成長する企業の多くは上場を目指します。株式市場は高い成長が期待される企業に資金を提供する場であり、上場企業は、株式の発行による資金調達(エクイティ・ファイナンス)が可能です。
上場を目指す企業の資本政策とは、主に上場後の資金調達を視野に入れながら、上場前のエクイティ・ファイナンスを計画することです。資本政策は、資本の増減に影響を与えるストック・オプションも検討課題であり、株主資本に関する計画が資本政策です。
資本政策を立てないまま上場に向かうということは、目をつぶって走り続けるようなもので、多様な落とし穴に落ちてしまうリスクがあります。仮定をいくつか置いてでも、事業計画を作成し、資本政策表に落としこむべきです。ファイナンスの専門家による「そもそも資本政策とは?」後編です。
資本政策の根っこ 事業計画
資本政策は、事業計画と表裏一体だといわれます。IPOゴールという言葉が上場前の期待度と上場後の実際の業績とのギャップに対する揶揄として騒がれていますが、これも資本政策の失敗の一例(IPO時やその後の資金計画と事業計画がマッチしていない)といえます。
資本政策は事業計画(資金計画を含む)と表裏一体ということの意味は、事業を分析し、財務数値に落とし込んだ計画を立てる(売上やコスト、設備投資の見積りを立てる)ことにより、いつどの程度の資金が必要になるかを把握し、また、その時の利益水準から、株式価値総額を把握し、何%の株式を発行しなければならないかを把握することです。簡略化したイメージ図は以下のとおりです。
まず事業の計画がなければ、いつ、いくら必要かがわからず、資金計画が立たないし、資金調達する時の株式価値の見積りも立ちません。そうなると、このような資本政策表が作れません。
しかし、事業計画が必要と言われても、新規性が高く、マーケット自体を作っていくようなベンチャー企業においては、そもそも売上の見積りから困難であり、事業計画が立てられない、とよく言われます。
言いたいこともよくわかりますが、資本政策を立てないまま上場に向かうということは、目をつぶって走り続けるようなもので、冒頭に挙げたような多様な落とし穴に落ちてしまうのだから、やはり仮定をいくつか置いてでも、ありうるひとつの現実的な事業計画を作成し、資本政策表に落としこむべきです。ひとつ作成し、定期的に見直すだけでも、事業の強み弱みが自分で把握できる、有力な経営ツールにもなります。
結局押さえておくべきポイントはなんなのか?
さて、さんざん資本政策を検討することの重要性を説明してきましたが、いざ作成してみると、またはいざ各種施策の実行局面にくると、押さえておかないといけないポイントがいくつか出てきます。
今回のコラム連載では、このポイントをなるべく感覚的に理解できるように、紙幅の許す限り多くの事例やエピソードを交えながら順次解説していきます。
まず、次号からは数回に渡って、資本政策の根本である、そもそもIPOに向かうべきなのかM&AによるEXITを目指すべきなのか、はたまた非上場会社として利益を得続けていくべきなのか、を解説し、その後、これに関連する資金調達手法とベンチャーキャピタルについて説明していきます。
その上で、あらゆる資本政策の具体的施策の局面で問題となる、株式の価値ってどうやって決まるのか(正しい理論に基づいたバリュエーションでなければ、対外的に説明不能となり、上場審査や税務で問題となる)、資本政策と一体であり、株式価値の基礎となるのは、やはり事業計画であるが、どのように作成するべきなのかについて解説します。
さらに、IPOを目指す場合及びIPO後においても、人をコミットさせる効果的な方法としてのストック・オプションと、資金調達手法としていまや主流となりつつある種類株式について、最新の制度や事例とともに紹介していきます。
特に、ストック・オプションや種類株式は、言葉としても実務としても常識の範囲となっていると思われていますが、実際に発行しようとすると、会計・税務・法律等諸規則の複雑さに辟易し、面倒になって適当な内容で発行してしまうことも多く、本当にもったいない、どころかさらには取り返しのつかない事態にまで発展する事例も日々目にします。
諸規則が複雑であるのみならず、年々新たなスキームが生まれてくるから、フォローしきれないことも多いですが、反対にいうと、年々新たな便利なスキームが登場しており、把握しておいてうまく活用すれば、資本に関する経営課題が大きく解決されることもあります。
是非この連載コラムを通じて多数の失敗例と成功例を紹介し、読者の皆様の経営施策に少しでも貢献できれば幸いです。
早稲田大学卒業。起業・留学等を経て、株式会社プルータス・コンサルティングに入社。組織再編・有価証券発行・資本政策関連のアドバイザリー業務、有価証券の設計・評価業務、企業価値評価業務に従事し、多数の案件を手掛ける。具体的プロジェクトには、TOB、株式交換等の組織再編アドバイザリー、資金調達アドバイザリー、非上場会社の資本構成の再構成コンサルティング、インセンティブ・プラン導入コンサルティングなどがある。
著書に「企業価値評価の実務Q&A」(共著、中央経済社)、旬刊商事法務No.2042、2043「新株予約権と信託を組み合わせた新たなインセンティブ・プラン」(共著)、旬刊経理情報No1402「時価発行新株予約権信託の概要と活用可能性」(共著)、No1395「業績連動型新株予約権の設計上の留意点」、No1358「ライツ・オファリングの成功ポイント」、No1311「ライツ・オファリングの活用可能性」、No1285「第三者割当増資等に係る事前相談の準備ポイント」、No.1283「有償ストック・オプション発行上の留意点」(共著)掲載などがある。
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