ベンチャーキャピタルによる出資は、普通株式で行われるのが従来一般的でしたが、政府の啓蒙も手伝ってここ数年で状況が様変わりし、今では大半のケースで種類株式が用いられるようになっています。

上場会社でも、サイバーダイン(CYBERDYNE)株式会社が議決権種類株式を用いて上場したり、トヨタ自動車株式会社が転換社債に似た種類株式を個人投資家向けに発行して資金調達を行ったり、株式報酬として種類株式を用いる事例が登場したりと種類株式が話題になることが増えてきています。

しかし、残念ながら、種類株式に対する理解度は一般的に低く、ベンチャー経営者に非常に不利な条件になっていたり、または不適正な価格設定になっていることがあり、その結果、会計・税務・法律上、問題が発生しかねない状態になっているような事態が世の中で起こっています。

今回は、今さら聞きづらい種類株式の基本についてご説明します。

種類株式とは?

俗に言う普通株式には、議決権があり、配当を受領する権利があり、会社が清算される時には残った会社財産を受け取ることができる権利があります。また、株式は財産ですから、基本的には自由に譲渡できますし、突然剥奪されたり、誰かに強制的に売りつけたりすることはできません。

種類株式とは、簡単に言うと、「普通株式ではない株式」のことです。

つまり、議決権が制限されていたり、逆に強められていたりというように、株式の議決権、配当受領権、会社清算時の財産受領権やその他の財産的権利の内容に変化が加えられたものをいいます。

普通株式の権利を変化させられる条項を表にまとめました。

一般に種類株式といわれる株式はこの9個の権利に変化が加わっているだけです。そう難しく構える必要はありません。

種類株式と似た効果をもたらす株主間契約

しかし、実務上、株式に条項を付ける以外に、別途株主間契約等の契約を締結し、追加の権利が定められる場合がありますので、ここも押さえておく必要があります。

種類株式として類似の効果をもたらす契約上の主な権利は以下の通りです。

ベンチャー投資においては、これらの条項が投資契約や株主間契約にひととおり盛り込まれるのが一般的です。しかし、ご一読いただくとおわかりのとおり、投資家側の権利が強められるものばかりであり、本当にこのような条項を甘受するかは慎重に判断する必要があります。

時にベンチャー企業では、自分が立ち上げた事業をプロの投資家であるベンチャーキャピタルに認めてもらうとうれしくなり、株価の交渉にばかり目がいって契約条項の細かい交渉をおざなりにしてしまうことがあります。

必ず、投資家から提案を受けたら、これらの条項が具体的にどのようなシチュエーションで問題となるかを事例で説明してくれる専門家に相談して判断するようにしてください。

種類株はいくらなのか?

これまでのコラムで再三ご説明してきたとおり、資金調達をする、ストック・オプションを発行する、株式を譲渡する、他社を買収する、IPOする、なにをするにも重要なのは、株式の価値はいくらかという問題です。

当然、普通株式と同じではなさそうだということがおわかりいただけると思います。

しかしながら、実務では普通株式との価格差にきちんと配慮せずに、普通株式とほとんど同額としてしまったり、反対に普通株式と対して変わらない種類株式を何倍もの値段で発行したりということがよく行われてしまっています。

最近では、過去に行った増資が適正な価格であったかについて専門家の意見書を取得するよう、証券会社が上場前に指導しています。

もちろん増資の時点できちんと第三者評価を取得しておくべきなのですが、アーリーステージのベンチャー企業では、そこまで気が回らずに資金調達のスピードを優先してしまうことがよくあるのです。このようなケースで、種類株式を適当な値段で取引していると、当然専門家も意見書を出せませんので、上場プロセスに支障をきたすことになってしまうのです。

種類株式の価値をちゃんと把握すると得することも

反対に、普通株式と種類株式の価格差をきちんと説明できるように整理しておけば、会社側に大きなメリットが産まれることがあります。

例えば、ベンチャーキャピタルから株式価値総額30億円と評価されて増資を行い、資金調達としては成功といえるようなケースで、その後の上場時の時価総額は30億円からそこまで上がらなそうだという状況を想定します。この状況では、ベンチャー企業が有能な人材を確保するための有力な手段である、ストック・オプションが機能しなくなってしまいます。ストック・オプションは、もらってからの値上がりが実際の儲けになりますから、高すぎる株価がひとたび付いてしまうと、それ以降は魅力的なインセンティブとならなくなってしまうのです。

しかし、冒頭でお伝えしたとおり、近年のベンチャーキャピタルの出資は、大半が種類株式で行われますから、救いがあるかもしれません。種類株式を基準にすると30億円でも、その時の普通株式はもっと安いかもしれないというわけです。

実務上最近用いられる種類株式では、普通株式の値段は種類株式の1/3程度となる場合が多いので、30億円を基準とすると普通株式の価値は10億円程度で済むことになります。ストック・オプションは普通株式を対象とすることがほとんどですので、10億円の価値をもとにすれば、まだまだ魅力のあるインセンティブとして機能することになるわけです。

種類株式の価値評価や具体的に普通株式と種類株式の価値に差を設ける方法については、次回コラムで説明させていただきます。

専門家:山田 昌史 (株式会社プルータス・コンサルティング エグゼクティブ・ダイレクター) 

早稲田大学卒業。起業・留学等を経て、株式会社プルータス・コンサルティングに入社。組織再編・有価証券発行・資本政策関連のアドバイザリー業務、有価証券の設計・評価業務、企業価値評価業務に従事し、多数の案件を手掛ける。具体的プロジェクトには、TOB、株式交換等の組織再編アドバイザリー、資金調達アドバイザリー、非上場会社の資本構成の再構成コンサルティング、インセンティブ・プラン導入コンサルティングなどがある。
著書に「企業価値評価の実務Q&A」(共著、中央経済社)、旬刊商事法務No.2042、2043「新株予約権と信託を組み合わせた新たなインセンティブ・プラン」(共著)、旬刊経理情報No1402「時価発行新株予約権信託の概要と活用可能性」(共著)、No1395「業績連動型新株予約権の設計上の留意点」、No1358「ライツ・オファリングの成功ポイント」、No1311「ライツ・オファリングの活用可能性」、No1285「第三者割当増資等に係る事前相談の準備ポイント」、No.1283「有償ストック・オプション発行上の留意点」(共著)掲載などがある。

ノマドジャーナル編集部
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