「パラレルキャリア」、最近新しい働き方として注目を集めています。

今回は、「パラレルキャリアを始めよう」の著者であり、NECGEを経て雇用に関して研究するゼミを主宰されている法政大学大学大学院の石山 恒貴教授と、かつてはダイヤモンド編集長として幾多の経営者インタビューに携わり、同社取締役退任後、現在は複数社の社外取締役を兼任し帝京大学経済学部教授に転じられた辻廣 雅文教授によるインタビューです。

「キャリア・アダプタビリティ」とは何か、パラレルキャリアの良い点が自分の会社の価値観を相対化にあること。そしてパラレルキャリアは入社してすぐ実践するべきか、まずは本業をしっかりやるのか?についてお話しいただきました。

ドラッカーが提唱したパラレルキャリアは、まだまだ限られた人たちのもの

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辻廣 雅文氏

辻廣 雅文さん(以下、辻廣):

最近は、政府や企業が解決できない経済社会問題の対処にNPOの力を借りる、あるいは問題によってはNPOの方が適切な解決を図れるという指摘が、日本でも増えていますね。

石山 恒貴さん(以下、石山):

ヨーロッパやアメリカでは、NPOが第三の主体として地方自治などのなかで結構大きな実績を占めています。日本はそこが若干弱かったわけですけど、ここにきていよいよ社会も成熟してきてそのフェーズに入ってきたかなという気がします。

辻廣:

パラレルキャリアを、もう少し具体的に教えていただけますか。

石山:

パラレルキャリアは元々、ドラッカーが提唱した概念です。

成熟した知識社会になると、知識労働者が増える。知識労働者は、働く期間が長い。一方で、会社の寿命は30年と言われる。要は、会社の寿命より知識労働者の寿命の方が長くなる社会になってきた。では、知識労働者はどううまく生きていくか。そこで、ドラッカーは、パラレルキャリアで本業とは別に第二の場をもった方がいいですよと言う。例えば、ガールズスカウトとかPTAの会長とか図書館の司書のパートとか、そういう具体例まで挙げている。社会的なものも含めて、2つ3つ人生の役割をこなしていくという考え方がパラレルキャリアと、広く捉えています。

辻廣:

なるほど、人の人生が充実すれば、同時に社会の厚みが増すということでしょうか。この本の手応えはいかがですか。

石山:

パラレルキャリアは、まだまだ限られたものではあります。やっぱりみんな今忙しいし、一歩が踏み出しにくい。増えてはきているけれど、一般に普及し始めているわけではないですね。

キャリア・アダプタビリティという考え方

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石山 恒貴氏

石山:

多くのキャリア観は、自分に合った職業を見つけるというところにフォーカスしすぎている。自分を分析して、職業の特性を研究して的確にマッチングするのがキャリアだと考えている。確かにマッチングはキャリアの一部だけど、全てではない

辻廣:

ある米国の学者は、イノベーションの進展で現在には存在していない職業が生まれ、今の小、中学生の20%以上が、その未来の職業につくだろうと言っている。そうであれば、マッチングの練習は無駄ですね。

石山:

現在の職業はなくなるかもしれないし、新しい職業が生まれる可能性は高い。

自分をいくら分析してみたところで、それは本当に自分なのかという疑問は付いて回る。そもそも、人間の興味は年とともに変わる。今、キャリア理論で問い直されているのは、「社会構成主義」とか「社会構築主義」と言われるもので、自分というものをいかに再構築できるかということが大事だという主張です。いろんな人と話していく中で自分というものをいかに再定義して、不確実で予測不可能な世の中にいかに適応していくか。これはキャリア・アダプタビリティという考え方です。

ここで想定している「キャリア」というのは「キャリアアップ」というように上を目指すものではないし、マッチングでもなく、人生におけるさまざまな役割が全てキャリアなんです。NPOをやることもキャリアだし、親としての役目を果たすこともキャリアだし、家事や育児に専念することもキャリアだし、そういう人生の役割というのをどのように果たしていくのかを考える。人生の役割って、親となっても何かを学ぶこともあるし、子供の役割しながら学校にいくのだし、そもそもパラレルです。人生の役割は常にパラレルだと、そういうことも考えています

