非アイツを入れたい」と経営者や上層部から何度かメンバーに指名された経験をお持ちの方はどこへ行っても通用する、独立してもメシが食っていける素養があると思います。

そういった経験がない方でも将来独立やキャリアアップを考えている方は是非そういったプロジェクトに積極的に参加されるとよいかと思います。

筆者のインディペンデントコントラクター(独立業務請負人)の仲間には、会社勤務時代に培ったそういった経験を活かし新規事業開発、事業立ち上げ支援、人事制度構築、人材採用代行、システム導入プロジェクトマネジメント、企業マーケティング支援、広報支援、研修講師、業務改革などの領域で独立した方々が多いです。

その専門性を求めている同じような境遇の企業はあるか?=市場性

次にどんな企業にその専門性に対する需要があるか?そして実際に契約をしてもらえるか?の市場性を考えます。この点を考える時、実は自分がその強みとなるキャリアを経験した企業規模や成長ステージと、潜在クライアントの規模には相関関係があるということを知っておいて頂きたいと思います。

規模の違う会社に出向や転職を経験したことのある方は気づいていると思いますが、大企業と中堅企業と中小企業と零細企業では、規模が違えば整っているインフラ、ひとりあたりの仕事の範囲や役割分担、起こる課題、社員のスキルや抱える悩み、人間関係の論理、現場で語られている言葉すら違う場合も多いのです。

大企業出身者が中小規模の会社に行って杓子定規に大企業の論理を展開しても話が通じませんし、その逆の場合も真面に相手にすらしてくれないこともあるでしょう。

つまり売り物にしようとする専門性を本当に発揮できる潜在クライアント像とは、自分がそのキャリアを培った勤務先と同じ境遇またはそのステージを目指している規模の企業である場合が多いのです。

筆者は大企業8年、中小企業2年、零細企業1年半の勤務経験がありますが、5年間務めた最後の勤務先はアパレル業界で中小規模(年商70億円)から中堅規模(年商100億円超)に向かう成長中のアパレルチェーンでした。筆者が独立してからこれまでにご契約していただいたクライアント企業さんは20社を超えますが、その8割はまさにそのステージ(ご契約時年商30億円~70億円)の企業さんあるいは上場企業だったとしても同規模の事業です。

同様にインディペンデントコントラクター(独立業務請負人)協会の仲間で東証一部上場企業ご出身の人事労務コンサルタントであるT氏のクライアントのほとんどは大手企業、また同じくベンチャー企業を数社経験して独立されたIT導入支援を行うN氏のクライアントもベンチャー企業がメインです。

これらの事例が示すのは自分の専門性が最も発揮できるクライアント企業とは、正しく自分の専門性が培われた企業規模であり、そのステージで起こる固有の現象や課題や交わされる言語さえも違和感なく受け入れられるかどうかも契約継続の重要なキーファクターだということなのです。

独立後に、実際に重宝されるスキル・ノウハウは自己認知と往々にして異なる

以下 筆者が独立後に実際に生業とした専門性の事例をご紹介しながら、読者のみなさんの棚卸のヒントにしていただければ幸いです。

筆者の独立当初は5年間の成長アパレルチェーンでの営業担当経営幹部経験を活かして、新興アパレルチェーンの経営者さんを支援して事業の拡大をお手伝いするという漠然としたものでした。

ある程度のことは何でも対応できると少々慢心していた筆者でしたが、多くの企業の方と対話をする中で最も重宝されているキャリアは前職での在庫コントロール部の立ち上げで培ったノウハウであることに気づきました。

アパレルチェーンは多店舗化の成長段階において売れ筋商品欠品の一方で在庫過多が同時に起こり会社のキャッシュフローを圧迫する商品管理の壁にぶつかります。筆者には成長期にあるアパレルチェーンでそれを乗り越えるための在庫コントロール部の業務構築と人材育成を行った3年間の経験があります。そのノウハウが同じ壁にぶつかる企業さんたちが次のステージに上がるためのソリューションのひとつであることに気付かされ、それをテーマにしたブログやセミナーによって引き合いが増え現在に至っています(集客のための営業マーケティングに関してはあらためてお話します)。

自分自身のSWOT分析を行う

例えば、以下が筆者のSWOTです。(強みとビジネスチャンスのみ)

■自分のキャリアの強み

1.【成長アパレルチェーンの在庫コントロールのソリューションノウハウを持っている】
商社から小売チェーンまで人一倍在庫に苦労し、前職では在庫コントロール部の立ち上げにかかわり、業務構築、人材育成を行って独自ノウハウを体系化した。

2.【アパレル流通業界の中でも海外との接点となる業務の経験が豊富】
商社でのアパレル商品海外調達、アメリカ在住時ファッション商品の輸出経験あり。
そのため業界英語が理解でき、海外のファッション流通事情にも詳しい。

 

3.【ファッション流通の川上(生産)から川下(小売)までの実務を垂直的に一通り経験した】
アパレル商品海外調達、ヨーロッパブランドの日本法人設立(生産物流担当)、アパレルチェーンでの店舗運営から経営陣まで業界の中ではマルチでハイブリッドな実務経験を持つ。

 

■業界の中でのビジネスチャンス

1.アパレル業界は斜陽産業と言われても、時代とともに新興成長企業が頭角を現し、
既存勢力に対して世代交代を迫る。人海戦術で成長して来た新興チェーンが
次のステージに進む必須ノウハウのひとつに在庫コントロールがある。

 

2.アパレル業界の中で、小売業の独自商品調達=いわゆるSPA(製造小売業)化が進む。

3.外資企業が多数日本に上陸し、市場環境と消費を変える。経営者にとっては外資企業の
戦略、戦術を知り、独自の立ち位置を確立する必要に迫られている。

これらは独立する前に整理が出来ていたわけではなく、いろいろな諸先輩方や潜在クライアントさんたちに気づかされたことでした。 しかしながら、これから独立、転職、社内でのキャリアアップを考えている方々には、先に独立されている先輩方がどんな仕事を生業にしているかを参考にしながら、できるところまで棚卸をすることで準備をしておいていただきたいと思います。

インディペンデントコントラクター(独立業務請負人)協会では独立準備セミナーなどで、独立のためのキャリアの棚卸のお手伝いもしています。

さて、次回は独立して3年以上続く人とそうでない人がいる中で、フリーエージェントとして3年、6年、10年超と長く働き続けるために最初の3年間にどんなことをすべきか?についてお話します。

専門家:斉藤 孝浩(インディペンデント・コントラクター:独立業務請負人) 
グローバルなアパレル商品調達からローカルな店舗運営まで、ファッション業界で豊富な実務経験を持つファッション流通コンサルタント。大手商社、輸入卸、アパレル専門店などに勤務時代、在庫過多に苦労した実体験をバネにファッション専門店の在庫最適化のための在庫コントロールの独自ノウハウを体系化。成長段階にある新興企業からの業務構築や人材育成のコンサルなど、これまでに20社以上の企業を支援。
著書に「人気店はバーゲンセールに頼らない(中央公論新社)」や「ユニクロ対ZARA(日本経済新聞出版社)」がある。本業の傍ら、独立業務請負人の働き方の普及を目指すNPOインディペンデント・コントラクター(IC)協会の第3代理事長も務める。有限会社ディマンドワークス代表

ノマドジャーナル編集部
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