本連載は、企業会計の初心者の方や企業会計が苦手な方向けの、専門用語の知識不要の企業会計入門です。第4回は、限界費用についてです。ポケモンGOが爆発的にユーザ数を増やすことを可能にした理由とは何か?企業会計の視点で見ると、ゲームアプリには限界費用が存在しないという特性があるからと言えます。今回は、ゲームアプリを題材として、限界費用を解説します。

インターネット、スマートフォンによるアプリのダウンロードやフェイスブック、インスタグラムをはじめとするソーシャル・ネットワーキング・サービスの利用者の劇的な拡大を可能した理由を語るにあたって、限界費用が欠かせないキーワードとなっています。

仕事の合間のコーヒーブレイクに読んで頂ければと思います。

■費用は、固定費と変動費に大別される

前提として、費用は、固定費と変動費に分類できることを知っておく必要があります。固定費とは、たとえ売り上げが一切なくとも必要となる費用のことです。レストランであれば、家賃、光熱費の基本料金やスタッフの人件費があります。変動費とは、売上高に応じて必要となる費用です。レストランであれば、来店客からオーダーを受けて、厨房で料理をするときの食材や調味料などにかかる経費が該当します。

下図では、来店客があったときに変動費が増加し、固定費は一定であることを示しています。

固定費・・・売上高に関係なく必要となる費用
変動費・・・売上高に応じて必要となる費用


■限界費用とは

レストランであれば、来店客からオーダーを受ける度に変動費が発生します。言い換えれば、来店客からオーダーを受ける度に「追加的な費用」が必要になると言えます。この「追加的な費用」のことを「限界費用」と言います。日常生活で「限界」とは、今の状態でギリギリであり、もうこれ以上は無理なときに使う言葉ですが、企業会計では「追加的な」という意味で使われているのです。

下図では、来店客があったときに追加的に発生する変動費、即ち限界費用を青色で示しています。


■限界費用の積み重ねが変動費となる

1組目の来店客があったときに発生する限界費用(下図では青色)と2組目の来店客があったときに発生する限界費用(下図では緑色)を積算することで、2組目の来店客があったときの変動費を求めることができます。

同様に、1組目の来店客があったときに発生する限界費用(下図では青色)、2組目の来店客があったときに発生する限界費用(下図では緑色)、3組目の来店客があったときに発生する限界費用(下図では黄色)を積算すると3組目の来店客があったときの変動費となります。
このように、限界費用を積算した値と変動費の値が等しくなるのです。


■限界費用が発生しないゲームアプリ

ところで、世の中には幾ら販売をしたところで、「限界費用」が発生しない商品があります。ゲームアプリをはじめとするソフトウェアです。ソフトウェアは洋服と同様に、オーダーメイド、レディーメイド、イージーオーダーに分類して捉えることができます。
オーダーメイドは、企業各々の業務やサービスに合わせて開発されるソフトウェアです。企業にとってはソフトウェアの導入も重要な設備投資となります。レディーメイドは、不特定多数の人をターゲットにしたソフトウェアです。マイクロソフトのWindowsやoffice製品、ポケモンGOをはじめとするゲームアプリがこれにあたります。

イージーオーダーは、パッケージ化されたソフトウェアに企業各々の業務やサービスに合わせてカスタマイズを行うものです。オーダーメイド、レディーメイド、イージーオーダー各々で、コスト構造も収益の流れも全く異なります。ここでは、レディーメイドによるソフトウェアを対象にして話しを進めます。

レディーメイドに分類されるソフトウェアの特性として、限界費用が実質的にゼロであることが指摘できます。それは、ソフトウェアのコピーにはコストがかからないからです。変動費は限界費用の積算で求められるので、限界費用がゼロであることは、「変動費が発生しない」と同じ意味となります。

オーダーメイドであろうがレディーメイドであろうが、ソフトウェアはリリース後の保守にかかる費用が固定費用として必要となります。それは、サーバー、ネットワークの維持管理費、機能改善にかかるコストが必要だからです。
限界費用がゼロであり、固定費が必要となるので、次に示すようなユーザ数に関係なく一定の費用となるのです。


限界費用がないということは、固定費を上回る売上高があれば、利益を確保できることになります。1商品あたりの固定費は、固定費÷販売した商品数となります。販売した商品数が分母にあるので、販売した商品数の増加に伴い、1商品あたりの固定費が減少するのです。
これは、下記の計算式で簡単に確認することができます。

固定費が100で売れた商品数が2の場合、
1商品あたりの固定費 = 固定費÷販売した商品数 = 100÷2 = 50

固定費が100で売れた商品数が100の場合は、
1商品あたりの固定費 = 固定費÷販売した商品数 = 100÷100 = 1

商品数が100の方が、1商品あたりの固定費が小さくなります。このように、規模が拡大することで収益が増加することを「規模の経済」と言います。ソフトウェアは限界費用がないので、「規模の経済」を発揮しやすいのです。その成功事例は、マイクロソフト、アップル、オラクルをはじめとして、枚挙にいとまがありません。

特にフェイスブック、インスタグラムのようなソーシャル・ネットワーキング・サービスは、どんなに市場を拡大しても限界費用がゼロであり続けるので、インターネットやスマートフォンの普及とあいまって、短期間で市場拡大を狙う企業戦略と相性が良いものとなります。

企業は成長ステージに応じて、様々な投資を行います。そのときに追加的な費用が発生すると思われるかも知れませんが、ソフトウェア開発のような一時的に発生する費用は、限界費用には含めないので、区別することになります。

 
(後編に続く)

専門家:中野真志
明治大学卒業。中小企業診断士、社会保険労務士、宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。
東京都中小企業診断士協会 城北支部所属、ビジネスイノベーションハブ株式会社 取締役、シュー・ツリー・コンサルティング パートナー、イー・マネージ・コンサルティング協同組合 組合員、日本マーケティング学会会員、人を大切にする経営学会会員。
活動分野はIT、ビジネスモデル、デザイン思考、地域活性化。
大手システム会社を6年間勤務した後、独立してフリーランスで活動、数多くのプロジェクトに参画。ITを有効活用した中小企業の経営革新を実現するために、ビジネスモデルの研究やコンサルタント、執筆、セミナー企画、セミナー講師などの活動を行う。地域誘客プロジェクト立ち上げや商店街支援など、地域に根ざした活動もしている。 主な執筆、小さな会社を「企業化」する戦略(共著)、新事業で経営を変える!(共著)、「地方創生」でまちは活性化する(共著)、地方創生とエネルギーミックス(共著)。

ノマドジャーナル編集部
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