辻廣:

既にもっているスキルや能力をさまざまにマッチングすることで自分の可能性を広げることも重要だけれども、状況に応じてアダプトするっていう考え方を持っていないと、変化に対応できないということはありますね

連続スペシャリスト。変化にアダプトするキャリア

石山:

『ワークシフト』の中でリンダ・グラットンは、「連続スペシャリスト」ということを言っている。専門性は大事だが、専門性に固執するとダメだから常に専門性を脱皮させ続けなきゃいけないというわけです。そうなると、変化にアダプトするキャリアという考え方が出てくると思います。

辻廣:

確かにこういう不透明で変化の激しい時代には、自分個人の課題としてアダプトキャリアを肝に銘じる必要があると思います。その一方で、会社から見れば、社員に変化にアダプトする多様な働き方を認めつつ、しかし、優秀な専門家集団を育てなければ国際競争から振り落とされてしまうという両面の問題があるということにならないですか。

パラレルキャリアには入社してすぐ目覚めたほうが良いのか?

辻廣:

では、更に具体的なことをお伺いしますが、パラレルキャリアには入社してすぐ目覚めたほうが良いものですか。

石山:

そこは2つ考えがあります。最初は本業をしっかりやって、ある程度基礎を身につけてから始めた方がいい、という考え方がひとつ。やはり、両方中途半端になることは心配なんですね。だけれど、それなら学生がパラレルキャリアやっちゃいけないんですか、新入社員はやっちゃいけないんですか、という反発はある。実際、新入社員の時代から始めて効果が出ている人もいるから、結局はその人次第です。どっちもアリですね。

辻廣:

本人の考え方に加えて、その時の上司がどういう考えを持っているかということにも左右されますよね。

石山:

ただし、何か一つのことに打ち込む時期は必要だと思います。だけど、それは新入社員時代でなくてもいい。集中する時期は、パラレルなど考えなかった。その何かに集中する時期は、個人の選択でいい。

辻廣:

私は、20代は千本ノック受けるようにひたすら仕事をして、しごかれるべきだと思っています。20代で死ぬほど働くかそうでないかで30代以降明らかに差が出る、というのが私の経験的結論です。仕事ができる人間は、一様に早い時期に成功体験を獲得しています。誰かに評価された、褒められた、そうなるともっと努力して評価され、褒められようとする、成功体験の好循環に入れる。それは、自分の仕事の意味を確認しながら成長できるということです。その成功体験をつかむには、必死に仕事をするしかありません。

石山:

その方法論は依然として有効です。ですが、やはり日本型雇用に親和性のある方法論です。今は、入社二年目からパラレルにキャリアを積み重ねて早い段階で転職するというコースで成功する人もいる。やはり、多様化とパラレルキャリアは相互効果で進んでいくのだと思います

(前半の記事はこちら

取材・インタビュア/辻廣 雅文
撮影/加藤 静

【専門家】石山 恒貴(イシヤマ ノブタカ)
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)。一橋大学卒業後、日本電気(NEC)、GE(ゼネラルエレクトリック)、バイオ・ラッドラボラトリ-ズ株式会社執行役員人事総務部長を経て、現職。ASTDグロ-バルネットワ-クジャパン理事。
論文:「組織内専門人材の専門領域コミットメントと越境的能力開発の役割」『イノベ-ションマネジメント』NO8.2011年、「人事権とキャリア権の複合効果-専門領域の構築に対して」『日本労務学会誌』第12巻第2号.2011年
著書:『組織内専門人材のキャリアと学習』生産性労働情報センタ-、2013年、他
【専門家】辻廣 雅文
1981年慶応大学卒業、株式会社ダイヤモンド社入社。週刊ダイヤモンドの経済記者として、家電、通信・コンピュター、流通などの業界を担当。91年副編集長就任、銀行・証券業界、マクロ経済を担当。2001年編集長就任、巻頭コラム、経営者インタビューを担当。04年マーケティング局長、06年取締役、経営企画などを職掌。
ノマドジャーナル編集部
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