本連載は、企業会計の初心者の方や企業会計を苦手に感じられている方に読んで頂きたいと思います。1回につき1テーマ、専門用語などの知識は不要の企業会計連載です。

仕事の合間のコーヒーブレイクに読んで頂ければと思います。

キャッシュが枯渇することの怖さ、黒字倒産はどうしておきるか

今回は儲かっているのに倒産に追い込まれてしまう企業について述べます。黒字倒産という言葉を聞かれたことがありますでしょうか。黒字とは利益がある状態のことです。言い換えれば、企業会計においては、儲かっているということです。

ところが、利益があるのに倒産してしまうようなことがあるのです。どうしてそのような事態になるのかを紐解いてみたいと思います。

結論を先に述べると「利益はあるがキャッシュが手許にない」ので資金繰りに行き詰まり、廃業せざるを得ない事態となってしまうのです。

黒字 ・・・利益がある、儲かっている

赤字 ・・・損失が出ている、儲かっていない

利益が出ていると言うことは、税金を支払っていて、銀行からも良い評価を得ることになります。利益を出すことで銀行の評価を獲得するのは、企業にとって当然ながら非常に重要です。筆者はかつて、自分が所有している会社が過去に1度だけ赤字になっていることを理由とされ、銀行から融資を断られた経験があるぐらいです

企業会計では、利益は下記の式で求めます。

利益 = 売上高 - 費用

売上高 > 費用 ・・・利益がある

売上高 < 費用 ・・・損失が出ている

ポイントになるのは、「利益がある」と「キャッシュがある」は全く異なることです。

「利益があるのにキャッシュが減少してしまう」ことは珍しいことではない

例をあげて説明をしたいと思います。いつも行きつけている居酒屋で飲み過ぎてしまって、居酒屋のオーナーに頼んで、支払いを今度来店したときにと承諾して貰ったとします。いわゆる「ツケ払い」です。

居酒屋のオーナーの立場からすると代金を受け取っていないのです。

しかしながら、企業会計のルールにおいては、売り上げが発生し、利益もあることになるのです。この場合において、代金を受け取るまでは、手許のキャッシュは、増えないことになります。食材や飲料類の仕入れ代金の支払いをした後であったとすれば、手許のキャッシュは減ったままとなるのです。(話しを単純化するために他に来店客がないと想定)

このようなキャッシュが減少する状態が継続すると、やがては仕入れ先などに対しての支払いができなくなり、経営が行き詰まるのです。

企業間では、日常的に行われている「後払い」

一定期間が経過してから、言い換えれば後日に、代金を受け取ることを約束して、製品やサービスを提供することはBtoB(企業間の取り引き)では、日常的に行われています。

例えば、月末締めの翌月末払いです。このように一定期間が経過してから清算することを製品やサービスを売る側からとすると「掛け売り」、購入する側からとすると「掛け買い」と言います。製品やサービスを提供して代金を授受するまでの期間のことを「支払いサイト」と言います。

掛け売り ・・・一定期間が経過してから代金を受け取る

掛け買い ・・・一定期間が経過してから代金を支払う

取引先の企業から1ヶ月後や2ヶ月後にキャッシュを受け取れるのであればまだしも、支払い時期になって、もう少し待って欲しいと取引先が言うかも知れません。また、大企業と中小企業の取り引きで、買い手側が大企業の場合において、買い手側が力関係において強いので、長い支払いサイトを求めて来ることは珍しいことではありません。

買い手にとっては、支払いサイトが長いほどに有利となります。それは、手許にキャッシュを温存することが出来るからです。一方で売り手にとっては、1日でも早い代金の受け取りが有利となります。

売り手の企業 ・・・支払いサイトが短い方が有利

買い手の企業 ・・・支払いサイトが長い方が有利

資金力において弱い中小企業にとっては、売り先からの支払いサイトが長いことは深刻な問題となります。代金を受け取るまでの間も仕入れ先からは請求書が届き、家賃や光熱費の支払いがあり、銀行から借りたお金の返済はあります。従って、未回収の代金が過大になると事態は深刻となります。

潤沢なキャッシュが手許にあるならば良いのですが、そうでなければ手許のキャッシュが枯渇して事業の継続ができなくなってしまい、売り上げがあるにもかかわらず、廃業に追い込まれてしまうのです。

「売上高があること」と「キャッシュが入ってくること」は似て非なるもの

世の中の取り引きが全て即金払いであれば、売上高と現金収入は一致するのですが、先に述べた通り、BtoBの取り引きでは、「後払い」が日常的に行われています。取引先の企業から代金を受け取るまでの期間は、売上高と収入は一致しないことになります。従って、売り上げがあった事実とキャッシュを受け取った事実は、全く違うことであると認識しておく必要があります。企業会計上で儲かっていれば、税金を支払う必要がありますが、手許にキャッシュがなければ、税金を支払うことができないという泣くに泣けない事態となってしまいます。

例えば、社長の報酬を高くして、社長個人が貯蓄をしていれば、資金繰りに困ったときに社長個人から企業側に対して貸し付けをして、当面必要とするキャッシュを確保することが可能となります。企業会計上で儲かっていない企業でも資金繰りに困らないのであれば、企業の存続は可能なのです。

黒字倒産を起こさないためには、キャッシュの流れに留意して、キャッシュがどれだけ入って来て、支払うキャッシュがどれだけ必要なのかを常に把握しておく必要があります。従って、企業会計上で儲かっているのか、あるいは儲かっていないのかと企業が存続することは別問題であることを認識して、自社のビジネスモデルを構築することが求められます。

専門家:中野真志
明治大学卒業。中小企業診断士、社会保険労務士、宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。
東京都中小企業診断士協会 城北支部所属、ビジネスイノベーションハブ株式会社 取締役、シュー・ツリー・コンサルティング パートナー、イー・マネージ・コンサルティング協同組合 組合員、日本マーケティング学会会員、人を大切にする経営学会会員。
活動分野はIT、ビジネスモデル、デザイン思考、地域活性化。
大手システム会社を6年間勤務した後、独立してフリーランスで活動、数多くのプロジェクトに参画。ITを有効活用した中小企業の経営革新を実現するために、ビジネスモデルの研究やコンサルタント、執筆、セミナー企画、セミナー講師などの活動を行う。地域誘客プロジェクト立ち上げや商店街支援など、地域に根ざした活動もしている。 主な執筆、小さな会社を「企業化」する戦略(共著)、新事業で経営を変える!(共著)、「地方創生」でまちは活性化する(共著)、地方創生とエネルギーミックス(共著)。

ノマドジャーナル編集部
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